お腹が痛いのは何が病気?下腹部編。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Sunrise in May. São Paulo. Caju©2024


2024年11月

お腹が痛いのは何が病気?下腹部編。

先々月からの腹痛のひとりごと第三弾です。今月焦点をあてる下腹部の特徴は生殖器の存在です。現在の世の中では生殖器イコール性別ではないとする事になってきてます。生物学的性差(セックス、sex、sexo)は社会的・文化的性差(ジェンダー、gender、gênero)とは関係ないのだと(註1)。しかし手術して全摘出でもしない限り臓器としての生殖器はお腹の中にありますので好むと好まぬに係わらず、それらの臓器が故障して病気になる可能性はあります。この点、ややこしい医療現場になってきてます。つまり自称女であっても前立腺があったり、自称男であっても子宮があったりでこのような事情にどう対応するかが最先端医療のテーマの一つになってます。

  • 註1:生物学的性差の主たる特徴は遺伝子・染色体にある。男性はXY染色体、女性はXX染色体。まあしかし自身が”男性”であっても”女性”であると”自覚”していれば、社会的・文化的性差は女性で通用する、という世の中です。男女両方であるとか、どちらでもないとか、まだわからんとか、どうでもよいとか十色あるようです。一部の社会ではそんな事は認めておられませんが、我々やこのコラムの25人の読者様の生活圏ではそう言う事なので、そう言う事です。2019年7月のコラム「差別はいけません」でLGBT+に関するひとりごとしてますのでよろしければそちらもご覧ください。

『なので、今回は男性と女性の腹痛は異なるという話。』

上腹部と下腹部の定義は分かりやすく言うと、おへそが境でその上が上腹部、その下が下腹部になります。下腹部に収まっている臓器は「大腸」、「尿路」、「膀胱」、「子宮」「卵巣・卵管」、「前立腺」です。尿路は泌尿器の一部ですが、ここが痛むと三大疼痛の一つと言われるくらい痛みますので特別に記載します。また、狭義では臓器ではありませんが、痛むと命に関わるので大動脈も記載します。次に、腹痛の種類のおさらいをすると「内臓痛」、「体性痛」と「関連痛」の3種類の分類です。下腹部の腹痛はこれらの臓器と3種類の痛みという要素間の関連になる訳です。それぞれ見ていきましょう。

臓器

病名

痛みの原因

痛みの種類、場所

とても痛いヤバい状況

大腸

急性虫垂炎(盲腸)

異物(食べ物の種等)

糞石

二次性感染症

内臓痛、体性痛

右下腹部、みぞおちから始まる事が多い

キリキリ痛、鈍痛

穿孔性虫垂炎、化膿して穴が開き、腹膜炎が合併

感染性腸炎

ウイルス感染

細菌感染

寄生虫

内臓痛、体性痛、関連痛

腹部全体

鈍痛、うねり(波)、刺す

結果として脱水状態、栄養不足状態

過敏性大腸炎

腸管の異常運動

ストレス・緊張

感染症

腸内細菌の乱れ

高カロリーや高脂肪食など食事

内臓痛、体性痛

腹部全体、左下腹部

下痢型、便秘型、混合型により痛みが異なる

鈍痛、うねり、刺す痛み、膨満感

ストレスと関係があるので、重篤な不安神経障害を合併した状態

潰瘍性大腸炎

大腸粘膜の炎症、びらん、潰瘍

原因不明

免疫疾患説

クローン病含む

内臓痛、体性痛

キリキリ痛、刺す

狭窄(腸管が狭くなる)

穿孔(穴が開く)

瘻孔(周りの組織にひっつく)

膿瘍(膿が溜まる)

憩室炎

憩室症

糞石

異物

二次性感染症

内臓痛、体性痛

腹部全体

キリキリ痛、鈍痛

穿孔性憩室炎、化膿して穴が開き、腹膜炎が合併

瘻孔

便秘

大腸の動きが遅い

生活環境の変化

食事の変化、偏り

運動不足

水分不足

ストレス

内臓痛、体性痛

腹部全体、左下腹部

鈍痛、うねり、刺す痛み、膨満感、以外と痛い

便が硬くなりすぎて排便できない状態

尿路

尿路結石

腎臓結石

内臓痛、関連痛

脇腹、背中

鈍痛、刺す痛み

激痛、とても痛い

急性腎不全に至った場合

膀胱

膀胱炎

感染症

薬物中毒

異物(結石)

内臓痛、体性痛

下腹部

鈍痛

尿閉がおこった場合

子宮

生理痛

生理

ピル服用

内臓痛、体性痛、関連痛

下腹部

鈍痛

月経困難症に至った場合

子宮筋腫

筋腫が周りの組織を圧迫

内臓痛、体性痛、関連痛

下腹部

あまり痛まない

鈍痛、膨満感、腰痛

捻転

梗塞

排尿痛に至った場合

子宮内膜症

原因不明

生理期間に悪化する痛み

同上

部位は内膜腫ができている場所

周囲の組織・器官に癒着した状況

異所性妊娠

子宮外妊娠

体性痛、関連痛

下腹部

激痛

病期のどこかに係わらずヤバい症状

子宮・膣感染

性感染症

細菌性感染

体性痛、関連痛

下腹部

鈍痛、無症状・無痛あり

感染症が拡大した状況

卵巣・卵管

排卵

生理現象

内臓痛、体性痛、関連痛

左右脇腹、下腹部腰

普通は弱い痛み

他の女性生殖器の疾患が合併している状態

卵管炎

内膜症

感染症

内臓痛、体性痛、関連痛

左脇腹、右上腹部、みぞおち

鈍痛、シクシク痛

症状が急性化した場合

卵管膿疱

原因不明

膿疱の増大

内臓痛、体性痛、関連痛

左右脇腹、下腹部腰

鈍痛

ヤバくならないと痛まない

膿疱破裂した状態

卵巣軸捻転

卵巣囊胞

妊娠

運動

内臓痛、体性痛、関連痛

左右脇腹、下腹部腰

かなり強い刺す痛み

卵巣破裂

梗塞、壊死した状態

前立腺

急性前立腺炎

感染症、細菌性

体性痛、関連痛

下腹部、腰痛

鈍痛、筋肉痛、関節痛

敗血症に至った場合

尿閉

慢性前立腺炎

非細菌性

体性痛、関連痛

下腹部、腰痛

鈍痛、放散痛、不快感

尿閉

血精液症

大動脈

大動脈瘤

破裂が差し迫る

体性痛、関連痛

下腹部、腰痛

激痛

大動脈解離

大動脈破裂

臓器ではないのですが腹痛になる原因として記載を忘れてはならないのが、腹壁です。大きく分けて内側と外側の問題が挙げられます。内側は腹腔内全体に「腹膜」と呼ばれる膜があり、これが損傷したり炎症をおこしたりするとかなり痛いです。腹膜は単独に病気にはなるのは希で、普通はお腹の中のどれかの臓腑が故障して付近の腹膜部分も巻き込まれるパターンです。外側には筋肉・皮下脂肪・皮膚があります。腹痛の原因としては比較的頻繁に「腹壁ヘルニア」が認められます。筋肉が弱くなり、腹部内の内容物(たいがい腸と脂肪(大網・小網))が飛び出る疾病です。なりやすい場所は臍と鼠径部で、普通ひどく痛みませんが、腸が突出して脱腸状態になり、ねじれたり詰まったりする嵌頓(かんとん)になると緊急手術が必要になります。

腹部の癌に関する話は先月のひとりごとをご覧下さい。今月記載した臓器・器官のいずれも癌になる可能性はあります。発病率が高い部位は男性は前立腺、大腸、腎臓、前立腺、膀胱の順、女性は大腸、子宮、卵巣、腎臓の順です。

命に関わる腹痛はすぐに処置する必要があります。次のように発症してあまり時間が経っていない(1週間以内)、「急性腹症」と呼ばれる状況は外科的措置が必要な場合が多いのでガマンしてないですぐに受診する必要があります:

  • 突然発症した腹痛
  • これまでに経験した事がない腹痛
  • とても痛く、耐えがたい腹痛
  • 時間が経つにつれて増してきた腹痛
  • 安静にしても6時間以上続く腹痛
  • 嘔吐、発熱、胸痛、下血、呼吸困難、意識低下が伴う腹痛

『ヤバい状態は個人差がある耐性に左右されるので、どうもおかしいなとか、ちょっとわからんなとか疑問がある場合は念のため診察を受けたほうがよいと考える。かかりつけ医がいる方は相談事項です。』