By: Kazusei Akiyama, MD
2013年07月
今月のひとりごと:『やはり「予防的乳房切除」についてはひとりごとしないといけないよな。』
このコラムの22人の読者様、ご無沙汰してます。先月と先々月と2ヶ月連続で休稿してしまい、申し訳なく思ってます。5月号は学会やらで忙しくダメになり、6月号はやるぞ!と決意していた矢先、筆者診療所のデータなどがすべて入っているサーバーが死んでしまい(註1)、修復で大変だったのでした。この2ヶ月で医療関連だけでも色々ニュースがありましたが(註2)一番衝撃的かつ医学界で物議をであったのは米人女優アンジェリーナ・ジョリーが受けた乳癌予防手術だと思います。
『正式な医学的用語では「予防的両乳房切除及び再建手術」ですな。現時点で一番乳癌と関連ありとされている遺伝子異変(註3)があり、母親や親戚が乳癌で死亡しているのでガンになる前に、乳房を全部取っちまったのだな。その後シリコンインプラントで再建したのだ。この場合、予防処置であるため、皮膚と乳輪・乳頭が残る。乳癌のリスクを算出する疫学モデル(註4)が存在するが、彼女の場合、乳癌のリスクが87%であったのが切除により5%に減少したとされる。確かにガンになる組織そのものが(ほとんど)無くなってしまうため、リスクが減るのは減るのだが、それでもゼロになるわけではない(註5)。』
この様な疫学的モデルを根拠にした数字に基づいて、特に米国では予防的切除が行われているのです。女性の象徴でもある乳房(註6)を切除することは、身体的ダメージもさることながら、精神的ダメージも大きいことは簡単に想像がつきます。乳癌の予防切除は、「片側」つまり、一方がガンになった場合でリスクが高い患者さん(註7)に実施することから始まったのですが、ここでのポイントは「予防的」かつ「両側」つまり、まだ健康な組織をなくしてしまう事でしょう。既に発病しているので片側を切除し、ではその反対側も予防切除しましょうという状況ではかなり違う。高確率にしても、まだなってないガンに対して全部摘出してしまうのはたしかにジョリーの声明にもあった「決断」が必要ですね。
『ジョリーの行動が絶唱されたのは、主に米国だった。彼の地の事情を反映しているからだな(註8)。すでに両側全摘を受けていたりやそれをすべきであると医師に言われている女性はは多々いるもようで、それらの女性達に対して、勇気をもって対処する事が大切である事を彼女は訴えているわけだな。ま~完璧に西洋医学の考え方であって、予防ではあるかもしれないけれど、東洋医学の「未病を治す」とは性質の違うものだろう。筆者は問題はガンになりやすい状況や環境にあるのではないかと思う(註9)。乳癌は前出の遺伝子異変も重要だが、それがない一般の女性のリスク要因では、女性ホルモンのエストロゲンが多い状態、飲酒、高身長(註10)、社会的地位が高い(註11)のが確実とされている(註12)。これら要因への注意、改善こそ重要だと思うけど。いずれにしても、「女らしさ」を演出してくれるエストロゲンと関係のあるので、色っぽい女性ほど乳癌になりやすいという事だな。』
日本人は欧米人ほど乳癌になりませんが、日本人女性のガンでは一番多い事実には間違いありません。30代はそれほどではありませんが、40代で急増し、40代後半にピークがあり、50代から減少する特徴です。30代後半以上の22人の読者様はぜひ毎年婦人科で乳癌検診を受けられるようお願いします。
- 註1:停電が直接の原因であったようだ。
- 註2:その他に「インフルエンザがサンパウロ州に集中して死亡例が多い」、「最近流行のデモに巻き込まれて催涙ガスを吸った時の症状と対策」、「子宮癌予防ワクチンの副作用事情」など話題の多い2ヶ月でした。
- 註3:BRAC1とBRAC2という遺伝子。
- 註4:ゲイルモデル、クラウス表など
- 註5:なので、ジョリーの声明での” I can tell my children they don’t need to fear they’ll lose me to breast cancer.”「わたしの子どもたちに、わたしをがんで失うことを恐れなくていいと言うことができます」というの正確ではないぞ。
- 註6:欧米社会は明らかにオッパイ社会だろう。
- 註7:リスクは個人差がある。現時点で一番高いリスクが:女性、加齢、BRCA1・BRCA2の遺伝子変異、第一度近親に乳癌、乳癌の既往歴、乳腺密度が高い、のこの6点である。
- 註8:欧州や日本などの先進国では否定する論調の医療関係者が多かった。実際、現時点では高いリスクの患者さんは頻繁にチェックして、なれば初期発見で治療にもっていくのが一般的な見解だ。
- 註9:日本人女性のあいだでも間違いなく増えている。日本国立ガンセンターのデータでは1980から2000の20年間で発病率が88.1%増えている。正確にいうと年齢調整罹患率。対人口10万人で、1980年が25.2件、2000年が47.4件。その間、米国の増加は33.3%。
- 註10:になるような食生活?
- 註11:つまり出産回数や授乳回数が少ない。
- 註12:その他関連が証明されていないものが、喫煙(閉経前は関連があるようだ)、高脂肪食、制汗剤の使用、乳房インプラント、環境汚染、夜間勤務などがある。