ブラジル医療事情:電子処方箋の扱い方

Sailor. São Paulo. Caju©2015

By: Kazusei Akiyama, MD


ブラジルの医療事情(8)ー 「電子処方箋の扱い方」

当地では以前より遠隔医療の整備が議論されてきてました。コロナ禍がこの整備を一気に加速させ、その一環として電子処方箋が普及してます。電子処方箋には医師の電子署名が付与されますので、法的に直筆署名の処方箋と同じ法的効力があります。ブラジルには四種類も医療用処方箋がありますので、その特徴などはこちらをご覧ください。

現在、CFM(Conselho Federal de Medicina, 連邦医師評議会)のアプリを始め、memed、eleve、HiDoctor、Receita Digital、Doutor Prescreve等、色んな企業が参入してます。当院でもオンライン診察などで使用しているmemedを例に電子処方箋の利用方法を説明します。

電子処方箋の名称:ポルトガル語では「Receita Digital」、発音は「ヘセイタ・ジジタウ」、または、「Prescrição Eletrônica」、発音は「プレスクリソン・エレトロニカ」。

電子処方箋は携帯電話(スマホ)に送信されます。ご利用いただくには、お名前以外に、

  • 「SMS受診可能なブラジルの携帯電話(スマートフォン)番号」
  • 「CPF、ブラジル納税者番号」
  • 「住所(抗生剤など用の2毎綴りのReceita Controle Especialを発行の場合必須)」

のご用意が必要です。パソコンに電子メールとして受信する事も可能ですが、どのみち携帯電話番号は必須です。パソコンで受信した場合、処方箋を印刷する必要があります。

以下の図が携帯電話画面です。

医師が処方箋を発行すると、患者さんの携帯電話SMSアプリに次のメッセージが入ります(図1、図2)。

図1 携帯待ち受け画面

図2 SMSアプリのメッセージ

 

初めて使用する場合、承認確認画面があります。利用者の個人情報をアプリ運営会社と共有する場合「Aceitar e continuar」をクリックして続けます。共有しない場合は「Continuar sem compartilhar」をクリックして続けます(図3)。個人情報の共有は適当な薬局やセールの提案のためです。必須ではありません。

図3 初回のみ処方箋アプリ利用承認画面

 

処方が出てきます。(図4)。

図4 処方画面

 

処方箋の電子認証の有無、医師名と患者名の確認をする場合、画面の「+Ver detalhes」をクリックします。すると、ユーザー確認画面が出てきます。ここで、現在使用している携帯電話番号の下4桁の数字を入力し、「Confirmar」をクリックします(図5)。

図5 ユーザー確認画面

 

処方箋の電子認証の有無、医師名と患者名の確認が出てきます(図6)。この確認作業は必須ではありません。

図6 処方箋の確認画面

 

図4画面を下にスクロールすると、QRコードが出てきます。これを薬局に提示する方法が一番簡単です。(図7)。

図7 処方箋のQRコード

 

携帯電話を薬局に持参したくない場合は、処方箋を印刷して提出する事もできます。図4あるいは図7の「Baixar receita」をクリックすると図5のユーザー確認画面になります。ユーザー確認すると処方箋ダウンロード画面がでてきます(図8)。「ダウンロード」をクリックし、「OK, entendi」をクリックして終了します。ダウンロード先は各々のスマホで事前設定された場所です。

図8 処方箋ダウンロード画面

 

印刷用のダウンロードされた処方箋は次のような書類です(図9)。

図9 一般処方箋(Receita Simples)

 

抗生剤や抗うつ剤など2通のContole Especial処方箋の場合はこの印刷用です(図10)。

図10

 

以上が秋山一誠診療所発行の電子処方箋の扱い方です。不明な点はお問い合わせください。(電子処方箋発行アプリmemedの画面は2024年10月現在のものです)

ブラジル医療事情:診察の受け方

Bolinhas. São Paulo. Caju©2004

By: Kazusei Akiyama、MD

ブラジルの医療事情(4) − 診察の受け方 {2024年11月改稿}

このシリーズの一回目で記載したように、ブラジルの医療システムは日本と違う点がかなりあります。今回は実際の診察の受け方について解説しましょう。ポイントは4つ。まず一般的に予約制であること、次に自由診療保険診療が混在すること、診察時間や再診の仕方が異なること、そして支払い方法が異なることです。では腹痛で受診するといった例で診察の流れを解説します。

最初に診察の予約を取ります。一般的には電話またはSMSを使用します。日本語可の診察機関もあれば不可の場合も有りますが、専門性が高い医療機関ほど不可の傾向が強いようです。また、専門性の高い診察ほど、会話の内容も高度になりますので、通訳の手配が必要になる場合が多いです。

予約で尋ねられるのは、氏名、年齢、紹介元、連絡先、などの他、自由診療(パルチクラール particular、直訳すると私費診療、自費診療)か保険診療(コンベニオ convenio 、直訳すると提携診療)かを尋ねられます。医療報酬の請求の仕方が異なり、自由診療では医療費を患者さんに請求し、提携診療では直接保険会社に請求するためです。したがって提携診療はゼロ割負担になります。しかし、提携診療の方が医療報酬が圧倒的に少ないため、時間や曜日の制限が見られます(早い話、診察が短いわけです)。この傾向はブラジル国内で加入した医療保険では普通ですが、海外で加入した傷害保険などではその限りではありません。そのため、診察は自由診療で受診し、可能であれば後で保険会社から医療費の払い戻しを受けるのが賢いブラジル人の診察の受け方です。

予約の時に診察理由を聞かれることがありますが、聞いている相手は大抵事務方であり専門家ではありませんので、ここでは「昨日からお腹が痛い」ぐらいの簡単な症状を伝える程度で十分です。

次に予約した日時に医療機関に出向きます。この時、以前受けた検査結果などを持参すると、診察の参考になります。ブラジルでは検査結果は患者さんの所有物であり、本人が管理するものと考えられていますので、ちゃんと保管しておきましょう。初診ですと、カルテの作成があります。提携診療の場合、この場面で提携保険のカードを提出します。日本のように診察券は一般的ではありません。

診察時間は自由診療の場合、最低30分はかかります。じっくり話を聞いた上で、身体検査をし、必要があれば血液や大便検査、エコーやCT等画像検査、内視鏡などの検査指示がでます。ほとんどの場合、検査は別途検査機関に出向くことになります。検査費が医師の儲けになるわけではないのが日本と異なるところです。提携診療の場合、保険内容と検査内容により、保険会社の許可が必要であったり、利用可能な検査機関の制限があったりします。

診察時に、再診の有無、回数、検査結果の受け取り方法(自分が受け取って次回再診の時に持参するのか、直接医師に送られてくるのかなど)、医療費用や診断書の作成なども医師と直接相談します。一回の診察で済み、かつ、海外傷害保険などで後日払い戻し制度を利用する場合、ここで保険請求用診断書の作成も依頼します。

日本ではほとんどが保険診療なため、3割とか1割の自己負担分を(場合によっては薬代と検査代も含め)診察機関に支払いますが、ブラジルでは、診察機関、薬局、検査機関などの支払いは別々に行います(自由診療の場合)。支払は現金以外にクレジットカードの使用ができます。小切手も可能ですが近年あまり使われなくなってます。外貨での請求は法律で禁止されてます。再診・通院が多いなどの場合、月極や一括支払いも可能です。提携診療の場合、診察費と検査費の支払いは無く、薬代は大手の薬局などでは割引があることもあります。しかし、上記のような制限があります。海外傷害保険(海外旅行保険)では薬代と検査費用、交通費なども医療費として請求できますので、領収書の保管が大切です。いずれにしても、自由診療で受診するのか、提携診療で受診するのか、またどの保険会社を利用するのか等をしっかり把握しておくことが重要なポイントといえるでしょう。邦人がブラジルの健康保険に加入されている場合、診察は自由診療、検査は提携診療を使用する方法もよくみられます。

少し蛇足です。日本の国民健康保険に加入している場合、「海外療養費の請求制度」が適用でき、海外で生じた医療費も一部払い戻しがあります。領収書は必ずとっておきましょう。


ブラジル医療事情:医療機関の選び方

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(2)ー 医療機関の選び方{2024年11月校閲}

今回は病院や医者などの医療機関を選ぶ際、なにが重要なポイントとなるかについて考えてみます。一般的に、患者さんにとって良い医療機関とは患者を大切に扱ってくれる機関であり、その上で技術レベルの高さ(先端医療を含む)、アクセスの良さ(近い、行きやすい)、コミュニケーションの取りやすさ(言語や情報の透明性)、丁寧な対応(ホスピタリティ)、衛生的で清潔感のある施設、などといった条件が続き、またこれらに見合う対価、つまり納得のいく費用であることが理想的ではないでしょうか?結論から言うと、このような理想的なものが全て揃っている所はまず存在しないと思った方が良いでしょう。さらに、ブラジルに在住されている邦人の皆さんにとっては言葉の問題が大きく、日本語が通じるか否かによって選ばざるを得ないという、選択範囲の狭さがネックになってくると考えます。

言葉の問題はさておき、病気やケガの内容など、個々のケースにより医療機関選びのポイントは変わってきます。遠くに移動するのが難しい病気や頻繁に通院が必要な場合であれば近所にあったほうが便利ですし、難しい手術や検査が必要になれば技術レベルが重要になるわけです。また、医療技術的にはそれほど格差のない、例えば出産などの場合でも、産院によってホスピタリティやルームサービスが違ったり、母子同室かどうかなど、方針の差がある医療もあります。ですから、必要に応じて医療機関を使い分けるということが大切になってきます。

現在はいろいろな方法で病気や医療に関する情報が手に入ります。受診する前、すでに患者さんが病気や検査の情報をもっておられて診療がスムーズになることがある反面、それらの情報が原因で不安になってしまうことも多く見られます。そのため、診察の形式も変わってきました。最近では診察時間の8割が病気や検査の説明やインフォームド・コンセント(患者の同意)など情報の処理にあてられているとする試算もあります。

ですから、今回のテーマである「医療機関選び」でも確かな情報や判断が必要となってきます。筆者はこれには医療のプロの力が必要なのではないかと考えています。各々の事情にあった医療機関の手配や紹介、専門医療から送られる情報の分析や解説、患者さんの医療情報の管理をするなどの「かかりつけ医」がまさにその「プロの力」にあたります。母国はもちろん、あまり勝手の分からないブラジルではなおさら、小さなことでもまず相談出来る医者をみつけておくのが、上手な医療機関選びの第一歩であると力説します。

少し蛇足になりますが、ブラジルでは「医師国家試験」が存在しません。医学部を卒業して医師評議会(Conselho Regional de Medicina)というお役所に登録をすれば医者になれます。あまり厳格なシステムとは言えませんのでニセ医者も結構いるようです。そのため、医師評議会のインターネットサイトで本物かどうかをチェックできるようになっています。医者であれば必ずCRMと呼ばれる免許番号を提示する義務があり、この番号と名前をネットで照合することができますので、ぜひご活用ください。顔写真もチェックできます。サンパウロ州ではホームページwww.cremesp.org.brのENCONTRE UM MÉDICOボタンから検索できます。サンパウロ州以外はwww.cfm.org.brを利用できます。HPトップメニュー内Cidadão内Buscar por médicosが検索画面です。ちなみに筆者の免許番号は64223です。


ブラジル医療事情:医療制度の違い

Sunset at Northern Minas Gerais State. Gouveia. Caju©2010

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(1)- 医療制度のちがい {2024年11月改稿}

外国での生活にはたくさんの不安がつきものです。その原因には言葉の壁、衣食住、治安、教育、健康など、様々な問題があるでしょう。特に精神的にも不安定になりがちな「病気」や「医療」に対する危惧はかなり高い位置にあるのは間違いないです。たとえば、いままでと同じ治療は続けられるのか。病気になったらどの病院にかかればいいのか。流行している病気やその土地特有の風土病はあるのか。その病気の予防はできるのか。などなど、健康面での不安は数え上げたらきりがありません。

もちろん、日頃から体調管理を万全にして健康な生活を送り、医療機関のお世話にならないのが一番です。でも、人間生きている限り、病気やケガと無縁ではいられません。また体調管理のための健康診断や定期検診など、予防として医療機関を利用することも多々あります。

この欄では、筆者が1995年の開業以来邦人の方を多く診療させていただいている経験をふまえ、日本人の方々から受けた相談やお悩みを元に、ブラジルの医療事情について解説します。

さて、日本の独立行政法人「海外勤務健康管理センター」が2002年に実施した調査によると「海外の医療機関への不満」の上位には次の4項目が挙げられました。

  1.  医療費が高い
  2.  言葉が通じない
  3.  医療レベルに不安がある
  4.  医療システムがむずかしい

1の医療費に関しては、実は日本もブラジルも、平均的にはそれほど変わりはありません。日本には「健康保険(国民皆保険制)」という制度があるため、自己負担は治療費の1割から3割です。しかしブラジルでは駐在員のような外国人には全額自己負担(日本で言う10割負担)になるため、高く感じるのではないでしょうか。

次に2の言葉に関しては、どれだけ流暢にポルトガル語が話せる方であっても、医療や健康に関する会話は専門用語が多いので、日本語と同じというわけにはいきません。特に病気にかかった時には不安が先行し、言葉に対する自信も失いがちです。仮に医療機関側に日本語の堪能な医師などがいたとしても、文化的・習慣的な違いや微妙なニュアンスまで理解できるかといえば、非常に難しいのではないでしょうか。病気に対する訴えの捉え方の違いなどもあるかもしれません。

3の医療レベルに対する不安は、ブラジルを含む発展途上国の滞在者に多くみられるようです。しかし、一般的に日本人が滞在する大都市周辺には先進国レベルの医療機関が多くありますので、それほど心配する必要はないと考えます。要はレベルの高い病院などをどのようにして見つけるか、受診するか、が問題なのです。

4については、どんな場面でもシステムが違うとむずかしく感じられるものです。それは医療においても例外ではありません。ですから、違いをはっきり認識することが、この問題を解決する糸口ではないかと思われます。そこで、おおまかな制度の違いを表にしましたので、ぜひ参考になさってください。

表:日本とブラジルの医療システムの違い