錯覚してますよね:柔軟剤編

By: Kazusei Akiyama, MD

Late Afternoon. São Paulo. Caju©2019


2019年5月

錯覚してますよね:柔軟剤編

 

我々の生活の中では「良いと思って」錯覚しているものが結構あるのではないかと思われます。これらに焦点をあてる「錯覚してますよね」シリーズの第三弾は「柔軟剤」です。

柔軟剤とは洗濯した後に、その洗濯物に柔軟性を与える仕上げ剤の事です(註0)。このコラムの24人の読者様も使用された事があるでしょう。一般的な洗濯は合成洗剤+柔軟剤のセットでする事がほとんどでしょう。言葉のとおり、柔らかく仕上げる。さらに最近では「柔軟剤の香りを楽しむ」などという「流行」も現れてきてますね(註1)。メーカーやマニアが発信している情報をみていると、柔軟剤はなんかメリットだらけの素晴らし製品のようにみえます。主な効果はもちろん「洗濯物をフワフワに柔らかく仕上げる」ですが、それ以外に、香り、防臭、速乾、静電気ガードがあるということです。これだけ良い効果があるのだから、使わない手はないですよね。

  • 註0:食品添加物の柔軟剤もありますが、ここでは洗濯用の話です
  • 註1:ネットでは「柔軟剤マニア」なる表現も見当たります。

でも、少し考えてみたら、洗濯の仕上がりが「硬く」なるから「柔らかく」する必要が出てくるのがわかりますね。そう、まず問題が前述セットの合成洗剤の使用で洗濯物が硬くなるところから始まると考えます。合成洗剤はどうしても化学的に繊維にダメージをあたえ、残留性も高いので、繊維元来の柔軟性を減らしていきます。また、洗濯行為そのものも硬くする効果があります。ドラム式だと叩き洗いになるので、繊維のパイルが寝てしまい硬くなります。これはタオルで顕著に表れる。縦型渦巻き式は一般的にすすぎが足りなく、洗剤が残留してしまいがちです(註2)。

  • 註2:日本で使用されている洗濯機では1時間以内に全行程終了が普通だが、ちゃんと洗って、濯げてるのか?

そこで考案されたのが柔軟剤です。内容は基本的に界面活性剤です。界面活性剤の問題は「錯覚してますよね:洗剤編」で取り上げました(2018年9月号)。厳密に言えば、洗剤は陰イオン界面活性剤で柔軟剤は陽イオン界面活性剤で別物ですが、「界面活性剤」である問題性は同じです(註3)。つまり、細胞毒であるものを日常的に使用する問題ですね。柔軟剤は衣類の繊維を界面活性剤がコーティングし、繊維がバラバラになったまま乾燥するのが作用機序です。また、陰イオン界面活性剤は殺菌効果があるので、臭いの原因の菌の繁殖を抑えるとうたわれます。

  • 註3:洗剤の界面活性剤は陰イオンであるため、洗剤を使うと洗濯物がマイナスの電気を帯びます。柔軟剤の界面活性剤は陽イオンで、プラスの電気を帯びてるので繊維の表面をコーティングする。

『これらの効果がでるのは、勿論洗濯後、「衣類に残る」大前提があるのだな。筆者の考えではここに一番の問題があると考える。柔軟剤を使用した衣類を着用すると言う事は、構成する化学物質にずっと接触していると言うことなのだ。最近流行の製品は「しっかり1日中香る」など、「取れない」工夫がさらにしてあるので、ばっちり服についてますよ。で、皮膚から吸収される。経皮毒になる。』

ということで、良いことずくめの柔軟剤ではありません。実際次の問題点が指摘されてます:

  1. 皮膚炎をおこす。経皮毒以前に接触性皮膚炎をおこす可能性がある(註4)。
  2. 衣類によっては悪効果がある。繊維をコーティングすることで、「綿」は吸収性を失う。タオルがフワフワ仕上がるけど、吸水である元の機能が失われ、本末転倒?スポーツやアウトドアなどに使う機能ウエアは吸汗や撥水効果が低下する。毛があるモノは柔軟剤により繊維が貼り付いてしまうのでかえってベタついた仕上がりになる。化学繊維は繊維そのものがダメージをうける事がある。
  3. 洗濯機が臭くなる。最後のすすぎに柔軟剤をいれるので、残留物に雑菌が繁殖しやすくなる。殺菌効果があるというが、これも本末転倒?
  4. 環境問題。界面活性剤そのものが自然界で分解されにくい。香料、溶媒、染料、防腐剤、等も環境汚染を起こす。また、製品が入っている「プラスチック容器」も廃棄物になる。
  5. 匂いによる健康被害。10年ほど前より頭痛、吐き気、咳、倦怠感などの報告が増えているいる。香料そのもののアレルギーは良く知られた現象である(香水アレルギー)。上3の臭くなるのを香りで打ち消す。これも本末転倒。持続する香りを楽しんで…(註5)
  • 註4:実際診察した症例で、三ヶ月歳の赤ちゃんの顔半分に発疹がでているのがあった。これは抱っこした大人の服に柔軟剤が使用されていて接触してからだと考えられる。
  • 註5:下水道がちゃんと整備されてないサンパウロ首都圏を通過するチエテ川(下水が流れ込んでいる)の下流に行って匂いを嗅いでみたらわかります。匂いを通り越して悪臭ですね。

『本末転倒な柔軟剤について考えると、実は我々が行っている洗濯の仕方を考える必要があると思う。衣類が傷む洗剤を使い、そのため柔軟剤でコーティングし、そのためアイロンがけの時に滑りやすいようにアイロンスプレーを使う。メーカーは喜ぶよなあ。石鹸と少しの酸(酢やクエン酸)で十分洗濯できるのに…』

筆者が医師としておすすめできる洗濯方法は:石鹸(粉、日本には液体もある)を使う。柔軟剤として弱酸性の液体(酢、クエン酸)を使う(註6)。こうするとアイロンは単なる水をスプレーするだけで十分できます。洗濯物で一番ゴワゴワしやすいのがタオルですが、これは幾つか手間をかけると上手に仕上がります:石鹸+弱アルカリ性液で洗濯するが、タオルだけ余裕をもって別に沢山水を使うコースで洗う。脱水をあまりキツくしない(800rpmくらい)。脱水が終わったらできるだけ早く干す。干す前にパイルを立たせるため勢いよくはたくように20回ほど振る。半乾きになったら乾燥機にいれるとフワフワになる。

  • 註6:石鹸は弱アルカリ性なので、最後に中和するモノを使うとふんわり仕上がる。酢、クエン酸はどちらも食用なので経皮毒がない。

『酢を使っても匂わないです。また、洗濯物に香りをつけたい方は、上の「弱アルカリ性液にアロマオイルを数滴入れる方法」と「乾いた洗濯物にピローミスト等をスプレーする方法」があります。騙されたと思って一度試してみてください!』