ポルトガルは日本人にとって身近です。

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年06月

今月のひとりごと:『ポルトガルは日本人にとって身近です。』

先日学会出張のついでにリスボンへ行ってきました。一度は行きたい場所の一つで、もちろんブラジルの宗主国であるので当地の原点を観たいのでした。このコラムの24人の読者様の中でも既にポルトガル旅行されてると思うので重複するのはお許しいただいて、少し感想させていただきます。全体はまあのんびりした所で、首都のリスボンでもヨーロッパの田舎といった感じです。この街は西ヨーロッパの一番古い都市であるので、本当に歴史を感じます。ポルトガル人はスペイン人と共に最初に大航海時代に乗り出し、ブラジルを含める大植民地を構築した訳ですが、同じように大植民地を持った英国と比べると、宗主国に残った富はそれ程でも無いように見えます。植民地支配の件ではポルトガル自体その英国に最終的に奪取された史実があるので、ブラジルから出た財宝はあまりポルトガルに残らなかったのだなと思いました。特に感激したのは2点あります。一つは料理で、魚の焼き具合が絶妙であった事です。ちゃんとしたレストランでも街の屋台でも流石と思わせてもらえました。もう一点はTorre de Belémベレンの塔です。この場所からポルトガル人は航海に出て、ブラジルや更に遠い日本まで行ったと思うと感動しました。

リスボンから長崎までは本当に遠いですよね。それを16世紀に木造の船で航路を確定した人間の根性は脱帽ものです。あまりにも遠すぎるし、当時の航海技術ではいっきにポルトガルから日本まで行けた訳ではありません。航路も1498年にインド航路を作り(註1)、ゴアを拠点に(註2)東アジアへ進出し、ようやく1543年に種子島にたどり着いた訳です。この時点ではポルトガル船ではなく、漂着した中国船にポルトガル人が乗っていたと歴史に書いてありますが、凄いのが、その7年後の1550年にはViagem do Japãoと名付けられたゴア発長崎着の航路が確定している事です(註3)。それから1639年の鎖国で南蛮人追放がおこるまで1世紀近くポルトガルと日本の交流は続き、現在まで日本に影響を残しているわけですね。表1は日本語に残るポルトガル語をまとめてみました。

ポルトガル大航海時代の生還率は約20%であったそうで、遭難、難破、襲撃、疫病(註4)、などで4/5が途中で倒れたという凄い統計です。16世紀はそのような時代なので、当時のポルトガルの平均寿命約30歳(註5)と現在では少し考えられない(註6)状況でした。現在(2014年度)の平均寿命が日本83.59歳、ポルトガル80.72歳(註7)であることを考えると、人類は本当に長寿になったと言えます(註8)。

表1:日本語になったポルトガル語

日本語

ポルトガル語

備考

コップ

copo

パン

pão

タバコ

tabaco

ボタン

botão

シャボン

sabão

日本では石けん水の玉、ポル語石鹸

ビスケット

biscoito

合羽

capa

かるた

carta

花札も西洋の輸入品目

金平糖

confeito

襦袢

gibão

如雨露

jorro

おんぶ

ombro

ポル語、肩の事

ビードロ

vidro

日本ではガラス細工、ポル語ガラス

ビロード

veludo

カステラ

castella

スペインカステーラのパンの略

ブランコ

branco

balançoバランソから転じたとの説も

南瓜

camboja

ポルトガル人がカンボジャから持ち込んだから

天ぷら

tempero

ポル語では料理の下味をつける意

木乃伊

mirra

ミイラを作成する時の薬がミイラそのものを指すようになった

 


註1:1488年にアフリカの喜望峰を通過してから10年かかってますね。

註2:ゴアは最近の1961年までポルトガルの植民地支配だった!

註3:季節風を利用するため、年に1度の航海であった。

註4:特に壊血病、新鮮な野菜や果物不足のためビタミンC不足による病気。

註5:日本の平均寿命は約33歳。

註6:現在でもアフリカでは平均寿命30歳代が存在します。

註7:ちなみにブラジル74.40歳。

註8:この飛躍には公衆衛生、食糧の改善がほとんどで、医学の進歩の貢献は10%程度と言われる。


ソーセージと言っても、色々ありますよ

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年05月

今月のひとりごと:『ソーセージと言っても、色々ありますよ』

このコラムの24人の読者様も既にご存じの様に、先月当地で食肉不正が発生しました。ブラジル連邦警察(PF)の大がかりな捜査はすべて名称がつきます。で、今回のは「Operação Carne Fraca」直訳すると「弱い肉作戦」です(註1)。PFの操作の名称はその内容にちなんだ命名があるのですが、今回のは絶妙な名前です。「安モンの肉」という意味と聖書に出てくる「肉が弱い」(註2)つまり「欲望に勝てないため汚職に走った」を上手く掛け合わせてあります。この食肉不正は食肉加工業者がブラジル政府の検査官に賄賂を渡し、品質管理基準に満たない食肉が認可され(註3)国内外で流通していた疑いの捜査でした。日本でもブラジル産の食肉が輸入されているので、輸入保留されましたし、EU、スイス、中国、チリなどは輸入停止、全部で31カ国・地域が輸入を止めるの騒ぎにまでなりました。問題のあった加工業者は主にパラナ州を拠点にしている企業ですが、全国におよび、流石のブラジル人も肉の消費を控え、スーパーでの売り上げが軒並み減少しているようです(註4)。問題のあった製品は牛肉、豚肉、鶏肉の加工品で、ソーセージ、ハンバーガー、冷凍鶏肉などで、「水分含量が基準より多い」「蛋白含量が基準より低い」「使用基準より添加物が多い」「サルモネラ菌汚染」などの容疑があります。捜査の証言では加工の工程で消費期限切れや産地不明の肉の使用、段ボールの混合(註5)などが指摘されてます。

『ブラジル政府は「S.I.F.下で確認された単発的な法規違反、一部の公務員が犯した職業上の逸脱行為であり、ブラジルの衛生管理制度全体の機能不全を意味するわけでない」との姿勢である。元々そこらで屠殺された家畜を適当に販売していた社会に衛生基準を取り入れたS.I.F.制度自体は正しいと思うし、全世界への輸出実績を勘案すると(註6)S.I.F.がついている食品はないより安全であることはまず間違いないであろう。でもこうやって、不正が起こると、「何を食わされているのか解らん」状態になるのだな。』

今回問題があった製品の内、ソーセージが当地邦人でも消費が多いので(註7)、それ(ブラジルではsalsicha)に焦点を当てみます。なぜソーセージが不正の対象になったかというと、「かなり加工できる肉製品だから」でしょう。ソーセージの定義は「食肉+脂身+塩・香辛料を腸などに詰めた食品」です。「詰める」がミソなので、ブラジルでも「詰め物」embutidoと広義に呼ばれます。日本でもウインナーやフランクフルトと呼ばれるようにドイツ語圏の食文化ですね(註8)。ウインナー、フランクフルト、ボロニアの違いは何の腸に詰めるかで決まり、羊、豚、牛の順になります。日本のJAS規格のソーセージは特級、上級、標準と3段階の等級がありますが、ブラジルの法規では5段階あります(註9)。等級付けはどれだけ「肉のみが入る」かで決まります(表1)。

『肉のみというと、反対に肉以外のものが入ると言うことだな。』

塩と香辛料は入れないとソーセージにならないので、どれにもありますが、肉以外とは結着材料、デンプン質、砂糖、などの他、「畜肉」と呼ばれる豚の頭、鶏の首や背骨と肋骨、牛や豚の肉を分けた残骸などを「機械的処理」したモノです。物理的処理ともよばれ、残骸を機械的に濾して骨を廃除する方法です(註10)。わかりやすく言うと昔はゴミだった精肉廃棄物を「有効処理」して食用に利用しているわけです。

『安モンのソーセージのザラザラした食感は骨だったんだ~!』

表1。ブラジルのソーセージの等級。

等級

規格

1 salsicha Viena

最も肉含量が多い。牛と豚(またはどちらか)肉と脂身のみ。

2 salsicha Frankfurt

牛と豚(またはどちらか)肉と脂身にベーコンが入る。香辛料多め。

3 salsicha tipo Viena ou tipo Frankfurt

牛と豚(またはどちらか)肉と畜肉(40%まで可)と腱、皮、脂身、結着剤など。

4 salsicha de carne de ave

鳥類肉(一般的に鶏肉)肉と鶏畜肉(40%まで可)と結着剤など。

5 salsicha

牛と豚(またはどちらか)肉と畜肉(60%まで可)と内臓、腱、皮、脂身、結着剤など。

肉のみで作られたソーセージは調理すると白っぽい肉の色になります(フランクフルトは着色するので例外)。医師としてお勧めできるソーセージはブラジルでは等級1と2のみです。普通スーパーで大量に並んでいるのは5のsalsichaです。ポル語で「畜肉」は「carne separada mecanicamente」と表示さているので、是非ラベルを読んでみてください。湯煮や燻製など保存処理をしていない「生ソーセージ」(ブラジルではlinguiça frescal)が基本的肉のみで作ってますので筆者はソーセージを食する場合はfrescalの一種linguiça toscanaにしてます。


註1:1100人の捜査員の動員。194箇所で強制捜査。309通の裁判所命令。

註2:新約聖書に出てくる「肉」は「人間の欲望」の意味だそうで、「肉が弱い」とは「欲望に負ける」という事になるそうです。

註3:ブラジルの食品認可はS.I.F.Serviço de Inspeção Federal、連邦衛生検査制度による。1915年に創設された歴史ある役所。農務省(正式名:ブラジル農牧食糧供給省)の管轄。家畜、その生産物、加工品、原料;魚介類と海産品;家畜乳と乳製品;卵と卵産品;蜂蜜と蜜産品の監督・認可が業務。

註4:最近スーパーに行くと肉売り場が小さくなっている感じがします。捜査直後は10人に4人が肉の消費を減らしたとの調査結果あり。

註5:そのとおりです、紙を混ぜてカサを増やすやり方ですな。

註6:輸入する側にも検査があるので、可であるから輸入が許可されるのでしょう?

註7:なぜか日本人の朝食にはウインナーとサラダが付きもの、それを当地でも継続しているのだな。

註8:日本で「ボロニア」と呼ばれる詰め物はイタリア系、ブラジルではsalsichãoおよびmortadela。また、サラミのようなドライソーセージもありますね。

註9:正確には4+1段階。

註10:食肉処理装置という機械です。


ブラジルは今、黄熱迷走中ですな。

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年04月

今月のひとりごと:『ブラジルは今、黄熱迷走中ですな。』

先月号にも記載した当地ブラジルで流行中の「黄熱」が迷走しているのはないでしょうか?まず、黄熱ワクチン接種の勧告を記載します:「流行地域(註1)に住んでいるまたは旅行する以外はワクチン接種は勧告されてません。つまり、「どうしてもそれらの地区へ行く必要がある人が予防接種すべき」は各方面の同意があるようですが、その「流行地域」がどこか?で迷走です。WHO世界保健機関が3月にサンパウロ州とリオデジャネイロ州いずれも全域(州都のサンパウロ市とリオ市及びカンピーナス市、ニテロイ市を除く)に旅行する旅行者にワクチン接種の勧告が出ました。ブラジルの厚生省はこの勧告には反対してます。リオ州は全域を認めるが、サンパウロ州は一部必要ということです。しかし、サンパウロ州保健局は連邦政府厚生省と同調しておらず、リオ州の流行地域14行政地区への対応で十分と発表してます。いったいどうしたら良いのでしょうか?

  • 註1:2017年3月下旬時点でブラジルの次の各地の山林地帯、河川地帯:北地方(アマゾン地方)、中西地方(ブラジリアを含む)の全域、マラニョン州全体、ピアウイ州南西、バイア州西と南、ミナス州全域、サンパウロ州西、エスピリトサント州北、南地方(パラナ州、サンタカタリーナ州、リオグランデドスル州)の西(イグアスを含む)。

『まず、現時点では当地で流行の黄熱は「森林地域」とウイルスの宿主になる「野生の猿類」が関係しており、媒介する蚊も都市部でデング熱やジカ熱を媒介するネッタイシマカのAedes属ではなく、森林系のSabethes属とHaemagogus属の媒介であることが判明している。学術的に正確にいうと、黄熱ウイルスは3種類のライフサイクルがある:①熱帯雨林型、②都市型、③中間型。熱帯雨林型は森林型ともいわれ、森林内で猿と蚊の間の伝播である。都市型サイクルはヒトと蚊の間の伝播であり、Aedes属の蚊が媒介蚊となる。中間型は森林(ジャングル)の周辺境界部で見られるサイクルでヒトー蚊ー猿の間の感染環になる。今回のブラジルでの流行は「中間型サイクル」と言える。(註2)つまり、田舎、森林地帯やその周辺へ行く場合がリスクになり、それ以外はリスクがほとんど無いと言える。』

  • 註2:ブラジルでは都市型サイクルの黄熱は1942年以来観察されてません。20世紀の初めにリオの市街地で大流行した黄熱は都市型サイクルでしたが、これは撲滅されてます。

黄熱はフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルス感染です。感染は媒介動物の蚊に刺され、感染します。ヒトからヒトへの感染は成立しません(註3)。黄熱ウイルスに感染しても、全員発症することはありません(註4)。蚊に咬まれてから3日~6日の潜伏期間があり、発症した者には高熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、背部痛、悪心嘔吐等の症状が現れます(註5)。しかし、発症した15%程度が重症化し、一時期の寛解期を経て熱が再燃し、下痢、黄疸、出血、肝不全、腎不全、ショックなどに至り、約50%が死亡します(註6)。ヒトが感染源になるのは、約1週間で、発症2日前くらいから発症後5日の期間でその間に蚊が吸血すると蚊が感染します。

  • 註3:ので、この場合は性感染や垂直感染はしません。
  • 註4:不顕性感染と呼ばれます。
  • 註5:風土病化している地域では軽い症状や不顕性感染が多い。
  • 註6:ブラジルの実績。

特異的な治療はないので、発症すると対症療法になります。しかし、ワクチン接種が有効性が高いので予防が出来る疾病です。黄熱ワクチンは安全性が高い製品とされてますが、生きたウイルスを使った弱毒化ウイルスワクチンなので、接種した5~10%に軽い黄熱の症状が出ます(接種後5~10日後)。誰でも受けて良いワクチンではありません。次の状況、人口は接種するのは勧告されません:

①6ヶ月歳以下(註7)②妊婦 ③卵アレルギーがある者 ④以前他のウイルスワクチンでアレルギーがあった者 ⑤60歳以上の者 ⑥免疫不全がある者(註8)⑦大量の副腎皮質ホルモン投与中の者。これらは予防接種を受けても良い(リスクがあっても受けた方が良い)場合もあるので、医師に相談してください。

  • 註7:脳炎のリスクのため。日本国の勧告は9ヶ月歳以下。
  • 註8:HIV感染者、悪性ガン患者、化学療法あるいは放射線療法を受けている者、骨髄不全や骨髄移植を受けた者。

『予防接種が有効な疾患であるが、副作用が多いワクチンなので賢く利用するのが良いと思うぞ。当地では特に前出の森林周辺境界部へ行くのを検討したほうがよいのでは(註9)?また、2016年7月にWHOが黄熱ワクチン接種の有効期間を1回の接種で10年有効から一生涯に変更した。しかし、この改定はまだ浸透してないようで、ブラジル厚生省の様に10年間とするところも多々あり、これも迷走のひとつだな。』

  • 註9:邦人観光が多いイグアスの滝が正に森林周辺境界部なので、行くメリットと予防接種するメリットを天秤にかけてください。

過去の感染症に関するひとりごとも併せてご覧ください:2015/5デング熱2014/3シャーガス病2010/4デング熱と黄熱


本当に便利なのかな?

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年03月

今月のひとりごと:『本当に便利なのかな?』

今年のサンパウロは日本の冬で大流行した輸入物のインフルエンザの流行で始まり、咽頭結膜熱、手足口病、訳の分からん熱など、「もらい物」つまり感染症で賑わってます。しかし、一番怖いのは当地ブラジルで流行中の「黄熱」ですね。大変問い合わせが多かったので、医学界より出ている黄熱ワクチン接種の勧告を記載します:「流行地域(註1)に住んでいるまたは旅行する以外はワクチン接種は勧告されてません(註2)。つまり、「どうしてもそれらの地区へ行く必要がある人が予防接種すべき」と言うことになります。流行地域への移動をやむを得ない場合はまず事前に接種しかたを確認をし(イエローカード)、10年以内に受けていなければワクチン接種をする必要があります。

さて、今回のひとりごとは実は感染症の話しではありません。一般内科の医療現場では、食生活と関係する疾病を毎日診てます。前回の話しも「口から入る物」が肥満をおこしているでしたね。我々人類は生活をするのに必須の食事から病気になっているのではないでしょうか?色々便利になったことで、生活の質が向上した事は間違いないでしょうが、その反面、便利過ぎて、実は難しくない事も忘れているのではないかと思うこの頃です。便利には対価があります。便利を流通するためには物を加工する必要があり、それが行き過ぎているのでは?一例を挙げると、高血圧などと関連があると悪者扱いされているナトリウムですが、現在の先進国の都市部の成人のナトリウムの一日の摂取量の大半は塩化ナトリウム、いわゆる「塩」からくるのではなく、6割が食品添加物に含まれるナトリウム塩(註3)由来といった試算があります。

『塵も積もれば山となる、という事だな。』

また、例えば、顆粒状の出汁の素はお湯に入れただけで出汁ができる、と便利ですが、和食のベースの「鰹だし」は沸騰した水に鰹節を投入して2分でできます。この場合、不便なのは、鰹節を濾して、それを捨てる(註4)ことですね。「便利な生活」を追求した結果、簡単な事も忘れているのではないでしょうか?ということで、まず家で作らないトマトソース(箱や缶を開ける以上に手間はありますが、以外と簡単!)を例に挙げ、このコラムの24人の読者様に「便利X食生活X病気」について考えて戴ければ幸いです。


  • 註1:2017年2月下旬時点でブラジルの次の各地の山林地帯、河川地帯:北地方(アマゾン地方)、中西地方(ブラジリアを含む)の全域、マラニョン州全体、ピアウイ州南西、バイア州西と南、ミナス州全域、サンパウロ州西、エスピリトサント州北、南地方(パラナ州、サンタカタリーナ州、リオグランデドスル州)の西(イグアスを含む)。
  • 註2:非常に副作用の強いワクチンであるため;流行により需要が多く、ワクチンの在庫が少ないため。。
  • 註3:例:亜塩素酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、サッカリンナトリウム、亜硝酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、エルソルビン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、等々。
  • 註4:2番だしをとる手もありますが。

ブラジル式トマトソースベースのレシピ

材料(3リットル分)

トマト4kg(細長いイタリアンが良い(tomate italiano)、ソース用なので、形が悪くてもOK、なるべく完熟だと美味しい。完熟していなければ、常温で置いておくと赤くなります。桃太郎、プチトマトでも可(高額になりますが)。サラダ用のtomate caquiやdeboraやcarmenは美味しくできない)

人参 大 1

パセリ(salsão)  葉を取った茎のみ 3

バジリコ(manjericão) 葉を取った茎のみ 3~5 (当地では鉢植えで売ってます。乾燥バジリコを使う場合、ティーバッグに入れる)

タマネギ 大 2

オリーブオイル 大さじ 4

 

作り方

1。トマトはスポンジと石鹸で洗う。水気は拭き取る。(写真1

2。人参、パセリ、バジリコはたわしで洗う。皮むき不要。水気は拭き取る。

3。タマネギはみじん切りにしておく。

4。寸胴など深い鍋にトマトを一つずつ入れ、手の平で押しつぶす。(写真2

515分ほど中火にかけ、柔らかくなったら下ろす。(写真3

6。熱いまま、2分ほどミキサーにかける。ざるで濾す。(写真4

7。鍋にオリーブオイルを入れ、加熱。3のタマネギを投入、シンナリするまで炒める。(写真5)

8。6の濾したトマトジュースを7の鍋に投入。人参(丸ごと)、パセリ、バジリコを入れる。

9。中火で沸騰したら、弱火にし、蓋をせず約40分加熱する。時々全体をかき混ぜる。

10。出来上がったら、人参、パセリ、バジリコを取り出す。(写真6)

備考

このソースはベースです。パスタや煮込み料理をするとき、適宜、塩、オリーブオイル、ニンニク、バターなどを加えるので最初から入れません。無農薬の原料を使わない場合、薬品含有になるとの意見がでますが、商品化されたものは農薬以外に添加物が入りますので随分マシではないでしょうか?ソースは冷凍容器などに適宜取り分け、冷凍。6ヶ月で消費するのが理想ですが、1年くらい冷凍保存できます。


 

寄生虫、いますよ。ブラジルには

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年12月

今月のひとりごと:『寄生虫、いますよ。ブラジルには』

今月も感染症の話しです。先日邦人の患者さんを診察していた時に寄生虫(註1)の疑いが出たのですが、なにやら体内にエイリアンでも棲んでいるような大騒ぎだったのです。確かに日本では事実上寄生虫がなくなったといえるのかもしれません。1958年から続いていた小学生の寄生虫卵検査が2015年度で廃止されました。文部科学省の資料によると小学生の寄生虫卵保有は1958年度で29.2%、1983年度で3.2%、2013年度になると0.2%まで激減してます。寄生虫は通常糞便とともに排泄された卵が経口か経皮で体内に取り込まれます。したがって、下水道処理などの衛生設備のインフラ整備、手洗いや食料の適切な処理、裸足で歩かないなどの衛生概念の教育などが予防の柱です。そのため、それらが発達していない発展途上国に多い感染症である事は容易に理解できますね。また、体外にでた卵が生存できる環境はどちらかというと温かく、湿ったほうが適しているので、熱帯地方がその条件がそろってます。

  • ​註1:狭義では自由生活をする動物に寄生する生物で、外部寄生虫(例:ダニやシラミ)と内部寄生虫(例:蛔虫、マラリア原虫)に分類されるが、一般的には腸内寄生虫のことです。

『発展途上国で熱帯地方って、もろブラジルではないですか!そう、この国はまだかなり寄生虫があるぞ。5年ほど前にミナス州のある市で実施された調査では、小学生の寄生虫卵保有率が平均29%、学校の立地環境により7%から83%まで保有が検出されたのだ。保有率の差は、市内と農村部、トイレの有無、飲み水の適切な処理の有無だった。日本も戦前は人糞尿で下肥を使っていたので、大半の人が寄生虫感染していた試算があるぞ。1960年頃の農村部で60%!これが、衛生インフラの整備でほとんどゼロまでなったのだな(註2)。きれい好きな日本人の仕事ですな。』

  • 註2:しかし無農薬野菜、いろんな生食の普及(例:サラダ)、発展途上国からの野菜の輸入などで、また症例が増える傾向にあります。

ブラジルではこのコラムの24人の読者様はスラムに居住しているわけではないですよね。食料だって、ちゃんと調理しているし、変なものを食べる訳でもないし、裸足でそこらを歩いている訳でもないので、寄生虫なぞ関係ないと思ってませんか?というか、寄生虫の存在そのものを忘れてますよね。今の日本の現状では無理もないと思いますが。しかし、ブラジルで生活しているので、寄生虫感染のリスクにはさらされます。80年代の話しですが、サンパウロ市内の某名門校で行われた研究では、以外にも小学生の半数近く寄生虫卵保有者でした。裕福な家庭なのにどうして?になったのですが、結局「外食するから」「自宅に(家族以外の)料理人がいるから」が原因でした。当地のように貧富の差があると、料理を作っている人とそれを食べている人の衛生概念の差もあります。衛生状況の悪いファべーラ(註3)に住んでいる人が料理を作っていたりするのですね。

  • 註3:ブラジルでのスラム街の名称。

寄生虫は少量であったり、成長してなかったりすると、体に変化はなく、症状もまずありません。それが大量になったり、大きくなると症状がでます。一般的な症状は腹痛、下痢や排便のパターンの変化、疲労などです。重症化すると、貧血、腸閉塞、黄疸、肝硬変、てんかん、内臓破壊なども起こりうります。サナダ虫に代表される条虫は中間宿主が生活史に必須なので(註4)、生活史のサイクルを断ち切る事により減る傾向にありますが、野菜など経由で経口摂取される蛔虫やヒトからヒトへ感染する蟯虫のような虫は依然として感染率が高い(註5)。蛔虫、線虫、蟯虫などは肉眼でも見えますが、アメーバやラムブル鞭毛虫などの原虫は顕微鏡でないと見えません。ブラジルでは寄生虫に感染する事は恥ずかしい事ではありませんので、上記の症状がある場合は早めに受診しましょう(註6)。

  • 註4::サナダ虫の卵をヒトが直接飲み込んでも成長しない。しかし、そのため幼生のまま体内の本来寄生すべきでない部位に定着して弊害をきたす事もある。例:脳内寄生=てんかん。
  • 註5:蟯虫は夜間に肛門付近に排卵する、それで痒くなり、掻いた手で他人に移したり自己再感染する。
  • 註6:定期健診で検便しているから大丈夫と思っているあなた、そう大丈夫でもないので注意が必要です。定期健診の検便方法ではよほど大量の寄生虫がいない限り、検出されません。

梅毒が流行中です!でも他人事だと思うでしょ?

By: Kazusei Akiyama, MD


Neko. Osaka. ©Caju 2012

2016年11月

今月のひとりごと:『梅毒が流行中です!でも他人事だと思うでしょ?』

今月はいきなり質問です。梅毒が性的な接触によってうつる感染症であることはこのコラムの24人の読者様、皆さんご存じですよね?で、性感染って、関係ないと思われてませんか?正式な医学用語は「性行為感染症」(英語:STD sexually transmitted disease、ポル語 DST doença sexualmente transmissível)です(註1)。STDが完全に伝播しない方法は「禁欲」ですが、それでは人間の生活、総じて人類の存続にも関わりますので、絶対になくならない疾病の一つと言えます。感染症と名前がつく疾病全般のとおり、1940年代に抗生物質が開発されてから随分と症例が減りましたが(註2)このところ世界的にSTDの増加傾向が認められます。特に「梅毒」の増加が著しい(註3)。今月、ブラジルの保健省は現在梅毒の流行を認可しました。2010年6月より2016年6月の6年間の間に23万件の新規患者が報告されてます。梅毒の増加傾向はブラジルだけではなく、世界規模です。日本も例外でなく、厚労省の統計によると2010年から2015年の間に約4.3倍増加し、特に女性20代前半の感染者が多くなっていること(この年齢帯で13倍強の増加)が政府や医学会で問題になってます。

  • 註1:ここではSTDとします。少し古い名称でVD venereal disease(性病)がありますが、最近は使われません。
  • 註2:細菌性の感染症は間違いなく減ったが、生物はなかなか「うまく」できており、その”穴”を埋める様に抗生剤が効かないウイルス感染が増えた、または現れた(例:AIDSのHIV)。
  • 註3:感染をおこす細菌は梅毒トリポネーマ、Treponema pallidum、宿主はヒト。感染経路は生殖器、口、肛門から感染、皮膚や粘膜の微細な傷口から侵入し、血液内に進み、体内のいろんな臓器に達する。輸血など血液製剤からの感染も可能であるが、一般的に検査が行われるため、リスクは低い。この細菌は体外では急速に死ぬため、物を介した感染は皆無。

『なぜ問題になるかというと、妊婦の感染が増えているからだな。日本での研究では、妊婦が感染している場合、ほぼ100%胎児に伝播し、子宮内死亡または周産期死亡しなかった場合(註4)「先天性梅毒」になる(註5)。さらに問題が、STDで例えば淋病の様にかなりの確率で症状が出る感染症にくらべ、特に早期では症状がわかりにくい(註6)ことや自然によくなってしまうので感染したことが気付かないこともこのSTDの特徴だな。また、長い時間をかけて症状が形成されるので、長期にわたり伝染する。さらに、多彩な症例を起こし、梅毒は医学界では「偽装の達人」(註7)つまり、医者患者ともに「見逃し」することが多い感染症なのだな。』

  • 註4:感染した胎児の40%が死亡する。
  • 註5:先天性梅毒は生まれた時症状があるのは1/3に過ぎなく、生後数年で症状が現れる(肝臓・脾臓の肥大、発疹・発熱、神経梅毒、肺炎など)。
  • 註6:痛みや痒みをともわないことが多い。
  • 註7:”the great imitator” by Dr. William Osler。

症状は次の4段階で観察されます。医学の進歩で後期梅毒はよほど医療の無い所にいかないかぎり最近はみなくなりました。早期が一番治療しやすいのですが、自然に消滅する場合が多いので、見落とす可能性が高い疾病です。感染後早くて1週間、遅くて3ヶ月で発症します。

早期梅毒第1期:感染した部位にしこり(初期硬結)や潰瘍ができます。この時期の2/3前半は抗体検査は陰性です。

早期梅毒第2期:感染後3ヶ月~3年くらい。全身のリンパ節が腫れる、発疹、発熱、倦怠感、関節痛などの症状。掌、足裏に小さい紅斑が多発し皮がめくれた場合は特徴的。1ヶ月くらいで自然に消滅する。

潜伏梅毒:感染後3年~10年くらい。無症状の場合も多い。症状は皮膚や筋肉、骨に「ゴム種」が発生する。

後期梅毒:10年以降。心臓や血管、眼や臓器に腫瘍が発生、脳や神経を侵され、麻痺性痴呆(脳梅毒)を起こす。

このように、診断が難しい感染症です。検査もいろいろあり、VDRL、RPR、FTA-Abs、TPHAなどを2種類以上組み合わせて判定します(註8)。怖い疾病ですが、抗生物質の耐性は認められなく、以外と簡単に治療できます。早期の場合、ペニシリン注射1回で済みます。しかし、ウイルス疾患のように一度感染すると抗体ができて二度と感染しない訳ではありませんので、再感染が可能です(註9)。

  • 註8:これは結構難しい話しなので、割愛します。
  • 註9:麻痺性痴呆の治療でノーベル生理学・医学賞が出てます。1927年度受賞したユリウス・ワーグナー=ヤウレック医師は高熱発熱した麻痺性痴呆の患者が症状が改善する事に着目した。マラリア寄生虫を接種し、マラリアをおこし、梅毒菌を殺す。その後でマラリアを治療する。その名も「マラリア療法」。すごい。他にも抗生剤以前の治療がここに載ってます(食事中には覧ないほうがよいと思います):http://psychodoc.eek.jp/abare/paresis.html

『梅毒は元々アメリカ大陸にあり、大航海時代にコロンブスがヨーロッパに持ち帰り、1493年にスペインで大流行し、そこから世界中に伝播したとの説が一番有力である。日本語ではじめて記録があるのが1512年で、「唐瘡(からがさ)」と言われたように、中国経由で伝来したのだな。初めて南蛮人が日本に到達したのが1543年だから、30年も先にバイ菌が先に来たことになるな。江戸時代には江戸の人口の1割が梅毒患者であった試算もあるぞ。梅毒の流行は歴史でいくつかあり、最近の流行は男性同士の性行為感染が主であったが、若い女性に増えているのが特徴で、諸説ある。例えば、スマホの普及でSNSなどで出会いが増え、不特定の相手との性交渉が増えた;日本の場合、結婚できない30代40代の女子が多々いるため、「20代女子は早くいい男をゲットする必要があり、セックスを武器に数をこなす」といった説まで出現!筆者が思うに、さらに、怖い感染症であったAIDSが薬物治療で克服されたので、感染予防のコンドームを使った交渉が減った、オーラルやアナルなど性行為の方法が多様化してきたのも関連しているのであろう。大変感染力の強い病原菌なので、「たった1回の過ち」でも感染する可能性があるぞ。ウチは大丈夫とか、ウチの子に限ってとか思っている読者様、とにかくきっちり話し合いする事と予防が大切です。』


 

ブラジルに塩辛持って来られます(かな?)。

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年10月

今月のひとりごと:『ブラジルに塩辛持って来られます(かな?)。』

サンパウロは春になりました。まだ寒かったり暑かったりで体調がおかしくなりそうですが、このコラムの24人の読者様(註1)はお元気でしょうか?当地は日本の四季のようにはっきりしてないのでどちらかというと、「気がついたら暑くって雨が増えたので夏だった」感じですね。メリハリがない(註2)。

今月は気がついたらそうなっていた事のひとりごとです。今年の5月10日に発令されたブラジル国農務省(註3)の省令第11号(註4)の農務省規則についてです。これは旅行者がブラジルへ入国する際、動物性食品の持ち込みを解禁したのですが、やれ大統領弾劾だ、五輪だ、ジカ熱だ、ISISテロだ、でニュースの中に埋もれてしまった感じです。調べてみたのですが、どこにも載ってない…

『これまでは肉製品、卵製品、乳製品、魚介製品は持込禁制品だったのだ。日本からこちらへ来る時、税関で食料品を没収された経験のある方は多いではないかな?一時帰国なり、旅行なり、日本に行って何を持って帰るかと言うと、まず食品ですよね。インスタント物は当地でも売ってるから、無いもの、マルの鰹節、干物、蒲焼き、佃煮等々や賞味期限の短いスイーツなどでしょう。「楽しみにまっている孫に」と遊びに来た爺婆が泣いても没収!え~どーして?と言っても、国の規則だったので(註5)仕方がない…なかったのだな。

では件の規則の紹介です:

旅行者の手荷物で人間の食用あるいは家畜の食用であれば、次の製品を解禁:

①人間用肉製品:一人10㎏まで。商業的に滅菌された加工品。煮物や干物。エキス。サラミ、ハムやベーコンなど。鶏ガラ出汁粉末など。

②人間用乳製品:一人5㎏あるいは5リットルまで。チーズ、バター、ヨーグルトなど。粉ミルク、ロングライフミルク。エキス。

③人間用卵製品:一人5㎏まで。液体卵や粉末卵など。卵ジャム。

④人間用加工魚介類:一人5㎏まで。干物。塩漬け。燻製品。

⑤人間用乳製品、卵製品、肉製品を含む製菓:一人5㎏まで。クッキーなど。

⑥家畜用食用動物製品:一頭5kgまで。エサやおやつ。

⑦観賞用動物製品:一人5個まで。(註6)

入国の際、これら製品は商業用のパッケージに梱包されており、かつ、未開封であることが必須です。また、持ち込んだものはブラジル国内で販売禁止されてます(註7)。用心深い方は規則を印刷して、通関時に持っておくのも良いでしょう(註8)。

『商業用パッケージ云々は「そのラベルにより、内容を識別できるように」となってるが、日本語での標記で大丈夫かなと考えてしまった。ま~でも、税関が明らかにユルくなったのは間違いないと思う。これで堂々とうなぎの蒲焼きを持ち帰れるぞ!』


註1:そうなのです、読者様がお二人増えたのです。深謝!

註2:ま~なんでも比較の問題ですが。同じブラジルでもアマゾンにいくと熱帯気候で現地のひと曰く、四季ではなく二季しかないそうです:「暑い」と「くそ暑い」。

註3:Ministério da Agricultura, Pecuária e Abastecimento、直訳すると農牧業と供給省、日本の農林水産省にあたるが、ブラジルの場合、水産業はMinistério da Pesca、漁業省なるものが存在し、別扱い。弾劾裁判を経て8月に罷免されたルセフ政権では39省あったのだ!政権交代で24省”まで”減った。

註4:ポル語ではInstrução Normativa Nº 11 de 10 de maio de 2016。

註5:特にブラジルが鬼のように厳しい訳でもない。このようは措置は農牧業に関連する疫病検疫と関係があるのだな。だから、生の肉類は解禁されていない。日本でも家畜伝染病予防法と植物防疫法で持込規制があるぞ。

註6:これがよく分からない。毛皮の敷物とか?

註7:あくまで旅行者の手荷物に関する省令で、商業用の輸入業務とは異なります。また、郵送品には適応されませんのでご注意を。

註8:規則が載っている官報のリンク:http://pesquisa.in.gov.br/imprensa/jsp/visualiza/index.jsp?data=11/05/2016&jornal=1&pagina=18&totalArquivos=184


サンパウロではハーメンがブーム!

By: Kazusei Akiyama, MD


Following the turtle. Praia do Sancho. Caju©2014

2016年09月

今月のひとりごと:『サンパウロではハーメンがブーム!』

今月の表題はカタカナばっかりですね。ブラジル人が「ハーメン、ハーメン」といってるのでなにかと思ったらramen、ラーメンのことでした(註1)。このコラムの22人の読者様もご存じのとおり、サンパウロは今ラーメンブームです。ラーメン元年とも言える勢ではないでしょうか(註2)。ラーメンは元々日本食屋さんのメニューに載ってました。10数年ほど前より専門店ができてそれなりの人気がありましたが(註3)、このブームは米国の流行が移ってきたものだと思われます。また、最近積極的に日本の文化を輸入しようといった運動の結果でしょう(註4)。筆者もラーメンは好きなので、専門店が増えてくれるのは嬉しいです。でも診療所の近所にあるJ店などは連日1時間待ちの大繁盛で多いに結構なのですが、結局行けてません(涙)(註5)。

  • 註1:日本で使用している日本語のヘボン式ローマ字表記では正しいのですが、ポルトガル語では「R」が語頭にあると「ハ行」の発音になります。「ラ行」の発音であれば、「L」なのですが、同じ「R」でも言葉の途中でかつ母音に挟まれていると「ラ行」の発音になりややこしいです。ラの発音も微妙に違います… 因みに、言葉の途中にある「R」も前が子音だと、「ハ行」の発音になります。で、「L」も語尾にくると、「ウ」の発音になります。例:Raul(人名)英語読みだと「ラウル」ですが、ポル語読みだと「ハウウ」になります。あ~ややこしい。
  • 註2:恒例のFestival do Japãoも今年は焼きそばの屋台が減り、ラーメンとサンマ焼きが増えてましたよ。
  • 註3:始めは日系人や訪日経験のあるブラジル人が多かったな。
  • 註4:その証拠に、市内のP地区で繁盛しているT店のオーナーシェフは来日した事がなく、ニューヨークのラーメン店がモデルと新聞記事に載ってました
  • 註5:たかがラーメン、されどラーメン。1時間待ちますか?

『このラーメン、「体に悪い」と言われる事が多々あり、それと今回のブームのためか最近よく診察時に話題にあがる。実際、体に悪いのか?「カロリーが高い」、「塩分が多い」「炭水化物が多い」、「プリン体が多い」など悪いイメージでありますな。ラーメンの問題は、カレーライスと並び日本の国民食とまでなった、つまり、「頻繁に食べられるから」ではないかとこの筆者は考える。当地では解らないけど、日本では毎日食べてる人もいてますよね。パスタあるいは寿司を毎日食べてれば同じように体に悪いだろう。カロリーの件はどうですかね?一般的な1食は500kcal前後なのでとてつもない高カロリー食とは言えないと思う(註6)。塩分に関しては確かに多い、1食で1日の推奨摂取量が入っていることもある(註7)。麺類なので、炭水化物メインの食べ物であるのは仕方がないか(註8)。プリン体が多いのも事実ですな。プリン体は高尿酸値症と直接関連があり、痛風の原因の一つとされている(註9)。プリン体そのものは毒ではなく、体の細胞の生活に必要な物質なのだな(註10)。実はプリン体の80%程度が体内で産生され残りが食べ物から摂取される(註11)。口から入るプリン体は「うま味成分」の一種であり、つまり含有量が多いものは美味いと言う事なのだな。だからラーメンは美味い!』

  • 註6:同じ麺であればカロリーは、醤油味<塩味<味噌味、鶏ガラスープ<豚骨スープ。
  • 註7:これがインスタントラーメンになると2倍などもあるぞ!
  • 註8:そのため、こんにゃく麺を使ったラーメンもあるらしい。食べたことないけど。そこまでしてラーメン食うか?
  • 註9:尿酸値が高いと、尿酸が結晶化し関節にたまり、結晶が剥がれおちたら白血球がそれを食べ、炎症反応を起こした状態を「痛風」と呼ぶ。高尿酸値イコール痛風ではない。
  • 註10:細胞分裂の際、必要;また、細胞のエネルギー源の一つ。
  • 註11:一応適正な一日の摂取量というのがあり、400mg/日。食品のプリン体含有量はネットでいくらでも載ってますので関心のある方は検索してみてください。

また、普通のラーメンの場合栄養学的に問題とされるのは、ビタミン類、ミネラル類、植物繊維が少ない事です。これはモヤシなどのトッピングを増やせばある程度解消できますね(註12)。結局、どの食べ物にも共通する事ですが、食べ過ぎ、偏食、早食い、などが問題なのではないかと思います。ラーメンの場合、酒席のあとのシメで食される事も多いので、そのあたりにも注意が必要でしょう(註13)。当地ではインスタントラーメンの代名詞はMiojo(明星ラーメン®)であるほど、実はブラジル人の生活に密着してます(註14)。なので、ハーメンは何かと聞かれた時は、「ミオジョのインスタントでないやつ」で結構一発でピンと来てくれます。ラーメンはしっかりした味付けなので、ブラジル人好みであるのは間違いないのでこれからもドンドン浸透していくといいですね(註15)。

  • 註12:このため、日本ではサイドメニューでサラダを出すラーメン店もあるとか。
  • 註13:カロリーの高いアルコールやうま味成分の多いアテの後、さらに追い打ちをかける。また、夜遅くスープ系の食事をして寝ると胃食道逆流症の原因ともなりうる。
  • 註14:麺類をスープに浸して食べる文化がないので、スープを捨ててから食べる事が多い。
  • 註15:その内、「スシー」(寿司)のようにブラジル化するのだろうけど… ま、ラーメンも元は中華料理だったものを和風化したものだから、別に文句いえんか。

スローな医療はおすすめですか?

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年08月

今月のひとりごと:『スローな医療はおすすめですか?』

このコラムの22人の読者様、大変ご無沙汰してます。連載が始まって一番長い休稿で大変ご心配とご迷惑をおかけしました。実はこのところ、新しい仕事の立ち上げに時間をとられてました(註1)。約10年ほど前より世界的にSlow Medicineと呼ばれる医学的哲学が提唱されるようになってます。トロい医学の事ではありませんよ。直訳すると「ゆっくりな医学」ですが、「急がない医学」の意訳のほうが正しいと考えます。スローでまず一番有名なのはスローフードですね。1986年にイタリアで提唱された運動で、アメリカ系が代表するファストフードに対するもので、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す運動で始まり、さらに、持続可能な食文化(註2)、地産地消のように小規模事業や農業を支える考えや、生活習慣病になりにくい食生活や食品へと展開してます。これがスローライフ運動(英語ではスロー運動、Slow Movement)へと発展しスローシティーなど、世界的な理念になる勢いです。「スローなんとか」を検索すると、色々でてきます。ざっと見ると、住居や環境に関する、スローシティー、スローリビング、スローアーキテクチャー。生活に関する、スローカロリー、スローフィットネス、スロージョギングや筋トレ、体操、スローセックス。医療に関するslow medicine、スローエージング。最近の概念のスローサイエンス、slow kids、slow education。現在のトレンドの一部であることは間違いないでしょう。

ではスローメディシンとはなにか?2002年にイタリア人のDolara医師が初めて論文でSlow Medicineという言葉が使われましたが、2008年に米国でMcCullough医師による老齢医学に対する有用性の提言で一躍有名になりました(註3)。スロー運動は簡単にいうと「高速処理・生産を重点にすると結果として物事の質が低下する」状態を考える運動です。これを医療の場合は急性期集中治療を重点とした医療現場、患者をろくに検査しない(できない)3分診察、それを補う検査の数々、即効性の薬物使用(副作用も速効)、などを考える運動・哲学になります。日本語で検索するとほとんどなにも出てきませんね。日本ではなじみの無い考え方ではないと思いますが(註4)、現実に実施されている保険診療はfast medicineそのものですし、医療制度を改革しない限りこのような行動は普及しないことは素人でも解りますよね。次にSlow Medicineの10原則を示します。

1. 時間:時間を執った医療。聴く、理解する、思案する、精査する、判断する、決断する。時間があったほうが、より良い医療を提供できる。

2. 個人化:一般論より、各個人の個性や視点、価値観を重要視。患者個人の利益になる医療を提供する。

3. 自立とセルフケア:医師と患者で決断をシェア。患者自身やその家族でできることを明確にし、実行に移す。

4. 肯定的な健康概念:現行の「健康の定義」は完全な 肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」と否定的は概念であるが、「病気でない」のではなく、予防、医療の質を高度に維持、医療システムへのアクセスなどにより「健康である」ことを重点においた概念。

5. 予防:健康的な食生活、定期的な運動、ポジティブな思考、により健康を維持する。

6. 生活の質(Quality of Life):量より質!

7. 補完代替医療:恒常的な西洋医学に東洋医学などの非恒常的医療をプラスすると、より多いアプローチが可能になる。

8. 安全が一番:医師になる時、ヒポクラテスの誓いを宣誓するが、その内「Primum non nocere et in dubio abstine」「害と知る治療法を決して選択しない」とある。患者の害になると思えば、医療的介入を止める。

9. 情熱と慈悲:医療の人間化(humanization)を奪還する。

10. 遠慮のあるハイテク使用:ハイテクは人類の為にあり、医療の場合患者の為にならないといけない。使い方を間違わないければ、よりよい医療やセルフケアに貢献できる。

『この運動は現時点の診察を直ぐに変える云々ではなく、医療政策、医療教育、医療方法などを考えるのに適しているのだな。意外なのが、医療がハイテクになるほど、病気の治癒率が上がり、人類が健康になると思われているが、そうではないのだな。確かに一部の治癒率の成績は良くなっているが、発病率などはあまり変化しないのだ。また、ボックスで書いたように、検査依存の診療になると、余計なものが見つかり、そのためまた検査する事になり、しまいに(不要な)治療をする事になってしまう事が多い。このような現実は医療費用を上昇させている事は明確で、経済的な方面から提唱が増える可能性があるぞ。今年日本の厚生省が2020年までに抗生剤使用を1/3減らす対策決定や「地域医療構想」もそのうちであろう。いずれにせよ、もっと患者さんの利益を考えた医療が必要とされているのは間違いないと思う。』


註1:www.slowmedicine.com.brです。ポル語。www.slowmed.infoも参照ください。英語。

註2:例えば食用の牛肉の大量生産。商品としての牛肉1キロを生産するのに水15400リットル必要とするが、世界的に深刻な水不足が予想されている現在、これは持続可能であろうか?

註3:Slow Medicine運動の歴史についてはwww.slowmedicine.infoに詳しく記載されてます。

註4:実際こういった問題点をあげる医師や医療従事者は見当たる。


童話:隠れる王様

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年04月

本コラムは雑誌ピンドラーマの趣旨に反するとの事で、雑誌には記載されてません。

今月のひとりごと:『童話:隠れる王様』

むかし、むかし、ある所に王国がありました。王様はとても貧しい出身で、初めから王者であったわけではありません。まず、こういんの仕事に就きました。でも、王様はとても政治演説が上手で、こういんのみんなを代表してほしいと頼まれました。そのうち働き者のみんなを代表する会を作るまで至りました。まだ王様でない王様は、何を言ってもまわりのみんながチヤホヤするのをみて、自分の演説の力を確信します。

「汗水たらして働くより、喋りまくったほうが楽だな。」

それで、どうしたらこれで生活していけるか考えました。

「そうだ、自分が王様になったら、一生メシに心配しないでもいいぞ。」

そこで、みんなの会や共産圏がなくなって落胆していたインテリ層や社会正義をさけぶカトリック教会を巻き込んで選挙にでる事にしました。そうです、この王国では王様を選ぶのに選挙があったのです。「この国にあるすべての悪い事を撲滅する!」と声を大小にし、泡を飛ばしてました。初めは国全体のみんなはあまり耳を傾けなかったのですがその内、「貧乏な人を救済するぞ!」と言いだし、共感を得ました。さすがにカトリックの王国です。貧乏人の救済はカトリックの王道です。大義名分十分です。

選挙で当選して新しい王様になったのは良かったけど、今まで口先で生活してきたからどうやって王国を運営したらわかりません。

「とりあえず、前の王様がやってたとおりにするか?でもそれだと前例を撲滅する公約に反対するな~。よしわかった、やることは前のとおりで、口では前のやり方を批判しよう。」

これでやって見ると、上手くいくではありませんか!世論調査では好成績がはじき出され、みんなニコニコ、チヤホヤ。毎日のごはんは美味しいし、居心地のよいことといったらありません。本営にはどんどん廷臣が増え、参列を望む者が後を絶ちません。貢ぎ物もジャンジャン入ってきます。近習の専横などもそこは太っ腹、自分だけ旨い蜜をすってたらみんな可哀想じゃないですか。そのうち、そんなみんなで悪い事をしている所を見つかり、国民のみんなからお叱りがありました。でも、裏切られた、全然知らなかった、でなんとか話しは落ち着きました。

「みんな以外とバカなんだな。そうか、被害者のふりをしたらいいのか。」

どうしたらこの豪奢な天国が永遠に続くかしか考えられなくなってきました。

「なるほど、わかったぞ。この王国は選挙があるから、選挙に勝ち続けばいいのだ。」

そのためには投票してくれる人と選挙資金が要ります。それで国政を三つ作りました。みんなの会の人達を官僚にして、その給料の一部を吸い上げるのです。さらに、王国が発注する工事などを水増し入札させて、差額を政治献金にするのです。選挙には多数の支持を集めたほうが勝つので、貧乏な人が多い王国では、貧乏人の味方である王様に分があります。そのため、三つめの国政は貧乏な人達をずっとそのままにおしておく事です。毎月配る少しの生活保護に依存させる方法です。これで再選も果たしました。国政は順調に稼働してます。そうこうしているうちに、みんなのものと個人の持ち物の区別がつかなくなってきました。

「こんだけ貧乏人に貢献してるのだから、ちょっとくらい懐に入れてもいいだろう…」

寵臣だけではなく、王国の在り方があまりにもひどいので、それを指摘する人などもいましたが、貧乏人の生活が良くなっていくのが羨ましいのだとか、貧乏人の生活を良くしている王様の政治を妨げる悪人とかで退けました。

「これはわかりやすいぞ。悪い事はすべて”あちら側’、良い事はすべて’こちら側’。使える!」問題は定期的に選挙があり、1回しか再選できません。もう1回してるので、何回でもできるようにルールを変えようとしました。でも失敗しました。天国が終わるか?

「つなぎに代理人を入れておけばいいのだ。操縦できるやつにしよう。」という事で、その次の選挙で女王が誕生しました。王様は影の王様です。これで次の選挙で帰り咲こうとの魂胆です。しかし、女王様もいざ王座に座ってみるとなんと居心地の良いこと。私も当分ここに居るわと再選を果たします。これで王座4期目です。5期目には王様が戻り、天国が永遠に続くように見えました。

でも、単に生活に困らないためになった王様とそのつなぎの女王様です。まともな国務はできません。ばらまきくらいしか思いつきません。丁度女王様の2期目の時に今までのしわ寄せがきました。経済は崩壊。倫理は皆無。政治も浸水、朝臣達は沈む船のネズミのごとく、遁走。王国民全体の懐具合が悪くなり、民衆の機嫌が悪くなっていきます。 王様は無政府状態に至った女王様にもお手上げ状態で泣きつかれます。女王様は全部ムチャクチャにしてくれたのですごく腹が立ちますが、自分が植え付けた事実があります。共倒れしては元も子もありません。 困っているところのある日、王様とその一族、寵臣などの私利私欲や国政としての資金調達方法が明らかになります。芋づる方式にドンドン寵臣が拘置所行きになります。外では「女王辞めろ!」「王様は逮捕されろ!」などと叫ぶ民衆ばかりです。どうする王様?ここで女王様と二人して考えたのが、王様を再び宮廷にかくまえば、民衆の声など届かないし、捕縛の手に及びません。なんと妙案なのでしょう。それで、王様はさかぐらだいじんに任命され、宮廷内で万事無事に過ごす事ができましたとさ。めでたし、めでたし。