By: Kazusei Akiyama, MD
2018年02月
今月のひとりごと:『迷走は続きますな。』
このコラムの24人の読者様には「またか」と言われそうですが、今月も「黄熱」の話しです。よくひとりごとのテーマに上がりますが、最近ブラジル、特にサンパウロ市でも黄熱パニックがおこりそうになっているので仕方ないです。去年の4月号に直近の黄熱に関する学術的なひとりごとをしており、基本的に内容に変更はありません(註1)。但し、最近の当地の傾向をみると、結論から言えば、「ブラジルへ渡航する、または生活する場合、黄熱ワクチン接種をしておいたほうが良い」と考えられます。
- 註1:黄熱の種類、ワクチン接種の勧告、ウイルスの種類、症状など。
『この原稿を書いている今日現在、とうとうサンパウロ動物園(と隣の植物園)まで閉園になってしまった。付近に住んでいる野生の猿の死亡が確認され、飼育されいる個体にも黄熱検査陽性になった為。その前に、公営の緑地公園等の閉鎖もあり(註2)、間違いなく猿類の間では黄熱が流行状態になっているぞ。野生猿類(註3)の黄熱による死亡例は去年の中頃から報告が増え続けている。騒ぎは「猿殺し」まで発展。でも猿はこの場合、何処に黄熱ウイルスが分布しているのか判明するのに重要なのだな。』
- 註2:2017年10月に州営のHorto FlorestalとParque da Cantareiraの閉鎖で始まり、2018年1月中旬現在、サンパウロ市だけで23箇所閉鎖。
- 註3:ブラジルには5科123種の猿類が確認されおり、その内サンパウロ州では10種生息(Mico-Leão-Preto, Bugio-Preto, Muriqui-do-Sul, Mico-Leão-de-Cara-Preta, Sagui-da-Serra-Escuro, Bugio-Ruivoなどが代表的。
現在ヒトの死亡例も増加中ですが、すべて「森林型」の黄熱が原因です。都市型には移行してません。なので、我々都市部の中心地の住民は理論的にいうと予防接種不要なのですが、これほどメディア(特に当地テレビメディア)が騒ぎ立て、接種勧告されていない人達が接種に殺到し、さらに騒ぎが大きくなっている現状では、接種が可能な方は日本でしてこられたほうが良いと判断します。当地ではこの騒ぎでワクチンが不足し、少量で接種(註4)する事に至ってます。ブラジルでは1942年以降、都市型の黄熱は絶滅してます。但し今回の様に森林型に感染したヒトが都市部で繁殖している「ネッタイシマカ」に吸血されると、都市型に移行する訳ですね。従って、前からこのコラムでもうるさく言っている「各自宅で蚊の対策=繁殖させない」のが実は一番重要なのです。
- 註4::fraccionated vaccination。ワクチン基準量0.5mLのところ、0.1mL使用、サンパウロ州、リオ州、バイア州で実施。黄熱の場合、基準値と同じ予防率であるが、有効期限が8年(基準の場合、生涯有効)。
『今回の黄熱騒ぎは2016年12月にミナス州で始まった。場所はドッセ川流域。そこからエスピリトサント州に広がった。そのため、2016年11月にドッセ川上流でおこった鉱滓ダム決壊事故が今回勃発の痕本にあるのではないかという一説がある。つまり、ドッセ川汚染が原因で魚が全滅、蛙類が激減したため、蚊のボウフラや成虫の天敵がいなくなったので蚊の暴発が起こったのでは?という説。筆者は一理あると思うけど。』