By: Kazusei Akiyama, M.D.
2021年1月
汚染、感染、伝染のちがいは?
謹賀新年。このコラムの24人の読者様には是非今年はよい年でありますように!新語・流行語が「3密」であったように、去年はコロナで振り回された1年でした。この年末年始も感染拡大感染拡大と世間は騒いでいます。そこで気付いたのが、こんなに言われている言葉「感染」ってどういうことか皆解っているのか?です。コロナ対策でああしろこうしろと呼びかけがありますが、以外となんでやっているのか解らない人が多いようなのです。理由がわかれば行動もしやすくなると思いますので、今回は感染について考えてみましょう。
元々、「感染」とは微生物が生体内に侵入し、生体内で定着し、増殖し、寄生になった状態を指します。感染イコール疾病ではありません。つまり、生体にとって利点のある感染もあるわけです。
『最近注目されている腸活、つまり、善玉の腸内菌を育てるのなんかはおこってうれしい感染だな。』
感染が拡大しているということは、市中に感染の元が沢山出回っているということで、その一部が疾病になるので「大変!」になるわけです。つまり、疾病になるリスクが増えると言うことで、厳密には、疾病が増えている状況を表す言葉ではないのです。しかし、一定度増えるので、大変になります。
感染が成立するには「感染源」、「感受性体」、「感染経路」の三要素が必要です。
- 感染源:感染の原因となる微生物を含むモノ(微生物そのものではありません)
- 感受性体:感染の原因となる微生物が進入し、増殖する生体
- 感染経路:微生物が感染源より感受性体に進入する経路
これら三要素は「感染の連鎖」と呼ばれ、この連鎖を断ち切る事が感染管理の原則となります。
『コロナ対策の三密をさける、マスク使用、手洗いは結局感染経路をなくす処置であることがわかる。経路が無くなれば、感染が成立しない。』
感染源は大きく分けて2つに考えます。まず感染者や昆虫などを含む感染動物が生産するモノ:排泄物、嘔吐物、血液、唾液、粘液、精液など。次にその感染者や動物が触れた物体や食品、これを汚染物質や汚染物体と呼びます。感染源の中には病原性微生物と呼ばれる病原体が入っています。これらは次の5種類に大きく分類(これら以外にもありますが、狭義なので、実際はこれら5分類で考えていただいて問題ないです)されます:
- ウイルス:生物学的存在と呼ばれる。ウイルスは細胞を構成単位とせず、自己増殖はできないが、遺伝子を有するという、非生物・生物両方の特性を持っている。例:麻疹ウイルス。
- 細菌(バクテリア):細胞膜を持つ原核生物。例:溶連菌。
- カビ(菌類):菌糸と呼ばれる糸状の細胞からなり、胞子によって増殖する菌類のこと。例:真菌(カンジダ菌)。
- 原虫:単細胞生物的で、真核細胞であり、細菌類ではなく、菌糸のような構造を持たず、つまり菌類とは思われない微生物。例:マラリア原虫。
- プリオン:タンパク質から成る感染性因子。厳密に言えば生物では無く、生物の産生物質。
病原体は次の特徴があります:
- 肉眼や外観から見えない。
- 発病の責任因子である、つまり病原体が作用していると発症し、作用していないと発症しない。
- 伝染性がある、つまり病気になったヒトから接触や空気などを介して他のヒトに伝達する。
- 増殖性がある、つまり伝染によって患者が増え、病原体自体も増える。
- 可搬性がある、つまり発症しているヒトが移動して、新たな場所で伝染病が発生する。
『これらの特徴にも、コロナに対する対策のヒントがいっぱい詰まってますね。』
感染経路は大きく分けて2つあります。まず「垂直感染」。これは母子感染とも呼ばれ、名称のとおり、親が持っている感染症が直接子孫に伝染する状況を指します。例:胎内感染すると先天性疾患を持つ赤ちゃんが生まれる(可能性がある)風疹ウイルス。垂直感染以外のものを「水平感染」と呼びます。非接触型と接触型があり、前者が「飛沫感染」と「空気感染」、後者が「接触感染」と「媒介物感染」になります。
- 空気感染:病原体を含む直径0.005mm以下の粒子を吸い込み、感染。例:結核、麻疹。
- 飛沫感染:病原体を含む直径0.005mm以上の粒子を吸い込み、感染。例:インフルエンザ、新型コロナ
- 接触感染:感染源に直接接触して感染。例:破傷風、梅毒。
- 媒介物感染:汚染された水、食品、血液、昆虫などを介して感染。例:黄熱、コレラ。
『ここにきて「汚染」と言う言葉がでてきた。つまり、病原体を含有するモノ(や環境)であって、危険な状態ではあるが、汚染自体そのものだけでは感染が成立しないことがわかる。』
感染が成立するとどうなるかというと、必ずしも病気になるわけではありません。しかし宿主に病気が生じればr「感染症」と呼ばれるようになります。さらに、宿主に症状が出る場合、「顕性感染」と分類されます。問題は「不顕性感染」です。これは細菌やウイルスなど病原体の感染を受けたにもかかわらず,感染症状を発症していない状態を指します。感染症状は抗体陽性や遅延型過敏反応などで確認できます。一般的には感染が成立しても必ず発症しなく,大部分がこの不顕性感染となるのですが、不顕性感染の人はしばしば保菌者(キャリア)となり,病原体を排泄し感染源となる可能性が高いので疫学上問題となります。
『キャリアはコロナ禍の「無症状感染者」と呼ばれる人達の事だな。』
感受性体は我々ヒトの場合は「免疫機能」を持っているので、病原体が進入しても、必然的に増殖できません。また、ヒトは学習能力があるので、感染の連鎖を断ち切る方法を訓練出来るはずです。しかし体力がない高齢者や既往歴のある方が今回のコロナも含め、感染症の犠牲(重症化・重篤化)になりやすいのは、免疫機能が低下しているからです。また、自身で免疫機能を低下する事もあります。一番の例が減量ダイエットで、生命を維持するために適切な食事をしない事ですね。感染の種類に「日和見感染」がありますが、これは従来病原性が低い病原体が宿主の抵抗力低下に伴い感染症に展開する状況です。感受性体側の我々ヒトは免疫不全にならないように生活する必要があるわけです。
『ワクチンは感受性体側の防御力を増す方法だな。』
おまけ
感染と関係する用語
- 汚染:病原体を含有するモノや環境、病原体が侵入する前の状況
- 感染:一人の宿主が対象、病原体と宿主の関係
- 伝染:二人の宿主が対象、片方からもう片方に感染。
- 流行:複数の宿主の間でおける伝染