ばれっとしょくどうってどっかのレストランですか?

By: Kazusei Akiyama, MD


2011年06月

今月のひとりごと:『ばれっとしょくどうってどっかのレストランですか?』

レストランではありませんね。食堂ではなく食道。BarretosではなくBarrett’s。今月もまた堅いひとりごとです。食道の病気は欧米人に多く日本人には少ないとされていたのですが、最近は増加しているのは間違いがないようです。筆者の一般内科業務でも健康診断業務でもほとんど毎日の様に「逆流性食道炎」が見あたります。業務の性質上、前者は有症状、後者は無症状ですが 逆流性食道炎は酸性の胃液が食道内に過剰に逆流して起こり、次のような原因が考えられます:① 逆流を防ぐ機能が低下;② 蠕動運動の低下;③ 腹圧の上昇;④ 胃液の分泌増加。これらの原因を誘発する要因は:肥満、前屈姿勢、老化、ストレス、 食道裂孔ヘルニア、食後すぐに横になる、喫煙・飲酒、食事の内容(高脂肪、刺激物、塩分の多い物)、薬品や化学物質の摂取などが挙げられます。症状は主に「胸焼け」ですが、「咽頭痛」、「喉の違和感」や「咳」として現れることもあります。

『老化や姿勢はともかく、食べ物と生活状況と密接した病気だな。食の欧米化と生活の都市化が関係していることは異論がない。ようするに脂っこいものをおいしいと喜んで摂っているとやばいのだ。また、夜遅く食事をしたあと、直ぐに寝るのも良くないぞ。問題は症状で苦しむだけではなく、炎症がずっと続いていると、しまいにびらん→潰瘍→合併症=出血(註1)、狭窄(註2)、バレット食道(註3)に移行することが多いのだな。』

バレット食道とはつまり食道の粘膜が小腸の粘膜に変化してしまった状態です。ここで問題になるのは一度診断がつくと、年間0.5%の確率で発ガンする可能性があることです。このため、「前癌病変」と呼ばれる病態に分類され、定期的な経過観察が必要になります。この合併症もあまり日本人にはないものとされてましたが、近年増加の傾向にあるのではないかと考えられてます。胃痛や胸焼けなどの症状がある場合は治療の対象になりますが、ない場合は観察のみになります。治療薬の服用も重要ですが、それ以上に食事と生活内容の改善(註4)が重要であるのではないかと思う疾患です(註5)。

『単なる胸焼けと思わずに、症状がある場合は一度診察してもらったほうがいいぞ!』

 

1:食道の周りにある静脈に到達し、障害をおこす。

2:潰瘍が治るとき、組織が萎縮をおこし、内径が狭くなる状態。嚥下障害になることが多い。

3:炎症刺激のため、食道の扁平上皮が円柱上皮に化生した状態。内視鏡検査で確定診断される。

4:腹圧が上がらない様にする:服装に注意する、重いものを持たない、前屈みの姿勢や座りっぱなしをやめる。食事:長期の絶食をしない、一度に沢山食べない、食べてすぐに横にならない、早食いをしない。避ける食べ物:脂肪・油が多いもの(揚げ物、チーズ、シュラスコなど)、チョコレート、砂糖が多いもの、塩分が多いもの、柑橘類、トマトソース、コーヒー、香辛料、酒類の過多(特にビール)、コーラ類。その他避けるもの:たばこ、運動不足、肥満、ストレス。

5:でもどこの文献を読んでも、食事や生活指導だけでは不十分なことが多いとでているのだな。これは生活習慣はなかなか変革できないことを示しているのでは?24人の読者様たちは変革できますか?