ブラジル医療事情:薬の購入

Collection. Jaguariúna. Caju©2007

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(7)ー 「薬の購入」 {2024年11月改稿}

当地は医薬分業が基本システムなので、医師に処方されたお薬は原則院外薬局で購入することになります。ブラジルの薬局は本来医療システムの一部といった考え方であるべきなのですが、完全に商業ととらえられています。したがって、うっかり信用すると、その「お店」の利益になる商法に巻き込まれたりします。

薬には「先発品」と「後発品」があり、さらに後発品には「類似品(medicamento similar)」と「ジェネリック品(medicamento genérico)」があります。先発品(medicamento de referência)とは初めてある薬物の認可をとったもので特許が切れたものがベースとなり後発品が生産されます。ブラジルでは類似品に落とし穴が多く見られ、注意が必要です。類似品は「先発品と同じ成分ですよ」と当局に申告するだけで認可されますので、審査が厳格とはいえません。その点ジェネリック(ブラジル名GENERICO)は減税の対象となるため、「先発品と同じ効き方である証明=溶出試験や生物学的同等性試験など」が必要であり、審査も厳格で、品質は信頼に足るものといえるべきです。しかし、2002年以降、政府や当局の汚職のため品質の担保が必ずしもあるとは言えない残念な状況です。ジェネリック医薬品を使用する場合は必ず担当医に確認する必要があると考えます。

ブラジルではネットで通販部門も出しているような大手の薬局をお選びいただくことをぜひお勧めします。悪質な薬局では「同じですから」といって類似品を売ったり、「これしかありません」と用量以上の数量を出したりと色々トラブルが絶えません。サンパウロの薬局では薬剤師が常勤する義務があり、それらがカウンターで販売員をしている事がありますが、それでも出されたお薬を鵜呑みにしてはいけません。当地は責任をもって仕事をしている事があまりないので、購入者自身も商品を確認する事が大事です。


 

 

 

ブラジル医療事情:入院の仕方

 

Otomemaimai (Trishoplita goodwini). Yoshino-cho. Caju©2009

By: Kazusei Akiyama、MD

ブラジルの医療事情(6) ー  入院 {2024年11月改稿}

海外で病気の治療を受ける中でも、入院は一番不安とストレスが伴うものです。理由は二つあります。一つは入院という自宅で療養できない、または手術が必要など健康状態が著しく悪化している状態であること。二つ目は数ある医療行為の中でも、一番費用がかかり、時間が長くかかる治療だからです。今回は入院の問題について解説します。

入院をするにはまず医師の診断入院指示があります。これは個人オフィスの専門医の場合と病院の救急部門の場合が考えられます。救急部門で入院と診断された場合は、もちろんその病院に入院することになります。そのため、この様な場合に重要なのはどの病院に駆け込むか、ということです。ブラジルでは医療機関はピンからキリまでありますから、ちゃんとした病院でないと後々大変です。専門医の場合は、使い慣れた病院や、実施する手術の技術的な環境が整った病院などを選択することが多いようです。また、以前にも書いたように、使用する医療保険により、病院の制限があることがあります。これは特にブラジル国内で加入されるconvenioと呼ばれる保険の提携診療に多く見られます。

手術をする病院が決まったら、医師の入院指示書を持って病院の入院受付(setor de internação)に赴きます。そこで、カルテの作成や使用する保険(あるいは自費)の提示、入院同意書、手術同意書などの手続きをします。日本の海外傷害保険などの場合は、それらの保険会社が海外で提携している病院でなければ、全額自費扱いとなり、後日、保険会社から払い戻しを受ける形になります。ここでよく問題になるのが、caução(カウソン)と呼ばれる入院保証金を要求されることです。近年ではクレジットカードで事前支払が多いですが、小切手が使える場合があります。病院が医療提供する時にカウソンを要求するのは法律違反とされています(憲法違憲、消費者保護法違反、など)。が、それでも要求されることが後を絶たないのですが、法廷で争っている時間などありませんので、泣き寝入りになります。具体的には入院内容によりますが、2万レアル程度からの金額の様です。ブラジルの提携保険の場合は入院保証金はありません。

蛇足ですが、この場合病院が足下につけ込んでいるようですが、反対にブラジルでは借金を踏み倒してなんぼのものと考える人たちがかなりいます。特にお金持ちに多くみられるようです。一躍有名なのはコーロル元大統領のご母堂(最終的に入院中死亡)の踏み倒しですが、一国の元最高指導者ですらこの有様です。ブラジルでは裁判所の判決が非常に時間がかかりますので法律違反でもまず自衛を優先するわけですね。

お部屋(基本的に個室)に入ると、看護士の問診、麻酔科医の診察、予備検査、準備などがあります。日系の病院であっても、これらのスタッフは必ずしも日本語ができるとは限りませんので、ポルトガル語が出来ない方はこの場面では通訳が必要と思われます。準備が終わると、麻酔前投薬が行われ、次に目が覚めるとすでに手術が終わっていて、ICU病床や元のお部屋に戻っていることになります。日本に比べて、比較的早く起床させられます。できるだけ早く動いたほうが、特に血栓症など術後の副反応が少なくなるからです。手術の翌日に自分でシャワーを浴びるなど日本人にはびっくりするような行為がありますが、いざやってみると意外にできるものです。また、入院期間も比較的短期間になっています。これは必要最小限の回復を病院でしてもらい、早くベッドを開けることと、入院を長くすることで起こりうる院内感染などの問題を減らすという目的があります。

入院中は検温や投薬、食事の上げ下げなど常時人の出入りがあり、いちいちポルトガル語で対応しないといけないのは大変です。しかし、お世話をしてくれる人たちは、外国人であってもちゃんと会話をしようとする姿勢がありますので、さほど深刻な問題ではないと考えます。ブラジルの病院はホスピタリティと呼ばれる医療以外のいわゆるホテル機能が大変発達してます。特に食事制限がない場合、院内外のレストランから出前を頼むことも可能ですし、時間外の食事に対応してくれたりします。また、付き添い人がお部屋で宿泊できるようにもなっています。そして人員の余裕が有りますので、処置に時間がかかってもいやな顔をされることが少ないように思われます。この優れたホスピタリティのため、出産のように予定される入院でブラジルの病院を選択される方もかなりおられるようです。

ブラジルでの入院中は、多少わがままを言ってみてはいかがでしょうか?


ブラジル医療事情:検査の受け方

Vaccinium sp.. São Paulo. Caju©2016

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(5) ー 検査の受け方{2024年11月改稿}

今回のテーマもブラジルと日本では随分システムが違います。病院にかかった折に検査が必要となった場合、日本では基本的に診察を受けている医院や病院で検査をします。いわゆる検査の外注は希です。受診中の医療機関でできない検査であれば、適切な検査機関に紹介されますが、検査のみの依頼ではなく、患者さんの診察および精密検査の依頼、つまり転医になります。この様な流れになってますので、医療機関ではある程度検査ができる環境を整えておかなければなりません。このシステムならばどこでも受診すればある程度の検査ができるので便利です。しかし、設備投資に多大な費用がかかり、特に小さな診療所などでは大きな負担になり、そのため、検査費を稼ぐため、不要の検査をする所も出てくるわけです。また、日々進歩する医療検査機器に対応しなければなりません。

ブラジルでは医院レベルの診療科で必須の検査—例えば産婦人科にエコー検査や子宮癌検査など—があるのを除き、検査はほとんど外注になります。このシステムであれば、医院側が設備投資をしなくても常に最新、最善の検査で診療を進めることが可能です。また患者さんが主治医を変えなくても良いのも利点です。もっとも、検査機関まで移動する必要がある、という難点はありますが。

ではどのように検査を受けるのか?

「腹痛で内科医を受診」した例で解説してみます。まず診察を受けます(診察の受け方は前編参照)。検査が必要であると医師が判断した場合、検査指示書が出ます。この例の場合、血液検査、尿検査、大便検査、上腹部エコーの指示が出たとします。検査によっては時間の予約が必要ですので、担当医と検査機関についての確認をします。また、保険の種類により、使用できる検査機関の制限あるいは事前許可がありますので、保険会社と確認が必要です。一般的な血液検査や尿検査は予約は不要ですが、一定の条件(絶食の時間や検体採取時間帯の制限、付添人の有無など)が満たされていないと検査ができず、出直さなれればならなくなりますので、これらの検査の条件も確認します。そして、検査機関をどこにするかを担当医と相談します。

さて、必要条件を満たした上で予約のとおりに決められた検査機関に行きます。そこでもまず、カルテの作成があります。名前や住所、CPF(ブラジル納税者番号)の他、服用中のお薬やアレルギーなどの質問があります。ちゃんとした検査機関では医師が常勤してますので、分からなければ主治医と連絡を取るなど対応してくれます。カルテ作成時に結果の渡し方について尋ねられます。数字だけの結果であればインターネットで閲覧するのが一般的ですが、写真など画像がある場合、後日取りに行くか、配達を依頼するか決める必要があります。支払はカード使用が一般的です。

カルテができると、待合室に案内され、名前を呼ばれたら採血の部屋に入り、本人確認があります。採血が終わったら確かに採血しましたといった旨のサインをし、採尿と検便のキットを渡され、採取場所(トイレなど)に案内されます。採ったものを返せば次はエコーですが、大便が採れなかった場合、後日持参でも構いません。エコーの待合室で呼ばれたら更衣室で検査用の衣類に着替え、検査室に行きます。エコーが済めば、検査終了です。

検査は往々絶食状態で受けるので、検査後用に軽いスナックや飲み物が無料で用意されている検査機関が多いです。いつ検査結果ができ上がるのかは、カルテを作った時点で提示されますので、それ以降に検査持参で指示を出した主治医の再診を受けます。

血液検査や簡易な画像や機能検査は自宅まで来てくれるサービスもあります。それほど急を要する検査ではない場合や慢性疾患の定期検診の場合などでしたら検査機関まで出向く必要がなくなります。このようなサービスも上手に使ってみてはいかがでしょうか?

ちなみに総合病院では検査の方法は日本と同じシステムですが、外来がない病院もあり、その場合は医師のオフィスに出向く必要があります。また、救急部門では必ずしも気に入った医師が勤務しているとは限りませんし、毎回同じ医師に当たるわけではありません。専門医院と総合病院、どちらを選ぶかは患者さん次第です。