By: Kazusei Akiyama, MD
2013年04月
今月のひとりごと:『殴っているわけではないのですけど。マッサージでもないよ。』
ドンドン、トントン、ゴリゴリ。
「あ~先生、そこそこ、気持ちイ~」。
診察室での一場面です。”変な事”をしているわけではありません。診察のうちの身体検査を実施している間に患者さんとの会話です。
「だから、マッサージじゃないから。」
「へぇ~、そ~なんだ。でも叩いて何か判るのですか?」
「判るよ、もちろん。色々。打診という診察技術です。」
『これも医療文化の違いですかね。日本では保険診療がメインだから診察時間が短いのだな。数をこなさないと経営が成り立たないのが実際なのだ。じっくり問診や身体検査をしている時間がない(註1)。だからやらない(できない)。患者側もそれに慣れているから、そういうモノがあるとも思ってもいない。筆者の診療所のように時間をかけてじっくり診る、考える方法には(註2)慣れていないので今月のひとりごとのような場面になるのだな。当地でも現地の保険、Convenioコンベニオで診療している所は事情は同じだから、国の違いというより、報酬制度の違いによるものだな。』
身体検査の正確な名称は「臨床診察的な手法による検査」です。これには視診、打診、聴診、触診があります。だいたい漢字の意味のとおりですね。視診は体の発達具合や変形、肥痩の程度、障害の有無、歩行機能の状態、粘膜の検査で貧血や黄疸の有無、浮腫、発汗、発疹や湿疹、病変の有無などを診ます。打診は体内の臓器異常や腫脹の有無を診ます。聴診では心音、肺音、腸の蠕動、動脈雑音などがわかります。触診は臓器肥大や腫瘤の有無、リンパ腺の異常、肩こりなどのこりや圧痛点などを診ます。どうです、色々わかるでしょ?
『筆者はこの他に、東洋医学的な診察を取り入れているので、少し重複するけど、四診(ししん、望診、聞診、問診、切診)があるのだ。望診:見た目。体格、顔色、態度などの他に、舌の観察。聞診:声や咳の音(註3)。問診:これは一番西洋医学と同様だな。自覚症状、現病歴、既往症、家族歴など。切診:触診と似ているけど、観ているモノが違う。脈の観察や腹診(註4)、皮膚や関節の状態など。だから、実は診察は患者さんが待合に入った時から始まっているのだ。声の状態や咳のタイプ、歩き方などが聞こえているよ。』
註1:ので、レントゲンだの血液検査だの即検査になるのだな。
註2:検査が外注のため、患者さんが検査機関に出向く必要がある。面倒だし、時間がかかるので、出来るだけその場で解決を目指すのでじっくりやる訳です。例えば、肺炎などは診察でほとんどわかります。レントゲンは確認のためだな。その代わり、診察費が高いですね。
註3:望診には元々これ以外に嗅覚による観察というのがあったのだな。排泄物の臭いや味など。さすがにこれは最近はしないな。体臭や香料の使い方は観察するけど。
註4:腹診は漢方医学では非常に重要で腹壁の温度や緊張、圧痛点などを観察する。