By: Kazusei Akiyama, MD
2012年09月
今月のひとりごと:『加湿器はこわいぞ!』
このところ、サンパウロではずっと雨がふりません。この原稿を書いている時も、雨なし41日目です。これでは空気も乾燥しますね。先週は3年ぶりにすごく乾燥した日があり、湿度10%でした(註1)。このような状態が続くと、乾燥性皮膚炎や乾燥性結膜炎などの疾患が増えます。さらに日本を含む、湿度と温度が低い冬期の場所ではインフルエンザウイルスが繁殖します(註2)(註3)。空気乾燥の対策は室内を加湿することになります。しかし、ここに大きな落とし穴があるのです。
- 註1:砂漠なみの湿度です。因みにその日は診察室内で湿度32%でした。
- 註2:インフルエンザウイルスが繁殖するには、低温+低湿度+暗いの3条件が揃った状態が一番。ブラジルの場合、冬期の乾燥は晴れて(明るくて)乾燥していることが多いので、条件が揃う期間が北半球ほど長くないのだな。
- 註3:サンパウロの場合、この乾燥時期に光化学スモッグが出現するので、さらに結膜炎や慢性の呼吸器系疾患が悪化する状況になる。
『元々日本など冬が厳しい所ではストーブの上にヤカンを載せて蒸気を作っていたのだな。ところが加熱式加湿と呼ばれるこの方式(註4)は、火傷の危険があるということで、電気メーカー製造の「加湿器」が普及した。「超音波式」と呼ばれる器械で、熱を使わない、電力消費が少ない、安価ということで、パチパチ、素晴らしい!ように見えたのだが、これが実は恐ろしい器械であることがその後判明した。常温の水を使うため、水に含まれる雑菌や加湿器のタンクに繁殖するカビなどをまき散らし、病気をおこす。昔の蒸気方式は水を沸騰させることによって殺菌していたのだな。細菌を吸い込んで細菌性肺炎になったり、カビのためいわゆる「加湿器病」になったりする。後者は厳密な医学用語では「換気装置肺炎」(註5)で「過敏性肺炎」の一種と定義され、カビを吸入することが原因のアレルギー性肺炎だな。さらに、ブラジルの住宅は漆喰や煉瓦など吸湿性の高い建材で作られいるためいくらでも水分を吸収してくれる。そこからカビが発生し、さらに状況が悪化する(註6)。』
- 註4: 家庭向けの器械の代表的な方式は:スチーム式(加熱、ヤカンと同じで電熱でも)、気化式(非加熱、濡れタオルと同じだな)、超音波式、ハイブリッド式(複数の方式で欠点を補う)。
- 註5: 換気装置肺炎は加湿器関連と空調関連(エアコン病)がある。
- 註6: この場合、建材が水分を吸収する状況は加湿の方式と関係がない。日本では室内では防湿性の壁紙を使用することが多いので、建材の吸収が少ない。両方の場所で同じ器械を使ってみた方はタンクの水の減り具合が違うことに気づいているはずです。
『こうなると、なぜ加湿器を運転しているか解らなくなりますね。室内を快適にするのや、病気の予防などに使っているはずなのにかえって病気の元になっているかもしれません。』
超音波式の恐ろしいところは、清掃を仮に毎日しても、清掃と清掃の間の24時間で雑菌が繁殖するには十分という事実でしょう。なので、ちゃんとしたメーカーでは最近この方式での器械は作っていないそうです。医学的に一番よいのは方式はともかく、殺菌機能がついたものだと言えます。また、加湿する室内の湿度をモニターすることも重要です。患者さんの話を聞いていると、「加湿することは良いことだ」といった概念が一人歩きしていることが多々見られ、湿度と関係なく「なんとなく」運転している場合が結構あるのではないかと思われます。また夜中に喉が渇くといったような症状のため、就眠時に利用している方もおられますが、必ずしも乾燥とは関係ありません(註7)。高価なモデルになると、湿度計が付帯していて、自動的に運転の調整をしてくれるものもありますが、このコラムの20人の読者様の自宅ではどのような方式をお使いでしょうか?いずれにしても正確な湿度計で湿度の確認をすることは各家庭に必要でしょう。ちなみに人間が快適と感じる湿度は50%前後だそうです(註8)。
- 註7: 口を開けて寝ているから喉が渇く事が多いぞ!
- 註8: 70%あたりからカビが発生します。