By: Kazusei Akiyama, M.D.
2025年1月
寓話:カエルの国のお風呂。
そんなに昔でもないある所にカエルの国がありました。あのケロケロ鳴く蛙です。その国は食と住もたいして不自由なく、一般的な国民は幸せに暮らしていました。しいて生活の不満があると言えば、寒い事でした。カエルは皮膚が乾燥する特徴から水陸両用の生活をしてました。乾燥して干上がってしまうと死んでしまうので、どうしても定期的に水に浸かる必要があるのです。ところが、カエルの国の水は冷たいのです。
「あー、この冷たい水ん中入るの、いやだなー。」
寒い時期になると水に浸かるのがおっくうになります。歳いったカエルになると、関節痛だのが悪化するので、もっと嫌がります。でも、水に入らないと自殺行為になりますので仕方ないです。
この様な生活を送っていたカエル達ですが、遠くの国にはどうやら水を温める装置がある事を聞きつけました。水が冷たいのが不満なので、国民全員大関心です。
「温かいお湯に入れるのは絶対にほしい!」
「この国にも新しいやり方を取り入れるべきだ!」
賛成多数だし、需要があるし、国の指導部は水を温める装置の導入に動きました。お風呂という装置だそうです。
「よし、これで国民の幸せ指数が上がるぞ!」国は本格的に全国津々浦々にお風呂を設置しました。カエルの国の指導部の支持率は爆上がりです。温かい水に入る事を”入浴”と名付け、”お風呂設置記念日”を決めて一斉に国民に解放する事にしました。
「入浴するぞー!」
記念日には国民がお風呂におしかけました。カエル達は喜んでお風呂に入りました。こんなのは初めてなのでおっかなびっくりです。みんなちょっとへっぴり腰です。でもこういう時は誰かが一番でドボンします。
「おー、冷たくないぞー!」との声を聞いて、我先に温かい水に入りました。本当に冷たくないです。
「あー、気持ちいい〜…」そんな声ばかり充満です。
「気持ちいい、眠くなるほど気持ちいい〜…」入浴していると、ほどよい温かさで、頭がボーッとしてきました。皆ウツラウツラしてます。
ところが、水の温度が段々上がっていくのが皆よく分かりません。なんせ初めての事ですから。温かくて気持ち良くて皆恍惚状態になってます。もっと水温が上がっていくのがわかりません。そうなのです。遠くの国の”お風呂”なるものは実はカエル用に温かい水を供給する装置では無かったのです。”入浴”した者をダメにする装置だったのです。
気持ち良くなったカエル達はさらに熱くなった水に浸かったまま、煮えてしまいました。
終
これは欧米の「茹でガエル警句」を寓話にしたモノです。英語ではBoiling Frogとよばれ、生きたカエルを突然熱湯に入れれば飛び出して逃げるが、水に入れた状態で常温からゆっくり沸騰させると危険を察知できず、そのまま茹でられて死ぬという説話に基づく警句です。
緩やかな環境変化下においては、それに気づかず致命的な状況に陥りやすいと言う事です。哲学的な説話のようですが、社会人類学、法学、環境学、経済学、経営学、政治学など、色んな分野ででてくる比喩なので、このコラムの25人の読者様もご存じではないかと思います。最終的に望ましくない結果に陥ることを避けるために、緩やかな変化に注意を払う必要性がある訳です。また、補足すると、色んな事が同時多発的に起こり、我々の周りの変化に気付いていない事態になるのも一種の茹でガエルと言えるのだとこの筆者は愚考します。現在我々が生きている社会はこのような事は起こってないでしょうか(註1)?
2025年は大変な変動が予想される年です。周りの変化に留意し、健康を堅持していただきたくようにお祈りして、新年のご挨拶とさせていただきます。今年もご愛読をお願いいたします。
註1:先月NHKの大河ドラマ「光の君へ」が最終回を迎えました。時代劇でも平安時代をテーマにした物は珍しく、筆者は興味があるので全回観ました。平安貴族の優雅な環境は美しく描かれてましたが、最終的に思ったのが、「こんな「頭はお花畑」な生活をしていたから、その後地獄のような戦国時代に突入する事になるのではないか」でした。これって茹でガエルそのものでしょう。NHKが警鐘を鳴らしている訳ではないとは思いますけどね。反対で茹でガエル状態になっている現在の社会を千年前にタイムスリップして喜んでいるだけかも。