By: Kazusei Akiyama, MD
2018年7月
コッパ・ビアアグラなんでしょうか?
さて世の中は4年に一度のお祭り、FIFAワールドカップの時期です(註0)。今回はロシア。前回はブラジルで開催され、ドイツにボロ負けして決勝進出を逃し(註1)たのは記憶に新しいです。その後、2015年FIFA汚職事件が勃発し、当地のサッカー連盟幹部も泥沼にどっぷり浸かっているのが判明しました(註2)。同時に史上最悪とされる贈収賄事件のラバジャット作戦が進み(註3)世の中「汚職」一点張りになり、毎日メディアに出る汚職ニュースにこれでもかと曝されてます。さらに、前大統領罷免で酷くなった左派と右派の攻防(註4)の板挟みになり、もう4年も続く不況に生活が大変なブラジル人の疲弊に拍車がかかってます。
- 註0:ポルトガル語では「Copa do Mundo FIFA コッパ・ド・ムンド・フィッファ」
- 註1:その後、3位決定戦も惨敗。2014年8月のひとりごとを参照。
- 註2:このため、ブラジルサッカー連盟の元会長はスイスで逮捕され、現在米国で拘置されている。また、前会長は国際指名手配されており、ブラジル国外に出られないため、FIFA理事を解任された。
- 註3:これでブラジル元大統領、国営石油公社ペトロブラス前社長、ゼネコン最大手の社長などが収監された。
- 註4:に伴う主張合戦、デマ、強迫、フェイクニュースなども…
『「汚職スキャンダル地獄」と呼ばれてますな。』
この様な社会状況で開催されたコッパ。ブラジルではコッパの時は、ブラジル代表チームを応援しないのは「非国民」みたいな感情があり、「もちろん」国民全体が一丸となってセレソンを応援するのが「当たり前」でしたが、今回は全く雰囲気が違います。「もうどうでもいい」感情が多く見当たります。
『「それどころではない」と、生活に追われているから?(註5)』
- 註5:それだけではないでしょうけど、これについては又別にひとりごとできますね。
結果、応援グッズの売り上げは伸びない、テレビも売れない、人々は熱狂しないのないないつくしで盛り上がりません。遂にCopa Viagraという言葉も出てきました。
このビアアグラは勃起障害治療薬のバイアグラの事ですね。勃起障害は性機能障害の一つで、後者は以前「性的インポテンツ」と呼ばれており、つまり、ポテンツ=力が足りないから当地では性的発言でなくても「力不足」の場合の対処に「バイアグラでも飲めば?(註6)」といった表現に発展してます。不祥事の多いサッカー連盟や代表選手などの力不足にも絡んでいるのでしょう。今月のひとりごとはこのバイアグラに焦点を当ててみます。
- 註6:Toma um Viagra。
男性の「性機能障害」は勃起障害の他に射精障害や性欲低下があります。英語名称 erectile dysfunction の頭文字を取ってEDと通称されてます。EDは「満足な性行為を行うのに十分な勃起を得られないか、または維持できない状態が3ヶ月以上持続している」であり、また、「通常性交のチャンスの75%以上で性交が行えない状態」とも定義されます。
『事情が事情だけに大らかに言えない訳だな。』
EDは原因により次のように分類されます。
分類 |
説明 |
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器質性 |
血管性 |
動脈性 |
動脈硬化の関与が殆ど |
海綿体性 |
血流を受ける側の問題 |
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混合性 |
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神経性 |
陰部への刺激の神経伝達の問題 |
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解剖性 |
骨盤内手術の既往が主、陰茎自体の異常 |
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内分泌性 |
勃起に関する成分代謝の問題。性腺機能低下。 |
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心因性(機能性) |
解剖学的に問題ないが、不全。ストレスが多い。 |
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混合性 |
EDの大半は陰茎に流入する血液量が減少するのが主な原因です。動脈硬化と併存が多いため、血管性の疑いの場合、他の臓器においても血流障害がありうるので、動脈硬化性変化を検査する必要があります。50歳台より増加し、日本人の罹患率は40代前半16%、40代後半20%、50代前半36%、50代後半47%、60代前半57%、60代後半70%と報告されてます。しかし20歳台の若年層でもみられ、これは心因性のものが多いです(註7)。リスクファクターは多岐にわたり、年齢、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常、肥満、運動不足、薬剤使用、うつ、ストレス、教育不良などがあります。
- 註7:新婚性勃起障害というのもありますね。
治療は1998年に販売開始になった「クエン酸シルデナフィル」=バイアグラが革命を起こしたと言って間違いないでしょう。かつては治療が難しい障害であったのが、患者単体で薬物服用して治療に当たれるようにできるようになり、EDの認知度や患者の積極性も変化しました。この薬物はPDE5阻害と呼ばれる作用を持ち、シルデナフィル以外に2種類市販されてます(註8)。これら経口勃起障害治療薬は器質性障害も含め殆どEDに使用され、有効性は7~8割とされており、「比較的」安全な薬です。併用禁忌は狭心症の治療薬であるニトログリセリンなど硝酸薬であり、併用するとショック状態になる危険性があります。また、日本語には「腹上死」(註9)とあるように、性交は体力を使うため、バイアグラ服用時に狭心発作がおき、搬送された救急病院でニトログリセリンを投与されて症状が悪化するケースもあります。従って、典型的な医師の処方薬ですが(註10)こっそり使いたい人が後を絶たないので日本ではインターネットによる個人輸入が盛んです(註11)。
- 註8:2004年販売のレビトラ、2007年販売のシリアス。
- 註9:医学用語では「性交死」。
- 註10:処方薬は必ずメリットとデメリットを天秤にかけて出すため。
- 註11:日本国内のインターネットによる個人輸入では半数強が偽造薬品との試算がある。
『間違いなく50歳以上の男性の性交には役立つ薬物だな。但し、性欲増強目的には使えない。PDE5阻害薬は自分の勃起を補助する薬であって性的刺激がないと、薬の効果が発現しないから。(註12)』
- 註12:勃起をおこす薬はある。血管作動性薬剤であるプロスタグランジンE1またはパパベリン塩酸塩を陰茎海綿体に注射するといやでも勃起する。
性交は人間の存在そのものと関係するものです。EDは上述のように、かなり罹患率の高い健康上の問題なので、1人(あるいは2人)で困らず、医師に相談してみましょう。
『さてコッパ・ビアアグラ、セレソンは決勝トーナメントに進出できたみたいだけど、バイアグラのんでパワーアップするのでしょうか?』