いや、本当に増えてんのですよ。

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年10月

今月のひとりごと:『いや、本当に増えてんのですよ。』

先月からの続きです。何が増えているかというと、乳ガンです。このテーマはやはり皆さんの日常と関係があるようで、たくさんお問い合わせやコメントがありました。一番多かったのが、「本当にこれだけ増えているのか?」でしたね。その他、「これだけ多いといっても全部が悪性な訳ではないでしょ?」や「乳房切除するしないは何処が分かれ目か?」「自分も直ぐにがん検診行った方が良いか?」なども代表的でした。前回出したグラフにある35年間で4.5倍の罹患率は解りやすい以上にインパクトがあったようです。

まず増加率を考える前に「検査率」といった概念の説明が必要です。これは乳ガン検診対象の女性がどれだけ実際に検査を受けたか?という数字です。日本での乳ガン検査率は30%強で先進諸国ではとても低いです。画像診断など検査器機の進歩による罹患率の増加は医学会ではよく知られた現象です。乳ガンの場合も同じです(註1)。日本の場合、40歳以上の女性が2年に1度マンモグラフィー検診を受ける費用を国が補助してくれます。しかし検査率そのものは30%台の前半をジリジリ推移しているだけで、受診率が圧倒的に増えたため罹患率も増えたパターンではないと考えられます(註2)(註3)。反対に仮に半分の2.2倍であれば良いのかというと、それでもとても大きな増加率だといえるのではないでしょうか?乳ガンが「かなり」増えているのは間違いのない事実なのです。

次ぎに悪性良性の話しです。例のグラフに出てくるのは残念ながら全て悪性の乳ガンです。これは乳房の「しこり」の勘違いではないかと思われます。乳ガンもしこりの一つですが、しこり全てがガンではありませんし、殆どが良性の変性です。次ぎの表に乳房のしこりの大まかな種類と特徴を示します。

切除の分かれ目は「病期」に関連します(註4)。乳ガンの組織分類では非浸潤癌と浸潤癌に大きく分けられます(註5)。乳ガンは乳管のガンが一番多いのですが、その癌細胞が乳管内に限定しているのが非浸潤癌でいわゆる「早期ガン」と呼ばれるものです。予後が大変よく、切除すると殆どが完治します。病期は浸潤の有無、腫瘍の大きさ、リンパ節への転移、遠隔組織への転移で決まります。普通手術はIIIa期までで、0期に近いほど切除範囲が少なくなります(註6)。次ぎの表に乳ガンの病期を示します。

直ぐに検診したほうが良いか?は年齢帯によります。40歳代後半から60代前半であってした事が無い場合は「直ぐに」ですが、この年齢帯の前後は「医師と相談の上」になります。特に有名人が30代で発症し、死亡までしているので30代がとても心配と関心があるように思われます。しかし、40代以下の乳ガン検診は勧められません。理由はこの世代の乳ガンは希の為、ガンが見つかるより検診のデメリットのほうが大きいからです。40代未満の乳ガン発症率は全体の6.5%前後で殆ど変化してません。ただし、罹患率でみるように発症する人口そのものが増えているため(4.5倍になっているでしょう?)、「若い人も」乳ガンが増えているのです。若い世代は乳腺濃度が濃いため、マンモグラフィー検診の有効性があまりありません。また、疑いありで精密検査になった場合、組織を採る生検をするなど身体的負担があったり、ガンの疑いであるため結果が出るまでの精神的負担が大きい。日本乳癌検診学会誌によると好発の40代の住民検診の研究の結果は1000人中実際に乳癌だった人は2.8人でした(註7)。

『色々条件やリスクがあるので、一概に「こうすべきだ」とは言えない。しかしとても多いガンなので、しっかりとかかりつけ医に相談し、検診のデザインを各自個別に作るのが重要だと思う。』

最後にハイリスクの女性はこの限りではないので、綿密なフォローが必要です。ハイリスクのチェックリストはボックスに示します。一つでも該当する場合は年齢を問わず専門医を受診しましょう。


註1:東北大でマンモグラフィーとエコー検査を組み合わせると前者のみより発見率が1.5倍に増える研究結果などはその一例であろう。

註2:このパターンは開発途上国に多い。つまり、医療機関そのものが無かったのが出来たとか、行けるようになったとかで受診率が増える。

註3:いわゆる行政が推奨する検診の検査率はあまり変化がないのだが、社会の認知度が高くなり、個別に受診したケースもあるので、単純に罹患率のみ増加したとは言えない。

註4:病期は「ステージ」とも呼ばれます。

註5:詳しくは非浸潤乳管癌、非浸潤性小葉癌と浸潤乳管癌が代表的。

註6:一番小さな切除は部分切除である「温存手術」から「全摘術」まで。場合によっては両側全摘もあるが希(遺伝型のハイリスクなどの場合)。

註7:検診を受けた1000人の内83.5人が偽陽性、その内追加の画像診断を行った人が73.4人、その内さらに生検を行った人が6.9人、最終的に本当に乳癌だった人が2.8人。つまり、検診にひっかかったが本当にガンであったのは3.4%、反対に96.6%の人が「無駄にビビった」訳ですね。