By: Kazusei Akiyama, MD
2016年03月
今月のひとりごと:『頭があるから、そこが痛むのだな』
このコラムの22人の読者様、蚊の対策はできてますか?ここでも予想したとおり、ジカ熱で大変な騒ぎになってますね。海外では特に日本の感心が高いと思います。今年、リオでオリンピックが開催され、次回が東京に決定しているので、日本人が多数視察に来伯するであろうからです。ジカウイルスの伝播速度を考えると(註1)筆者は心配してます。冬期に蚊はいなくなるのですが、それは北半球の寒い冬にいえる事であって、五輪開催中のリオの冬は30℃になる事などザラだし、丁度夏期の日本に持ち帰り、「ジカウイルス日本上陸」もありうるのでは?感染したかも判らない(註2)、感染症としては軽い症状のジカ熱は本当に不気味です。
ジカ熱やデング熱の主要症状の一つとして(註3)、頭痛があります。このコラムは2009年から担当させていただいてますが、振り返ると一度も頭痛についてひとりごとしたことがありません。頭痛は実は一番医療需要が起こる症状です。世界人口の3~4人に1人が頭痛持ちともされていますし、一生の内人口の40%以上が生活に支障が出る頭痛を経験するとも言われてます。分類ですが、まず一次性と二次性に分けられます。後者はジカ熱の様に、器質的・解剖学的な異常など、明らかに原因があるもので、前者はこれらがありません。
『頭痛で生命の危機につながる事があるぞ。というか、生命の危機につながる疾患・状況のため頭痛が起こるといったほうが正しいな。読者様に忘れないでもらいたいのが次の三つの状況である:①突然の頭痛、②経験した事が無い頭痛(註4)そして③悪化傾向の頭痛。これらの3状況のどれでもあると必ず診察を受けるように!』
頭痛の分類と細分類を表に示します。
分類 |
細分類 |
特徴 |
一次性頭痛 |
緊張型頭痛 (tension type headache) |
一番多いタイプ。肩こりなど筋肉の緊張とストレスが関連。身体的ストレス:無理な姿勢。枕など寝具の不具合。目の酷使。など。精神的ストレス:心配事、不安、悩み、失望や不満などを抱えることなど。 |
片頭痛 (migraine)(註5) |
名称のとおり、頭の片側が痛む。光で誘発・悪化。運動後や緊張が解けた休日などに起こりやすい。一部に前兆がある(註6)。拍動性の痛み。若い女性に多い。睡眠で軽快する事が多いが、起床(光に当たる)で始まる事も多い。原因はセロトニン説と三叉神経血管説がある。 |
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群発頭痛 (cluster headache) |
原因不明。何らかの原因で頭部の血管の拡張が関わっている。ずっと頭痛がするのではなく、多い時で1年、大概数年に数回程度、1~3ヶ月のある時期にかたまって毎日のように起きる。痛み方は一次性頭痛では最悪(註7)。 |
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二次性頭痛 |
頭部頸部血管障害 |
脳出血。くも膜下出血。髄膜炎。硬膜動静脈瘤。巨細胞性動脈炎。 |
非血管性頭蓋内疾患 |
脳髄液圧の変化。SLEやサルコイドーシスなど抗原病性非感染症性炎症疾患。頭蓋内腫瘍。髄腔内投与に関する医原性。 |
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感染性 |
全身性感染症:風邪、感冒、デングやジカ熱、伝染性単核球症など。頭蓋内感染:髄膜炎、脳炎、脳膿瘍など。 |
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物質の添加あるいは離脱 |
食品(註8):アルコール。グルタミン酸。亜硝酸塩。グルテン。アスパルテーム。チラミン含有物(赤ワイン、チーズ、チョコレート、柑橘類など)。など。 毒素:一酸化炭素、鉛、硝酸塩。 その他:ステロイド剤、香水、強い光。空腹。頭痛薬のエルゴタミン製剤からの離脱(註9)など。 |
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恒常的な障害 |
低酸素血症。高二酸化炭素血症。低血糖。透析。月経。経口避妊薬。 |
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頭蓋以外の頭部疾患 |
緑内障。中耳炎。副鼻腔炎。強度の近視。歯科疾患。脊椎症。など。 |
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精神科領域の頭痛 |
不眠症。うつ病。双極性障害。 |
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頭部外傷 |
機械的損傷。 |
原因はこのように様々ですが、どれも血管の拡張と血中物質による炎症が頭痛を起こすと考えれてます。治療は外科的アプローチできる疾患以外は対症療法と生活習慣の改善になります。とてもありふれた疾患なので、処方箋無しで購入できる市販薬が多々販売されてますが、一般的な頭痛薬を服用したり、生活環境を変えても症状が緩和しない場合は必ず医師の診察を受ける事が大事です(註10)。前出の命に関わるような頭痛でない一過性の頭痛はともかく、「悪化傾向になくても恒常的な頭痛」は診断と治療が必要です。また、食品、薬品、物質などの制限をする方法が片頭痛に効果があるとはすべて科学的に証明されていませんが、これらを制限する事で頭痛が寛解する事が多いので(あるいはこれらを摂取する事で頭痛が誘発されることも多いので)あながち意味のないものとは断言できないでしょう。
註1:現時点の実績:ジカウイルスの伝播速度はデングウイルスの5倍。
註2:感染しても症状がでるのは5人に1人と考えられている。また、症状は軽いデング熱様がほとんど。
註3:もう一つが「全身性発疹」。
註4:first =こんな頭痛は初めて、worst=今までの頭痛で最悪。
註5:片頭痛、偏頭痛とどちらの漢字も正しい。読みは「へんずつう」または「へんとうつう」。
註6:片頭痛の前兆:視覚の変化(視覚暗点、閃輝暗点、一過性半盲)、片麻痺や言語障害など。
註7:死ぬほど痛いと言われ、特に目の奥ががえぐられるように痛い。
註8:科学的解明されてないものもあるが、事例証拠が多数あるものを挙げた。
註9:最近は鎮痛剤も頭痛誘発因子ではないかと考えられてきている。「薬物乱用性頭痛」もそのひとつ。
註10:仮に市販の頭痛薬で症状が緩和されるとしても、それが毎日何年も続くとその薬物のため、他の臓器(腎臓や肝臓)がダメージをうける。