痩せていればよいというものでもないぞ

By: Kazusei Akiyama, MD


2011年07月

今月のひとりごと:『痩せていればよいというものでもないぞ』

先月サンパウロ市内でSão Paulo Fashion Weekが開催されてました。これはブラジルでは一番大きくかつ重要なファッションショーで大変な額のビジネスにつながるそうです。それで大挙してモデルさん達がサンパウロに滞在していたのですが、全員背が高く、ヒョロッと痩せた(そしてなにを考えているのか判らない表情をして)集団が診療所があるJardins地区に出没してました。今月のひとりごとは女性の「痩せ」について考えます。

『もともと太っているとか痩せているとかの基準は時代や場所で変更したのだな。昔のほうが太り気味のほうが美人だった。一例がモナリザや日本のおかめ美人。痩せているのは裕福でないと考えられたのだな。この考え方は現存し、アフリカのナイジェリアでは「太るダイエット」(註1)を実施するSpaなどがあるのだ。美人は太ってないといけないらしい。ところが、最近の西洋社会が発信する「痩せが美しい」が主流になってきたようだ。ファッションショーなどは美の方向性を示すものであるから、この痩せがどんどんエスカレートして行き、しまいに拒食症な感じのモデルさんが大量に発生し、2006年にスペインではBMI18.5以下、つまり「痩せ」の基準に入るモデルさんはショー出場禁止にまで発展した。』

体重の話でよく出てくるBMIとはBody Mass Index、体格指数のことで体重と身長から計算(註2)されます。正常範囲は18.524.9以内とされており、それ以下が「痩せ」、以上(註3)が「肥満」の基準になります。単なる体重と身長を使用した指針ですので、ものすごく身体を鍛えていて筋肉質であったら肥満の基準に入りかねません。そこで腹囲(註4)を補足したり、皮下脂肪キャリパー(註5)を使って腕を測定したり、体脂肪計(註6)を使用したり、新規な基準であるBody Volume Index、体積指数(註7)が提唱されたりしてます。栄養学的に一番正確に肥満や痩せを計測するにはDEXAと呼ばれるレントゲン装置を使ったbody composition測定、身体組成測定がベストであると異論がありませんが、大型の機器が必要で簡単に検査できません。

『一応理想的なBMI22とされているのだが、日本人女性の場合、これが一般的な健康人を反映しているか疑問があるのだな。オーバーウェイトというのが存在しないのもその証拠の一つであるが、日本人の体格は欧米人のそれとは異なるため、同じ基準をつかうのはどうかといった動きがWHOの中でも出た来ている。極端な例では日本人女性の場合、理想BMI18であるとの説があるが、これはいわゆるダイエット業界の説ではないかと思う。なぜなら、「痩せ」は低体温や不妊症、うつなど病気になりかねない状態であり、手放しで喜んで良い状態ではないからだ。BMIは年齢とともに増加をするのだが、世界では日本人女性のみ10代後半から20代にかけて「減少」が認められ、「痩せることを勧める風潮」の行き過ぎではないかと警鐘がならされてるぞ。』

ちなみにこのコラムの24人の内、女性の読者様はBMIいくらですか?どの計算式に近いですか?22*(身長m*身長m)=現体重kg。それとも、18*(身長m*身長m)=現体重kg。後者ですとやばいのでは?


1:もともと「ダイエット」とは「規則正しい」「一定の効果を期待した方法」による食事療法のことである。それが日本では「痩せるための食事療法」として使われているが、決して減量に限定するものではない。胃潰瘍食や糖尿病食もダイエットの一種。

2BMIの計算方法 体重(kg)/(身長(m))2乗。例:160cm55kgBMI55/(1.61.6)=21.5

3:欧米人の場合、いきなり「肥満」になるのでなく、25.029.9まで「過体重、オーバーウェイト」というランクがある。

4:腹囲=ウエスト周囲。息を吐いた状態で臍の上の周囲をメジャーで測る。各論あるが、日本人の場合、男性85cm以上、女性90cm以上が異常値(メタボ基準)とされている。

5:皮下脂肪厚法。特定の場所の皮膚をつまんでその厚さをはかる。誤差範囲が多いのが難点であるが、簡単に計測できる。

6:体内の脂肪の量により、交流電圧のインピーダンスが変化する原理を利用した方法。最近では体重計に内臓されることが多い。計測時の湿度や身体のむくみなどで誤差がでるため、学術的使用には異論がある。

7:この方法では正確に脂肪量、骨量、筋肉量が測定できる。