By: Kazusei Akiyama, MD
2017年12月
今月のひとりごと:『私は高血圧になったのでしょうか?』
このところ、カタい医療の話しばかりですね。このコラムの24人の読者様から面白くないとクレームをいただきそうですが、今月は身近な健康問題を取り上げますのでお許しください。表題の質問は先月(2017年11月)にアメリカの学会が高血圧の新基準を発表したためです(註1)。それまで血圧139mmHg/89mmHg(以下単位mmHgを省略)まで「高血圧」の診断名がつかなかったのが、119/79以上は高血圧との見解になったからです。
- 註1:AHA(American Heart Association)とACC(American College of Cardiology) が主導。今月12月号のHypertension紙に記載されます。
『これによって、いわゆる高血圧と診断名が付く人口が爆発的に増大した。新基準を出した米国学会によると高血圧の有病率(註2)36.9%から45.6%へ上昇したのだな。昨日まで「正常範囲」だったのが朝起きたら「高血圧」になっていた!医学というものは日進月歩で色んな発見や常識の見直しがあるが、患者さん側からみたら「またか?!」といったところではないか?コレステロールや血糖値の正常値の基準変化(註3)で治療対象になった人達はいっぱいいるからな。』
- 註2:prevalence 一定の人口に対してある疾病が存在する比率。
- 註3:これら基準変化についてはまたひとりごとします。
成人の約30%、4000万人高血圧の人がいるとされる日本では反面、正常範囲を上げる方向にあります。2004年の基準では129/84まで正常とあったのが、2014年に139/89(日本高血圧学会)、147/94(日本人間ドック学会)を新基準としてます。
表:高血圧の診断と分類:
『基準値を上げた根拠は「健康と判断された人達の95%が血圧147/94以内であった」からだな。医学では「普通・正常」とされるのは、「大多数に認められる」のが大定義であるので、その点は間違っていない。しかし、「殆どの人に見つかるから正常」の概念も時には困る。大多数の人が「ある病気」になれば、その定義からいくと「ある病気」が普通になるからな。』
我々は間違いなく高血圧になりやすい生活をしているのだと考えます。いわゆるメタボリックシンドロームと関係のある脂質異常症、耐糖能異常、高血圧の基準値が厳しくなるのも生活習慣を反映したものでしょう。今回の高血圧新基準の場合も一応、体重の減量、カロリーと食塩を制限した食事、カリウムの摂取を増やす、1日最低30分の運動(註4)およびアルコール摂取の抑制を治療の根幹とするとしています。
- 註4:これは例えば通勤時に歩くのでもいいのだが、この勧告がでる事はそれすらしない人が大勢いる事実を示している。
『ただ、そのような生活習慣を維持できないから高血圧になるのではないかと考える。「新基準で高血圧と診断されましたので、じゃあ、勧告通りにします」とはいかないだろう。なので、薬物投与がメインになるのではないかと思うぞ。どんな薬でも副作用があり、降圧剤も然り。手放しで喜んで良いものではない。喜ぶのは製薬会社だな。』
この様に、正常値とは絶対的なモノではありません。また、民族や生活環境により、状況やリスクが変わります。しかし、「血圧は低めが良い」のは医学界の合意です。一般成人は出来るだけ120/80以下を目指す事が重要だと考えます。降圧目標値は年齢や合併症により変わります。ケースバイケースなのでかかりつけ医に相談することが大事です。高血圧は徐々に循環器を壊していきます。普通、症状がでるのは合併症が出現した時で、手遅れの状態も多々ありますので普段からご自身の血圧を把握する事も有用です(註5、6、7)。さらに詳しく知りたい方は日本の国立循環器病研究センターのHPを参照ください。
- 註5:自分で測る血圧を「家庭血圧」といいます。色んな製品が出ており、お勧めは上腕で測定する器機ですが、手首でも可です。家庭血圧で重要なのは絶対値ではなく、普段からの数値の把握で、そこから外れる事が多いと異常がおこっている事がわかります。
- 註6:家庭血圧の測定方法:血圧計は各自使用、使い回ししない。1日1回で十分。いつも同じ時間帯、同じ姿勢で2回測り、平均値をメモする(自動的に平均値を出す機種が便利です)。
- 註7:O社、T社、P社、C社など日本に本社がある製品がおすすめです。ブラジルの薬局でも販売されてます(モデルにより100〜250レアル)。