おひとりさまでいいよ

By: Kazusei Akiyama, MD


2018年05月

今月のひとりごと:『おひとりさまでいいよ』

このコラムの24人の読者様より、前回の話しは内容の割に短いひとりごとであった、また、おひとりさまの定義が間違っているのではとご意見もらいましたので、今月はおひとりさま現象を軸に孤独を考えていきます。

日本語で孤独について調べてみると、「孤独」と「孤立」が混同されているのではないかと思います。人間は集団生活をするという大前提で我々の社会は成り立っており、これらの概念はどちらも周りから離れる(isolation)ことが主です。先月にも書いたとおり、この「離れる」を「自らする」のかどうかで意味も効果も予後も違ってきます。この方向から考えると孤独はactive、活動的、積極的であり、孤立はpassive、受動的、消極的な状況からくるものではないでしょうか?この活動・受動での一番大きな違いは後者が先月のテーマになった孤独の健康問題に当てはまる事でしょう。前出の定義からいくと孤立は「周りから離される」ため、本人はそれを好んでないのが特徴です。

『明らかに性格上の問題などにより、外されたケースもあるのだろが、殆どの受動的な孤立は「気付いたらそうなってた」のだと思う。現在の、特に大都会の、生活環境がその様にさせるのではないか?そうでないと、今の日本の独り者大国は説明がつかない。明治大学教授の諸富氏の説に、「同調圧力」(註1)の反動が孤立へ導くというのがある。戦後の教育で、小学校と中学校で体験する集団生活が「排他的集団」といった”組織”のなかで行われるため、同調能力を身につける。「周りと違うと、どんなひどい目に遭うか」覚えるのだな。この同調圧力は日本の社会の中ではものすごく強く(註2)、それに疲れてしまうのだな。でも植え込まれた同調能力のため、周りに馴染むように努力してしまい、さらに疲れる。これが最近増えている鬱や引きこもりや不登校と関係あるのではないだろうか?(註3)

2015年11月号(”生みにくい、生まれにくい”)でアプローチした少子化や未婚化が進む社会構造も孤独と関係がある。これは特に女性に多々影響があり、そのため社会現象として「おひとりさま」が誕生したのだろう。2007年の出版物により、その言葉が市民権を得たと言われる。勿論出版物がおひとりさまを作ったのではなく、それ以前からあった現象を捉えたものであり、これも受動的な孤独の一種であろう。それを正当化したのが「おひとりさまは良いぞ」”運動”だと思う。その辺りを読んでると、次の様な文章が出てくる:

”自分を磨く贅沢な時間”、”自由に使える時間がある”、”自分のための時間をすごす”、”じっくり吟味”、”思い立ってもすぐに行動に移せる”、”他人に依存しない”、そしてスゴイのが”精神的に自立している証拠”。

ほんまかいな。

おひとりさまは女性を指すことが多いが、勿論男性も存在する。しかし、近年では女性の事のようである。男性を指す場合、明らかに経済力で分類しているのが良く解る。”おひとりさま男性”とは大体「独身貴族の男性」と同定義に使われている反面、経済力がない場合はオタクとか、ニートとか言ったような別名称が現れる。さらに最近、「スネップ」という用語まで登場した(註4)。これも受動的な孤独であろう。スネップは引きこもりと違い、外出したりするが、社会生活や社会的な関わりを持たないのが特徴という定義であり、どちらにしても生産性の低い人達であるのは間違いない。SNEPなる言葉を作った学者は「孤立の一般化」と呼んでいる。また、日本人には「役に立たずとも迷惑にならなければそれでいい」といった様な概念も強いのでは?でも、この様な社会状態で大丈夫ですかね?』

女性にしろ、男性にしろ、おひとりさま人生の利点を満喫するには「孤独力」が必要です。孤独力とは「1人の時間を過ごせる力」とか「1人で自分の内面と深く会話する力」だそうです。これさえあれば「おひとりさまでいいよ」になりますか?それらも経済力が伴わないとホームレスですよね。でも筆者はそれ以上に「覚悟」が必要だと思います。


  • 註1:何事も目立たず、周囲と同じ事をしなければならない。
  • 註2:集団でイベントすると直ぐに解る。各自に希望を訊くと「皆さんと同じで」が一番多い答えでしょ。ブラジル人とはえらい違い、各自好きな事言って全然まとまらない。
  • 註3:排他的集団は日本の社会構造で重要な位置を占めているぞ。診療所の患者さんでも、同調圧力のため病気になって通院があるぞ。不安神経障害や胃潰瘍などが多い。ママ友もさることながら特に会社関係のセニョーラス会がやばいようである。
  • 註4:SNEP solitary non-employed persons 孤立無業者。20歳~59歳の在学中を除く未婚の無業者のうち、普段1人でいるか、家族以外の人と2日連続で接していない人々を指す。2011年時点で日本で162万人いる試算あり。