ブラジルは今、黄熱迷走中ですな。

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年04月

今月のひとりごと:『ブラジルは今、黄熱迷走中ですな。』

先月号にも記載した当地ブラジルで流行中の「黄熱」が迷走しているのはないでしょうか?まず、黄熱ワクチン接種の勧告を記載します:「流行地域(註1)に住んでいるまたは旅行する以外はワクチン接種は勧告されてません。つまり、「どうしてもそれらの地区へ行く必要がある人が予防接種すべき」は各方面の同意があるようですが、その「流行地域」がどこか?で迷走です。WHO世界保健機関が3月にサンパウロ州とリオデジャネイロ州いずれも全域(州都のサンパウロ市とリオ市及びカンピーナス市、ニテロイ市を除く)に旅行する旅行者にワクチン接種の勧告が出ました。ブラジルの厚生省はこの勧告には反対してます。リオ州は全域を認めるが、サンパウロ州は一部必要ということです。しかし、サンパウロ州保健局は連邦政府厚生省と同調しておらず、リオ州の流行地域14行政地区への対応で十分と発表してます。いったいどうしたら良いのでしょうか?

  • 註1:2017年3月下旬時点でブラジルの次の各地の山林地帯、河川地帯:北地方(アマゾン地方)、中西地方(ブラジリアを含む)の全域、マラニョン州全体、ピアウイ州南西、バイア州西と南、ミナス州全域、サンパウロ州西、エスピリトサント州北、南地方(パラナ州、サンタカタリーナ州、リオグランデドスル州)の西(イグアスを含む)。

『まず、現時点では当地で流行の黄熱は「森林地域」とウイルスの宿主になる「野生の猿類」が関係しており、媒介する蚊も都市部でデング熱やジカ熱を媒介するネッタイシマカのAedes属ではなく、森林系のSabethes属とHaemagogus属の媒介であることが判明している。学術的に正確にいうと、黄熱ウイルスは3種類のライフサイクルがある:①熱帯雨林型、②都市型、③中間型。熱帯雨林型は森林型ともいわれ、森林内で猿と蚊の間の伝播である。都市型サイクルはヒトと蚊の間の伝播であり、Aedes属の蚊が媒介蚊となる。中間型は森林(ジャングル)の周辺境界部で見られるサイクルでヒトー蚊ー猿の間の感染環になる。今回のブラジルでの流行は「中間型サイクル」と言える。(註2)つまり、田舎、森林地帯やその周辺へ行く場合がリスクになり、それ以外はリスクがほとんど無いと言える。』

  • 註2:ブラジルでは都市型サイクルの黄熱は1942年以来観察されてません。20世紀の初めにリオの市街地で大流行した黄熱は都市型サイクルでしたが、これは撲滅されてます。

黄熱はフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルス感染です。感染は媒介動物の蚊に刺され、感染します。ヒトからヒトへの感染は成立しません(註3)。黄熱ウイルスに感染しても、全員発症することはありません(註4)。蚊に咬まれてから3日~6日の潜伏期間があり、発症した者には高熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、背部痛、悪心嘔吐等の症状が現れます(註5)。しかし、発症した15%程度が重症化し、一時期の寛解期を経て熱が再燃し、下痢、黄疸、出血、肝不全、腎不全、ショックなどに至り、約50%が死亡します(註6)。ヒトが感染源になるのは、約1週間で、発症2日前くらいから発症後5日の期間でその間に蚊が吸血すると蚊が感染します。

  • 註3:ので、この場合は性感染や垂直感染はしません。
  • 註4:不顕性感染と呼ばれます。
  • 註5:風土病化している地域では軽い症状や不顕性感染が多い。
  • 註6:ブラジルの実績。

特異的な治療はないので、発症すると対症療法になります。しかし、ワクチン接種が有効性が高いので予防が出来る疾病です。黄熱ワクチンは安全性が高い製品とされてますが、生きたウイルスを使った弱毒化ウイルスワクチンなので、接種した5~10%に軽い黄熱の症状が出ます(接種後5~10日後)。誰でも受けて良いワクチンではありません。次の状況、人口は接種するのは勧告されません:

①6ヶ月歳以下(註7)②妊婦 ③卵アレルギーがある者 ④以前他のウイルスワクチンでアレルギーがあった者 ⑤60歳以上の者 ⑥免疫不全がある者(註8)⑦大量の副腎皮質ホルモン投与中の者。これらは予防接種を受けても良い(リスクがあっても受けた方が良い)場合もあるので、医師に相談してください。

  • 註7:脳炎のリスクのため。日本国の勧告は9ヶ月歳以下。
  • 註8:HIV感染者、悪性ガン患者、化学療法あるいは放射線療法を受けている者、骨髄不全や骨髄移植を受けた者。

『予防接種が有効な疾患であるが、副作用が多いワクチンなので賢く利用するのが良いと思うぞ。当地では特に前出の森林周辺境界部へ行くのを検討したほうがよいのでは(註9)?また、2016年7月にWHOが黄熱ワクチン接種の有効期間を1回の接種で10年有効から一生涯に変更した。しかし、この改定はまだ浸透してないようで、ブラジル厚生省の様に10年間とするところも多々あり、これも迷走のひとつだな。』

  • 註9:邦人観光が多いイグアスの滝が正に森林周辺境界部なので、行くメリットと予防接種するメリットを天秤にかけてください。

過去の感染症に関するひとりごとも併せてご覧ください:2015/5デング熱2014/3シャーガス病2010/4デング熱と黄熱