どうしてこんなに増えているのだろう?

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年09月

今月のひとりごと:『どうしてこんなに増えているのだろう?』

何が増えているかというと、乳ガンです。今年の6月にセレブな小林麻央さんが34歳の若さで乳癌のため死去されました(註0)。これは診療所に来られる女性達にも大変なインパクトがあった様で、よく話題にあがります。乳癌はとても増えている病気のため、有名人の死亡原因だっただけではなく、皆実際周りにもよく聞くよくある癌なので心配になるのだと考えております。よい機会なので、今月は乳癌についてひとりごとしてみます。

乳腺組織にできるガンが乳癌で、皮膚癌を除き、世界中で女性に一番罹患率の多い癌です。地域により変動はありますが、女性の癌の約1/4が乳癌です。まず図1をご覧ください。これは日本の日本人女性の乳癌罹患率です(註1)。1975年のデータを2010年のとを比較すると約4.5倍にも増えている事が明白です(註2)。現在、日本では毎年約6万人が罹患してます(註3)。現時点では日本人女性の14人に1人がこの癌になると推測されており、皆の周りでもよくあるのも納得できますね。30歳台後半より増加し始め、40歳台後半でピークがあります。欧米人の場合、同じように増加し始めるのですが、70歳台くらいまで段階的に増えていきます。日本人の場合、一度減少し、60歳台前半で再度ピークがあります(図1)。増加とは言葉のとおり増えると言うことで、乳癌は20歳台から発病可能です。また、希ですが、男性にも乳癌はあります(全体の1%程度)。

どの病気もそれに罹るリスクがあります。乳癌のリスク要因として,初潮年齢が早い,閉経が遅い,出産経験がない,(註4)などとともに乳癌の家族歴が古くから指摘されてきてます。今回の癌の場合はリスクは低中高と3段階に分けられており、一番リスクが高いのはいわゆる家族性とされる、遺伝子が関係するタイプです(註5)。家族に乳癌の罹患者がいた場合,乳癌の発症リスクは増加し,その血縁者が遺伝的に近いほど,また乳癌罹患者の人数が多いほどリスクは増加します。母親または姉妹が罹患した場合、リスクは一般人口の2倍、母親姉妹ともに罹患の場合のリスクは13倍にまで上がります。日本人女性に乳癌が増えている原因は「食の欧米化」や「社会進出」が挙げられてます。初潮が早まったり閉経が遅いのは食と関係があると考えられてます(註6)。また、社会進出は晩婚化、少子化をもたらし、つまり女性が生涯生理になる回数が増えている事になります。この二つの現象は乳癌細胞を増殖させる女性ホルモンの一つ、エストロゲンに「曝される」時間が増えているのですね。(註7)。

しかし、近年の免疫学や遺伝学の進化で、昔から言われてきた女性ホルモンのみが主要な要因ではない事判明してきてます。乳房細胞を増殖させる物質にHER2(註8)と呼ばれるタンパク質があり、これが多いタイプの癌が一番悪性です。ホルモン受容体陽性または陰性、HER2も陽性または陰性によって分類されるようになりました。幸いHER2を特異的に抑制する抗HER2薬が開発されており(註9)、一番予後の悪かったHER2陽性癌が一転治療成績が良くなりました。この免疫学的分類で治療も「ホルモン療法」と「化学療法」と「抗HER2療法」の組み合わせとなり、代表的なオーダーメイド療法になりました。

紙面の都合で乳癌の分類や予後、治療や予防についてはまたの機会ひとりごとしますが(註10)、最後に一言:「どの癌でもそうですが、とにかく早期発見、早期治療が重要です」。「自己検診は早期発見につながる」といった明確な結果はないのですが、女性が自身の乳房に馴染んでおくのは重要です。

自己検診の方法:

1.20歳以上は月1回。

2.生理直後が一番乳房が浮腫んでないのでその時期に。

3.観る:鏡の前でリラックスした状態で両手を下げ、正面、左右斜めから乳房の形を観察し、変形(突出や陥没)や左右差を観る。次に両手を上げ、同じ観察をする。

4.触る:指の腹で旋回しながら全体を触り、しこりの有無、変化、増減を観察する。また、乳首をつまんで分泌物がないか調べる。

『一般リスクの女性は45歳から55歳までは必ず毎年医療機関で「乳がん検診」(註11)を受けるように!』


註0:ご冥福をお祈りいたします。

註1:罹患率:ある期間(普通1年間)でどれだけ(普通人口10万人に何人)新規にある疾患が現れるかをあらわす率。

註2:2014年のデータで115人/10万人。

註3:ブラジルの統計:2016年に新規約58000件。

註4:つまり繁殖可能期間が長い事。

註5:乳癌と関係がある遺伝子であると解明されているのがBRCA1とBRCA2と呼ばれる遺伝子の異変。

註6:欧米化の高脂肪高タンパク食で体格がよくなる。

註7:反対に妊娠出産はその間閉経するので回数が多いほど、乳癌リスクが減る訳ですな。

註8:ハーツーと発音。シャレじゃないよ。

註9:最近注目の、biological medicine「生物学的製剤」と呼ばれる新薬。

註10:2013年7月のひとりごと(予防的乳房切除)もご覧ください。

註11:普通、医師の問診、触診、マンモグラフィ検査、場合によっては乳房エコー検査、MRI検査。