By: Kazusei Akiyama, MD
2014年10月
今月のひとりごと:『意味の無い検査は…意味が無いぞ。』
このコラムの22人の読者様、皆様お元気でしょうか?今月は「検査」つまり、「臨床検査」のひとりごとです。検査は医療のなかで診断にたどりつく手段であることはあまり説明が要らないと思います。そういった意味では問診や聴診も臨床検査ですし、体重測定もそうです。しかし一般的に検査というと検体検査と生体検査が臨床検査と理解されていると思います(註1)。
『要するに、検査をして医業の目的の一つ、診断に行き着くのだが、現在の医療のやり方をみていると臨床検査そのものの一人歩きがあるのではないかと思うほど「検査」を重要視する傾向にあるだろう。元々臨床検査は医学教育の過程で「補助診断(註2)」と呼ばれ、問診と診察、つまり医師が患者を直接診る行為こそが病態把握に最も重要であるとの考え方を教えるものであるのだな。実際、臨床学の大先生に言われたのが「ちゃんと問診と診察をすると8割方診断がつく、残り2割の疑問点などを臨床検査で確認する」であったのだ。ここでのポイントは「確認する」であって、なにか解らんから検査で決めることではない。』
いわゆる検査で病気の有無を決定するのは実は大変な問題があるのです。画像に写ってないから陰性であるとか、検査が陽性であったから病気ですとか一般的にはそのように考えるのですが、人間がかかわるすべての物のとおり、「検査ミス」の問題もありますし、またすべての検査にまとわる「感度」と「特異度」といった特徴のため、偽陽性と偽陰性があります。
『例えば血液検査の結果は数字で出ると、なにか正確な感じがするのだが、検査ミスでその数字が検出されている可能性があるぞ。有名な話しで、1970年代米国CDC(註3)が米国の検査ミスを調査した結果、ミスが全体の25%以上もあった。4分の1だぞ!仮にミスがなかったとしても、どの検査にも感度と特異度という概念があり、結論からいうと100%正確な検査は地球上存在しない。簡単にいうと感度とは「その検査がどれだけ目的の変化を検出出来るか?」であり、特異度とは「その検査はどれだけ目的の変化を検出するのに向いているか?」といえるだろう。例えば、頭痛の検査で心電図は向いていない。あるいは子宮癌の検査でレントゲン撮影は感度が低い。感度が高くて特異度が低い検査は偽陽性、つまり病気がないのに陽性と出る確率が高くなる。特異度が高くても感度が低い検査は偽陰性、つまり病気があるのに陰性と出る確率が高くなる。前者は本当に病気である人を見逃す確率が減るが、無い人を正しく診断できない。後者は前者のように無い人を病気であると診断しないが、あるひとを正しく診断できない。』
この様な現象を理解しながら診察しないといけないのですが、一般的な医療実態ですと診察時間が短く、医師が熟考する時間がないので、補助診断であるべき検査に頼ってしまうのですね。また、場合によっては病院や医療機関の収益のために検査をだす事もあるでしょう。なにがなんでも「検査」が良い訳ではありません。前出の偽陽性ですと、不必要に心配しますし、確認の精密検査などさらに費用やリスクがかかります。また、検査の概念に「侵襲性」があり、感度も特異度も高くても高侵襲であるとトラブルになる可能性が高くなります(註4)。
『さらに、検査は診断のみに影響をあたえるものだけではなく、治療にも影響をあたえるものでないと意味がない。例えば、インフルエンザはA型とB型があるが、検査によりAかBが出ても、治療は同じだし、一般臨床現場では予後は同じなので、はっきりいってどっちでもいいのだな。反対の例はウイルス性肝炎の場合、A型、B型、C型、その他あるが、型によって治療薬や予後が異なるので判別が重要である。また、必ずしも検査に陽性を求める訳ではない。場合によっては、「ほら、何もないですよ」と患者さんを安心させるために検査をすることもあるぞ。』
ということで、「検査」は「補助診断」と位置づけする医療が患者さんにとって一番良いのではないか?と考える筆者でした。
註1:検体検査とは血液や尿、組織サンプルなど人体から採取した検体を試験所に持ち込み検査する。生体検査はレントゲンやMRIなどの画像診断、内視鏡や眼科の検査、負荷試験や機能検査など人体を実態で検査する。
註2:ポル語ではexames complementares、英語ではsupplementary testsやcomplementary diagnosis examsなどと呼ばれる。
註3:Centers for Desease Control、疾病対策センター。主に感染症の世界的権威。
註4:大まかに、侵襲的検査、低侵襲的検査、非侵襲的検査に分類される。英語でinvasive test (examination), little invasive or minimally invasive, non-invasive test。