お腹が痛いのは何が病気?上腹部編。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Stamens and pistils. São Paulo. Caju©2024


2024年10月

お腹が痛いのは何が病気?上腹部編。

先月からの腹痛のひとりごと第二弾です。前回はどのような状況の時には必ず受診するについて展開しました。腹痛の多くはなにもしなくても快復しますが、命取りになるような急性腹症もあります。腹部は人体の内臓器の2/3が入っているといって良いほど、多様な臓器が収まってます。また、性別により、生殖器が異なるのは、このコラムの25人の読者様(註0)にとっても当たり前ですよね。今月は生殖器が直接関係していない「上腹部」の腹痛についてひとりごとします。

『つまり、男性と女性とその他性に共通の腹痛の話。』

上腹部と下腹部の定義は分かりやすく言うと、おへそが境でその上が上腹部、その下が下腹部になります。上腹部に収まっている臓器は「胃」、「十二指腸」、「肝臓」、「胆嚢」「膵臓」、「脾臓」、「腎臓」、「副腎」、「小腸」、「横行結腸」です。小腸は大変大きな臓器で腹腔内のかなりの部分を占めますが、問題があると上腹部に症状が出ることが多いので、上腹部とします。横行結腸は大腸の一部で、正常範囲だと上腹部にありますが、大腸に問題が現れた場合、ほとんど下腹部に症状が出るので、結腸は下腹部編で説明します。次に、腹痛の種類のおさらいをすると「内臓痛」、「体性痛」と「関連痛」の3種類の分類です。上腹部の腹痛はこれらの臓器と3種類の痛みという要素間の関連になる訳です。それぞれ見ていきましょう。

臓器

病名

痛みの原因

痛みの種類、場所

とても痛いヤバい状況

急性胃炎

  • 胃酸過多
  • 薬物で胃粘膜損傷
  • 食中毒
  • 暴飲暴食
  • 寄生虫(例アニサキス)
  • 内臓痛、体性痛
  • みぞおち、背中の真ん中
  • キリキリ痛、鈍痛、焼ける
  • 全体胃炎、粘膜真っ赤、臓器としての役割を失っている

感染性胃腸炎

  • ウイルス感染
  • 細菌感染
  • 寄生虫
  • 内臓痛、体性痛、関連痛
  • 腹部全体
  • 鈍痛、うねり(波)、刺す
  • 結果として脱水状態、栄養不足状態

慢性胃炎

  • 胃粘膜萎縮
  • ピロリ菌感染
  • 機能性胃痛
  • 胃下垂
  • 内臓痛、体性痛
  • みぞおち、背中の真ん中
  • キリキリ痛、鈍痛、焼ける
  • 急性化した場合

胃潰瘍

  • 胃粘膜の潰瘍
  • 粘膜下組織の損傷
  • 内臓痛、体性痛
  • キリキリ痛、刺す
  • 潰瘍が血管まで達すると出血
  • 穿孔(穴が開く)

十二指腸

十二指腸炎

  • 胃酸過多
  • 寄生虫
  • 内臓痛、体性痛
  • みぞおち、右脇腹
  • キリキリ痛、鈍痛、焼ける
  • 寄生虫が十二指腸のフアーター乳頭(註1)に入り込んで詰まった状態

十二指腸潰瘍

  • 胃酸過多

同上

  • 潰瘍が血管まで達すると出血
  • 穿孔(穴が開く)

肝臓

急性肝炎・慢性肝炎

  • 薬物中毒(酒を含む)   
  • 内臓痛、体性痛
  • 右上腹部、右脇腹、背中
  • 鈍痛
  • 劇症肝炎の場合急性肝不全に至る

肝硬変

  • ウイルス感染
  • 薬物中毒(酒を含む)

同上、あまり痛まない

  • 慢性肝不全で脳症に至る

胆嚢

胆嚢炎・胆管炎

  • 胆嚢の収縮機能の低下
  • 胆石
  • 胆嚢捻転
  • 内臓痛、体性痛、関連痛
  • 右脇腹、右肩
  • 強烈な鈍痛
  • 胆汁が流れない状態で胆嚢が腫脹、細菌感染

胆嚢結石

  • 体質
  • 食生活

同上

  • 胆管が詰まり、胆嚢炎・胆管炎を起こしている状態

膵臓

急性膵炎

  • 薬物中毒、主にアルコール
  • 胆石
  • 内臓痛、体性痛、関連痛
  • 左脇腹、上腹部全体帯状、背中全体
  • 猛烈な鈍痛
  • 膵管が詰まった状態
  • 膵臓細胞の破裂による組織破壊

慢性膵炎

  • 飲酒
  • 突発性
  • 内臓痛、体性痛、関連痛
  • 左脇腹、右上腹部、みぞおち
  • 鈍痛、シクシク痛
  • 症状が急性化した場合

脾臓

脾腫

  • 感染症
  • 肝臓病
  • 心不全
  • 代謝異常
  • 内臓痛、体性痛、関連痛
  • 左脇腹、背中左
  • 鈍痛
  • 破損(割れる)や梗塞に至った場合

脾損傷

  • 運動
  • 打撲(交通事故)
  • 脾腫

同上、激痛

  • 破損が広範囲で多量出血

脾梗塞

  • 心原性塞栓
  • 自己免疫疾患

同上、激痛

  • これ自体がヤバい状況

腎臓

急性腎炎

  • 細菌性感染症
  • 内臓痛、関連痛
  • 両脇腹、背中
  • 鈍痛
  • 急性腎不全に至った場合

腎盂炎

  • 細菌性感染症

同上

同上

慢性腎炎

  • はっきりした原因不明

同上、あまり痛まない

  • 感染症を合併した状態

副腎

副腎腫瘍

  • 良性腫瘍
  • 悪性腫瘍

同上、あまり痛まない

小腸

急性胃腸炎

  • 感染症
  • 食中毒
  • 暴飲暴食
  • 内臓痛、体性痛
  • 腹部全体
  • 鈍痛、シクシク痛、うねり(波)、刺す
  • 結果として脱水状態、栄養不足状態

腸閉塞

  • 術後癒着
  • 腸捻転
  • 腫瘍
  • 内臓痛、体性痛
  • 腹部全体
  • 鈍痛、刺す、激痛
  • 腸が壊死した状態

腸梗塞

  • 血栓あるいは塞栓のため小腸に血液を運ぶ動脈の閉塞
  • 内臓痛、体性痛
  • 腹部全体
  • 猛烈な鈍痛

同上

  • 註1:胆管と膵管が合流して十二指腸に開口する部分名。

さらにこれらの臓器には「癌」が発現しうるわけですが、癌に関する疼痛はその進行度により、急性か慢性かの痛みが現れます。癌の発生率が高いのは胃、膵臓、肝臓です。一般的に癌の疼痛は初期はほとんど痛みがなく、あれば関連痛であることが多く、内臓の問題である事が見落とされる原因になります(註2)。癌が進行すると、内臓の破壊や腫脹により周辺組織や臓器に影響が起こり、内臓痛や体性痛が顕著に現れる事が多々見られます。癌が原因で腹痛が起こっているのはある程度、普通かなり、進行しているためなので、痛みの強弱に関わらず、ヤバい状況と言えます。

  • 註2:関連痛は皮膚や体表に現れる。

命に関わる腹痛はすぐに処置する必要があります。次のように発症してあまり時間が経っていない(1週間以内)、「急性腹症」と呼ばれる状況は外科的措置が必要な場合が多いのでガマンしてないですぐに受診する必要があります:

  • 突然発症した腹痛
  • これまでに経験した事がない腹痛
  • とても痛く、耐えがたい腹痛
  • 時間が経つにつれて増してきた腹痛
  • 安静にしても6時間以上続く腹痛
  • 嘔吐、発熱、胸痛、下血、呼吸困難、意識低下が伴う腹痛

『ヤバい状態は個人差がある耐性に左右されるので、どうもおかしいなとか、ちょっとわからんなとか疑問がある場合は念のため診察を受けたほうがよいと考える。かかりつけ医がいる方は相談事項です。』

次回は下腹部の腹痛の原因疾患について展開していきます。


註0:先月お一人読者様がおられた事が判明しましたので25人になりました。