By: Kazusei Akiyama, M.D.
2024年04月
蚊にかまれまくる今日この頃
ブラジルは定期的に蚊(ヤブカ)が媒介する感染症が暴発します。筆者は開業してもうすぐ30年ですが、その間に何回も黄熱とデング熱の流行があり、それだけでは足りないのかと更にジカ熱とチクングニアまで流行しました。過去に書いたのをみてみると初めて2010年に黄熱とデング熱についてひとりごとしたのを皮切りに、2014年から2018年まで毎年テーマにあがってました。そして当地では現在またこの手の感染症が大流行してます。
今年の流行の特徴は色んな感染症がごちゃまぜになっているところだと観察してます。現時点で一番多いのはデング熱ですが、同時に新型コロナ、インフルエンザ、ジカ熱、チクングニア熱などが混在している状態です。ヤブカ経由の感染は蚊が繁殖する夏期におこるので今、正にその時期ですが、インフルエンザは元々冬期のモノだったので一体どうしたことかという所です。コロナ禍を通じて人類はどうやら感染症の病態が変化したと考えるのが妥当でしょう。咳や鼻閉など呼吸器系の症状があればコロナやインフルエンザなどと見当がつきますが、これらは予防接種を受けてる人がほとんどなので基本的症状が出ない事が多く、「発熱+倦怠感+頭痛」のセットになると、今回取り上げている感染症のどれにでも当たります。
インフルエンザは治療薬(註1)があり、新型コロナはたぶん治療薬(註2)がありますが、デング熱・チクングニア熱・ジカ熱(以降アルボウイルス系熱)は特効薬がありません(註3)。予防接種があるのはインフルエンザ、新型コロナ(註4)、黄熱(註5)ですが、アルボウイルス系熱にはありません。現在ブラジルではデングウイルスワクチンの開発が途中でありブタンタン研究所が臨床試験をしてます。さらに、日本のタケダ製薬製のワクチンが今年から当地に流通してます。しかしデングウイルスワクチンに関してはまだ安全に使用できる状況ではないというのが筆者の意見です(註6)。
- 註1:オセルタミビルなどであるが、発症48時間以内に使用開始しないと効果がない。
- 註2:外来内科で使用できる「経口抗ウイルス薬」モルヌピラビル等は日本では認可されているが、日本以外では評価が低いもよう。一般臨床で有用なイベルメクチンは評価が分かれる。このような理由から「たぶん治療薬」とします。
- 註3:これらに関しては過去に詳しく書いてますのでご参照ください:デング熱2015年5月、チクングニア熱2014年12月、ジカ熱2016年4月。
- 註4:新型コロナのワクチンは大きく分けてmRNA系(ファイザー・モデルナ)とそれ以外(不活性化・弱毒ワクチン(コロナバック等)、ウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ)、等)があるが、高速に変異していくウイルスにどのような予防接種戦略を企画したらよいのかまだ分からない。
- 註5:黄熱ワクチンは以前は10年の有効期限があったが、2016年7月より一度接種すると生涯有効になった。
- 註6:ブラジルを含む世界的デング熱大流行で見切り発車で使用開始した感が満載。デングウイルスワクチンは既に2015年にサノフィが世に出したが感染歴のない子供に接種した場合、感染時に重症化する事が判明し沈没した。ブタンタン研究所の製品は2024年2月時点で臨床試験5年予定の2年目であり確実な結論に至ってない。タケダはデング熱が多発している発展途上国にプッシュしているが、まだ医学界では疑問視が多い。実際メーカー側が米国の認可当局FDAでの承認申請を自主的に取り下げた。タケダのワクチンを製造しているインドでも承認されていない。でもブラジルへは無償提供を含め出荷しているのは当地でデング熱が暴発しているので、仕事が下手な現政権が何か手を打たないといけないと焦ってこのワクチンに手を出しているのではないかと思われる。
『ワクチンがない、特効薬もないので、とにかく感染しないのが重要といえるな。』
なので、また「蚊を防ぐ」話になります。ヤブカの特性などは2016年2月のひとりごとで詳しく記載してます。特性に関してはなんら変わってませんので是非ご参照ください。今回は「虫除け」について展開してみます。「除け」というように、殺虫剤ではなく、「忌避剤」と分類されるモノは刺されないようにする皮膚に塗布する製品や蚊が嫌う物質を揮散する製品が一般的です。前者がいわゆる虫除けスプレー(クリーム、オイル)、後者がアロマろうそく等です。どの様な作用機序で虫が嫌うのかは科学的に判明されてません。ブラジルで入手できる含有成分とその特徴は次のとおりです。製品に有効成分とその濃度が記載してありますので確認してご利用下さい。
ブラジルで流通する蚊の忌避剤
含有成分 |
別名 |
特徴 |
用法 |
DEET、ディート |
N,N-ジエチル-m-トルアミド |
1946年に米軍が開発、毒性は高くなく、子供にも使えるが濃度による。 化学繊維やプラスチックを溶解する。したがって化繊を痛める。 独特のにおいがある。 |
子供には10%以下の製品を使用 乳幼児は6ヶ月以上が使用可、手と顔には塗らない 30%以上の製品は12才以上使用可 20%以上の製品が好ましい 濃度が高いほど持続時間が長い: 7%で2時間 10%で3時間 30%で6時間 98%で10時間 |
IR3535 |
EBAAP Ethyl 3-(N-butylacetamido)propanoate |
1980年代にメルクが開発、DEETと同等とされる。 環境毒性が低いのが特徴。 |
DEETと同じ |
icaridina、イカリジン |
ピカリジン |
1986年にバイエルが開発、唐辛子から分離された。 皮膚毒性が低いので赤ちゃんや子供には一番良いとされている。 プラスチックを溶解しない。 高価。 |
乳幼児に使用可 乳幼児・子ども用が10%、6時間持続 25%で10時間持続 |
citronela、シトロネラ |
Cymbopogon nardus Rendle コウスイガヤ シトロネラグラス |
イネ科の植物 精油をアロマオイルとして使用する、スプレーする方法やろうそくに入っている。 |
持続時間が短いので塗布する場合頻繁にする必要がある。 ブラジルでは葉を乾燥させ燃やすやり方もある。 |
Eucalipto Limão、 レモンオイル |
p-Menthane-3,8-diol PMD ユーカリ油 |
オーストラリア原産のユーカリの一種 精油してシトロネラと同じような利用方法。 |
忌避剤以外によく使われるのが、殺虫剤ですが、これらは毒性があるので利用するには注意が必要です。といっても、閉めきった部屋で使用しない事だけですけどね(註7)。また、塗布タイプの忌避剤は持続時間何時間と記載されていても、汗をかいたり、水に濡れたりなどすると取れてしまい持続しません。あくまでも参考の最高持続時間とし、利用状況に応じてこまめに使うのを忘れないようにしたいです。
- 註7:日本では天然の除虫菊が有効成分の蚊取り線香が入手できる。筆者は好きであります。
『ヤブカは夜間には吸血しない。夜間吸血はイエカ。ヤブカは夜明けと夕暮れ時に吸血する。まずそのあたりを理解すると刺されるのを予防するのに役立つぞ。』