By: Kazusei Akiyama, MD
2015年03月
今月のひとりごと:『解禁状態だな、キス。けど、汚ったね~』
さてまたカーニバルの時期が来ました。正確にいうと、時期が去ったのですが、今年は早めにあったので良かったです。当地に住むと解るのですが、ブラジルでは「カーニバルが済んでようやく一年が始まる」のでようやく仕事に取り付けるといった所です。カーニバルネタは毎年あるのですが、ここ数年前から加速している現象で、今年はすっかり定着した感じの「beijo na boca」についてのひとりごとです。
『直訳すると、「口にキスする」で、この場合は濃厚接吻、ディープキスのことだな。で、どんな現象かというと、お祭り(この場合は公道でのカーニバル騒ぎ)で群衆が集り、すれ違った不特定多数の人とディープキスをするのだ。大抵は男女のパターンだが、男x男でも女x女でもよい。できるだけ多くの他人とキスするのがいいのだそうだ。強制的にするのではなく、ま~遊び感覚でやるわけだが、医学的に観て全然お勧めできることではないよな。お互いの同意の上成り立った行動なので、法的には問題がないが(註1)しかし、汚いと思うぞ。』
日本の文化でもキス、接吻は愛情の表現であり、性的行動の一部でもありますね。西洋でも愛情の表現ですが、やり方によって、度合いが違います。つまり、額にすると、親愛、頬だと単なる挨拶(註2)、口だと愛情、さらに濃厚な口だと性行為といった位置づけになります。挨拶以外は、いわゆる「気持ちの良い、良くさせてくれる」行動に当たります。で、今回のひとりごとの現象は①できるだけ気持ちよくなりたい、②特定のお付き合いはしたくない(註3)が合わさったものではないかと考えます。はっきりいって、この現象のキスは性的行動と取れるでしょう。
『で、当事者達は性交までいってないので安全だと思っているらしい。性交「よりかは」安全かな。しかし、キスで伝染する病気などいっぱいあるぞ。しかも、完全治癒しないものまで。反対に性交のほうが、機械的なバリアを使用することが出来るので(註4)キスより伝染性が低いかもしれない。口の中(医学的にいうと、口腔内)はバイ菌がとてつなく多いぞ。場合によっては肛門より細菌が多い(註5)。年齢とか歯の有無にもよるが、一般的に口腔内には300種類以上の細菌が存在し、その総数5000億個くらいある!(註6)』
キスによって伝染する疾患をまとめてみると次のようになります。典型的な「キス病」とされるのが、Epstein-Barrウイルス感染である伝染性単核球症(infectious mononucleosis)です。重症化する事が多い細菌性髄膜炎。でも頻度の多いのが唇ヘルペス(1型ヘルペス)で、これは一度感染すると一生治らない。さらに、A型とB型肝炎。人パピロマウイルス。梅毒。歯周炎、虫歯(註7)。風邪、感冒。アメーバやべん毛虫のような原虫系寄生虫。真菌症。都市伝説ではキスによるAIDS伝染がありますが、これは科学的に証明されたことがありません。感染症の治療が進み、ちょっとしたことでは命にかかわる事がなくなってきた(註8)のがこの現象を助長しているのではないかと思う筆者でした。
医学の進歩も善し悪しでしょうかね?
- 註1:2009年にブラジル刑法の部分改定があり、強姦や性的虐待の定義が変わり、キスでも強制的にするとこの法に触れる可能性大。
- 註2:この挨拶のキスがブラジルの地方によってやり方が異なる。サンパウロでは1回(右側)、リオとミナスが2回(右左)、北やかなりの田舎にだと3回(右左右)なのだ。特にサンパウロ市では1回以上頬キスしようとすると、「田舎者」とバカにされる事があるので注意!
- 註3:最近は特定の人としっかりお付き合いしないのがトレンドらしい。自由が良いとか、面倒だとか、色々理由があるようだが、反面、寂しい人間を大量に産出しているのではないかな?多数に囲まれた孤独。
- 註4:コンドームのことだな。
- 註5:この「場合によって」は簡単になる。1日歯磨きしないと、口腔内細菌数が爆発的に増える。
- 註6:キスをたくさんすると勿論増えるが、ある一定の数になるとそれ以上は飽和状態になるので増えない。
- 註7:そう、虫歯の原因のバイ菌がうつるのだな。
- 註8:特にHIVの治療が確立され、AIDSで死亡することが激減したのが、今回のような現象の行動と関係があるだろう。20年前まで、HIV陽性は死の宣言であったのが、現在では「単なる感染症」の位置づけになってきている。