By: Kazusei Akiyama, MD
2012年08月
今月のひとりごと:『健診する時期を誤ると、大変な事になるぞ』
8月は一時帰国される邦人が多い月です。それで、その機会に健康診断を受診するというパターンがよく見られます。この場合の健診とは企業の定期健康診断のことですね。健康診断とは健康状態を評価し、健康の維持、病気の早期発見を目指すものです。そのために診察(註1)と各種検査が行われます。定期健診は法律で定められたものですから(註2)、皆さんきちんとされる訳です。日本に帰っている時に健診をするのはよく考慮して実施すると問題ないのですが、「ついでに」受けたりすると大変な事になりねません。
『健康状態とはその時の状況によって変化するものなのだな。あたりまえだけど。状態がよくない時であったり、また、一時帰国して連日会食など、普段の生活とは違う状況であったりすると、間違った評価になる。企業健診というものは「やって、はい終わりです」ではなく(註3)、所見により再検査だの治療だのいろんな展開が起こされるので、場合によってはとてもややこしい精密検査などになったりしてしまうのだ。また、医原病も怖い。医療を受ける(この場合、検査だけにしても)事による体調不良の出現や医療事故なども十分ありうる。一番よろしくないパターンは、当地での駐在員が業務関係で日本出張し、その機会に「ついでに」健診するのだと考える(註4)。』
実例をあげます。業務報告のため東京出張されたサンパウロ駐在員の例です。あまり内容が芳しくない報告のため、本社での会議でご本人曰く「3日間メタメタにやられ」、その直後に健診を受診されました。その結果、不整脈をはじめ、心電図や循環器系の検査でひっかかり、精密検査となりました。サンパウロに帰着後検査する事になったのですが、受診時にも不整脈がみられ、心臓内科での診察の結果、運動負荷をかけた心筋シンチ検査(註5)や冠動脈造影(註6)を実施する事になりました。結果はすべて問題なしで、結局元々心臓系に問題のない方であったので、会議の負担や健診結果を見て、ストレスが上昇したための所見だったのです。 おそるべしストレス!ここで注目したいのは、不要な検査を受けたであろうということです。平常であれば、健診にひっかからなかったのではないかと十分考えられます。精神的負担も不要、時間・費用的に不要、また検査にはリスクを伴うもので、これも不要ではなかったでしょうか?
『健診というと軽く考えていたり、おざなりに済ましていたりしてないだろうか?医者側は健診の企画をするにあたり注意すべき項目が多々あるが(註7)、受診する側もそれなりにちゃんと考えて受けないと、不本意な結果と展開になる可能性があるぞ。日本で健診を受けるのもいいけど、状況的や時間的にややこしい場合、サンパウロで健診することを考慮するほうがよいと思う。サンパウロにはちゃんと健診が出来る医療機関があるのだから。』
註1:この「診察」というのが実は健診で一番重要な項目である。診察時の問診と身体検査で患者さんの体調や傾向、生活習慣や家族歴などから来る疾病リスクなどの見当をつける。でもほとんどの健診サービス、「診察」のウェイトが少ない。
註2:日本の場合、1972年の労働安全衛生法によって規定されている。2007年に大幅に改正された。
註3:やってはい終わりだったのだな。それでは「はい、良いですとか悪いです」と状況把握しかできてなかったので、悪い場合改善行動も伴うべきと改正があった。これがいわゆるメタボ健診の始まりだな。
註4: 反対に健診するために日本出張することもあるが、これは問題ないのでは。
註5:運動負荷(走ったり、自転車を漕いだり)をかけながら、心臓の筋肉に特異的に付着する放射線物質を投与し、これを測定する。心臓の血流が悪いと、付着しない。
註6:脚や腕の動脈から細いカテーテルを入れ、心臓の冠動脈までたどり、造影剤を入れながら、撮影する。狭窄部分などがあれば画像にでる。
註7:健診の企画についてはまたの機会にひとりごとします。