By: Kazusei Akiyama, MD
2019年1月
医者との会話、どうしますか?
謹賀新年。丁度キリの良い、101回目のひとりごとで始まる新年です。毎年年末になると、その年の新語・流行語大賞なるものがメディアで発表されます。去年の大賞が冬期オリンピックで使われた「そだねー」だそうです(註1)。どうやって選定されるのか、周りの日本人に聞いてみても意外と皆知らない言葉や言い回しが多いと思われますが、24人の読者様ご存じですか?説明聞いてやっと「あーそういえば」的な。
- 註1:現代用語の基礎知識選2018ユーキャン新語・流行語大賞、詳細ははhttps://www.jiyu.co.jp/singo/に載ってます。
年間大賞語:「そだねー」
トップテン:「eスポーツ」、「半端ないって」、「おっさんずラブ」、「ご飯論法」、「災害級の暑さ」、「スーパーボランティア」、「奈良判定」、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」、「#MeeToo」
『でも、2018年の流行語は「平成最後の」ではないでしょうかね?』
で、この大賞のトップテンを読んでると、一つとても共感するのがありました。法政大学の上西充子教授が編み出した「ご飯論法」というもので、日本でおこっている不誠実な国会答弁をたとえたものですが、なんと医療の現場にもあるのです、これをやる患者さんが。
ご飯論法は次のように展開します:
Q「ご飯は食べなかったんですか?」
A「ご飯は食べませんでした。(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」
Q「何も食べなかったんですね?」
A「何も、と聞かれましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので…」
Q「では、何か食べたんですか?」
A「お尋ねの趣旨が必ずしもわかりませんが、一般論で申し上げますと、朝食をとる、というのは健康のために大切であります。」
Q「いや、一般論を伺っているんじゃないんです。あなたが昨日、朝ごはんを食べたかどうかが、問題なんですよ。」
A「ですから…」
Q「じゃあ、聞き方を変えましょう。ご飯、白米ですね、それは食べましたか?」
A「そのように一つ一つのお尋ねに答えていくことになりますと、私の食生活をすべて開示しなければならないことになりますので、それはさすがに、そこまでお答えすることは、大臣としての業務に支障をきたしますので。」
つまり、「朝食」という意味での「朝ごはん」を摂ったかどうか聞かれているのに、「ご飯=白米」にすり替えて「食べていない」と言い、「パンを食べた」事実は明かさない。あとは何を聞かれても、一般論でごまかす。ということです。
診察室で実際におこったケースで展開してみると次のようになります。
Q「お酒は飲まないのですか?」
A「日本酒は飲みません。(ビールは飲みますが、それは黙っておきます)」
Q「何も飲まないのですね?」
A「何もと言われても…仕事の付き合いで少しは飲まないといけない時もありますけど。」
Q「では、飲酒されますね。」
A「いやあ、飲酒といわれる範囲がちょっとわかりませんが、仕事でのお付き合いは重要なのです。」
Q「仕事の話をしてるのではないのです。あなたがお酒を飲むか飲まないかが問題なのですよ。」
A「ですから…」
Q「じゃあ、聞き方を変えて、理由はともあれ、アルコールが入った飲料は飲まれますか?」
A「そのように私の生活の内容を全て言わないといけない事はちょっとプライバシーに関わりますので…」
『ここまで来ると、「一体何しに医者に来たの?あんたの健康の話だろ!」と、速効で「医者患者関係(註2)が悪くなるのだな。』
- 註2:doctor-patient relationship、2009年9月のひとりごとをご覧ください。
健康で医者に行かずにすむ一年になるのが好ましいと考えますが、もし受診する必要がある場合、医者とご飯論法式の会話するのは絶対に止めましょう。診断に至る判断を誤る事になりかねませんし、結局損するのは患者さん本人なのですよ。ということで、今年もどうぞよろしくお願いいたします。