ブラジル医療事情:検査の受け方

Vaccinium sp.. São Paulo. Caju©2016

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(5) ー 検査の受け方{2024年11月改稿}

今回のテーマもブラジルと日本では随分システムが違います。病院にかかった折に検査が必要となった場合、日本では基本的に診察を受けている医院や病院で検査をします。いわゆる検査の外注は希です。受診中の医療機関でできない検査であれば、適切な検査機関に紹介されますが、検査のみの依頼ではなく、患者さんの診察および精密検査の依頼、つまり転医になります。この様な流れになってますので、医療機関ではある程度検査ができる環境を整えておかなければなりません。このシステムならばどこでも受診すればある程度の検査ができるので便利です。しかし、設備投資に多大な費用がかかり、特に小さな診療所などでは大きな負担になり、そのため、検査費を稼ぐため、不要の検査をする所も出てくるわけです。また、日々進歩する医療検査機器に対応しなければなりません。

ブラジルでは医院レベルの診療科で必須の検査—例えば産婦人科にエコー検査や子宮癌検査など—があるのを除き、検査はほとんど外注になります。このシステムであれば、医院側が設備投資をしなくても常に最新、最善の検査で診療を進めることが可能です。また患者さんが主治医を変えなくても良いのも利点です。もっとも、検査機関まで移動する必要がある、という難点はありますが。

ではどのように検査を受けるのか?

「腹痛で内科医を受診」した例で解説してみます。まず診察を受けます(診察の受け方は前編参照)。検査が必要であると医師が判断した場合、検査指示書が出ます。この例の場合、血液検査、尿検査、大便検査、上腹部エコーの指示が出たとします。検査によっては時間の予約が必要ですので、担当医と検査機関についての確認をします。また、保険の種類により、使用できる検査機関の制限あるいは事前許可がありますので、保険会社と確認が必要です。一般的な血液検査や尿検査は予約は不要ですが、一定の条件(絶食の時間や検体採取時間帯の制限、付添人の有無など)が満たされていないと検査ができず、出直さなれればならなくなりますので、これらの検査の条件も確認します。そして、検査機関をどこにするかを担当医と相談します。

さて、必要条件を満たした上で予約のとおりに決められた検査機関に行きます。そこでもまず、カルテの作成があります。名前や住所、CPF(ブラジル納税者番号)の他、服用中のお薬やアレルギーなどの質問があります。ちゃんとした検査機関では医師が常勤してますので、分からなければ主治医と連絡を取るなど対応してくれます。カルテ作成時に結果の渡し方について尋ねられます。数字だけの結果であればインターネットで閲覧するのが一般的ですが、写真など画像がある場合、後日取りに行くか、配達を依頼するか決める必要があります。支払はカード使用が一般的です。

カルテができると、待合室に案内され、名前を呼ばれたら採血の部屋に入り、本人確認があります。採血が終わったら確かに採血しましたといった旨のサインをし、採尿と検便のキットを渡され、採取場所(トイレなど)に案内されます。採ったものを返せば次はエコーですが、大便が採れなかった場合、後日持参でも構いません。エコーの待合室で呼ばれたら更衣室で検査用の衣類に着替え、検査室に行きます。エコーが済めば、検査終了です。

検査は往々絶食状態で受けるので、検査後用に軽いスナックや飲み物が無料で用意されている検査機関が多いです。いつ検査結果ができ上がるのかは、カルテを作った時点で提示されますので、それ以降に検査持参で指示を出した主治医の再診を受けます。

血液検査や簡易な画像や機能検査は自宅まで来てくれるサービスもあります。それほど急を要する検査ではない場合や慢性疾患の定期検診の場合などでしたら検査機関まで出向く必要がなくなります。このようなサービスも上手に使ってみてはいかがでしょうか?

ちなみに総合病院では検査の方法は日本と同じシステムですが、外来がない病院もあり、その場合は医師のオフィスに出向く必要があります。また、救急部門では必ずしも気に入った医師が勤務しているとは限りませんし、毎回同じ医師に当たるわけではありません。専門医院と総合病院、どちらを選ぶかは患者さん次第です。


ブラジル医療事情:医療制度の違い

Sunset at Northern Minas Gerais State. Gouveia. Caju©2010

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(1)- 医療制度のちがい {2024年11月改稿}

外国での生活にはたくさんの不安がつきものです。その原因には言葉の壁、衣食住、治安、教育、健康など、様々な問題があるでしょう。特に精神的にも不安定になりがちな「病気」や「医療」に対する危惧はかなり高い位置にあるのは間違いないです。たとえば、いままでと同じ治療は続けられるのか。病気になったらどの病院にかかればいいのか。流行している病気やその土地特有の風土病はあるのか。その病気の予防はできるのか。などなど、健康面での不安は数え上げたらきりがありません。

もちろん、日頃から体調管理を万全にして健康な生活を送り、医療機関のお世話にならないのが一番です。でも、人間生きている限り、病気やケガと無縁ではいられません。また体調管理のための健康診断や定期検診など、予防として医療機関を利用することも多々あります。

この欄では、筆者が1995年の開業以来邦人の方を多く診療させていただいている経験をふまえ、日本人の方々から受けた相談やお悩みを元に、ブラジルの医療事情について解説します。

さて、日本の独立行政法人「海外勤務健康管理センター」が2002年に実施した調査によると「海外の医療機関への不満」の上位には次の4項目が挙げられました。

  1.  医療費が高い
  2.  言葉が通じない
  3.  医療レベルに不安がある
  4.  医療システムがむずかしい

1の医療費に関しては、実は日本もブラジルも、平均的にはそれほど変わりはありません。日本には「健康保険(国民皆保険制)」という制度があるため、自己負担は治療費の1割から3割です。しかしブラジルでは駐在員のような外国人には全額自己負担(日本で言う10割負担)になるため、高く感じるのではないでしょうか。

次に2の言葉に関しては、どれだけ流暢にポルトガル語が話せる方であっても、医療や健康に関する会話は専門用語が多いので、日本語と同じというわけにはいきません。特に病気にかかった時には不安が先行し、言葉に対する自信も失いがちです。仮に医療機関側に日本語の堪能な医師などがいたとしても、文化的・習慣的な違いや微妙なニュアンスまで理解できるかといえば、非常に難しいのではないでしょうか。病気に対する訴えの捉え方の違いなどもあるかもしれません。

3の医療レベルに対する不安は、ブラジルを含む発展途上国の滞在者に多くみられるようです。しかし、一般的に日本人が滞在する大都市周辺には先進国レベルの医療機関が多くありますので、それほど心配する必要はないと考えます。要はレベルの高い病院などをどのようにして見つけるか、受診するか、が問題なのです。

4については、どんな場面でもシステムが違うとむずかしく感じられるものです。それは医療においても例外ではありません。ですから、違いをはっきり認識することが、この問題を解決する糸口ではないかと思われます。そこで、おおまかな制度の違いを表にしましたので、ぜひ参考になさってください。

表:日本とブラジルの医療システムの違い