救世物になればよろしいのですが…

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Still standing. Osaka. Caju©2019


2020年10月

救世物になればよろしいのですが…

このところ毎月「今月はコロナ関連のひとりごとはしないぞ」と息巻いてるのですが、世の中をすっかり変えてしまった100年に一度といわれる災難なのでどうしても話題の中心になってしまいます。しかたないです。ウィズコロナの今日この頃です。と言うことで、今月は最近問い合わせが多い、「ワクチン」や「免疫」について展開します。

新型コロナウイルスを含め、一般的に感染症というものは、その元になる「病原体」(註1:ウイルス、細菌、カビ、寄生虫、など。)に接触(伝染)する事から始まります。病原体には特徴があり、まずそれから理解する事が大事です。ヒトの例ですと:

  • 肉眼や外観から見えない。
  • 発病の責任因子である、つまり病原体が作用していると発症し、作用していないと発症しない。
  • 伝染性がある、つまり病気になったヒトから接触や空気などを介して他のヒトに伝達する。
  • 増殖性がある、つまり伝染によって患者が増え、病原体自体も増える。
  • 可搬性がある、つまり発症しているヒトが移動して、新たな場所で伝染病が発生する。

『こうやって病原体の定義を改めて見ると、まさにコロナの世の中そのものだな。新型コロナウイルスは新しく現れた病原体なので、誰も免疫を持っていないし、治療も確立していない。したがって、この「病原体の特徴」をブロックする事を(する事しか)一番始めにされた訳だな。都市封鎖やマスク使用などでヒトからヒトの伝播をなくすしか手が無かった訳だ。』

病原体が現れたら生物が死滅するシナリオでは、現存する生物などいないはずなのですが、いるのはそれらに対する防御があるからです。これがいわゆる広義の「免疫」というものです。生物の長い進化の中で、免疫がすぐれた個体が多く子孫を残した訳です。我々はその子孫なのでしっかりした免疫をもっている事になります(註2)。免疫はそれだけで学問になるほど複雑かつ難解ですが、簡単な説明を試みます(註3)。まず大きく分けて、自然免疫と獲得免疫があります。自然免疫は自分自身ではない細胞の構成物、つまり、異物・病原体に対する防御です。特定の病原体に対してではありません。血液中にある白血球がこの役割をします。簡単にいうと、外部から入ってきた異物を食べて体内から除く方法で、「食細胞」と呼ばれます。感染症になると痰や膿が出ますが、これは病原体を食べた白血球の死骸ですね。異物は「抗原」と呼ばれます。

しかし、自然免疫は感染した細胞内に入ってしまっている抗原や毒性分子には対処できないのです。ここで更に高度な作用機序をもつ「獲得免疫」が出動します。これは特定の抗原に対する作用があり、大きく分けて、「特定の抗体を作る作用」と「感染した細胞を破壊する作用」があります。抗体は産生されると、血流に乗って身体中を巡るので「液性免疫」とも呼ばれます。感染細胞破壊は感染症が終われば必要なくなり、従事するエフェクターT細胞と呼ばれる細胞は消滅しますが、一部がメモリーT細胞と呼ばれる細胞に変化し、体内に残ります。これが「細胞免疫」と呼ばれるものです。細胞免疫は一回目の感染で抗原と接触して得た情報を記憶しているので、次回感染した場合、直ちに反応し、その抗原を退治するのです。但し、細胞免疫は1種類だけの抗原を認識するため、異なる抗原に対して何百万単位の種類の免疫細胞が必要になります。

『体調を整えないと免疫が低下するなどと言われるのは、この「自然免疫」や「獲得免疫」が上手く作動しない事を指すのだな。』

感染症に対する防御は投薬で治療するといった手がありますが、抗生剤を始め、あらゆる薬物は病原体をすべて完全に死滅(あるいは異物をすべて完全に除去)させる訳ではありません。ある程度減少させたり不活性化させたりはしますが、最終的には体内の免疫が作動しないと感染症は終息しません。なので、投薬するにしても、免疫も作用するようにしないとダメです(註4)。事前に細胞免疫が無い場合、ワクチンを使用します。ワクチンによる予防接種は、人為的に病原体と接触し、免疫を獲得する方法です。新型コロナウイルスの場合、新規に現れた病原体なので、「運悪く」早い時点で感染した方以外はだれも免疫をもっていない訳です。そこで、今世界中で最も望まれているのが「新型コロナワクチンを!」でしょう。

  • 註4:感染症の治療に免疫抑制作用があるステロイド剤を使う事があるが、やり過ぎると治療が上手くいかない。

先月のひとりごとでワクチンにも触れたように、現在、数ヶ月後に使用可能な製品が出てくると思われます。これを心待ちにしている人達が多いのは承知してますが、残念な事にここにきて心配な事柄が判明してきました。接種により有効な抗体はできるのですが、どうやらコロナウイルスに対する抗体は短時間で消滅してしまう可能性が大変大きいようです。さらにやっかいなのが、「再感染」の症例が報告されてきた事です。抗体が減ったため再感染するのも困りますが、その再感染により感染症が重篤化する可能性があるからです。「抗体依存性免疫増強」という状況がそれです。

獲得免疫の産物として抗体がありますが、実はすべての抗体が有用である訳ではないのです。抗体は大きく3種類に分けられます。病原体をブロックして感染症を発症させない「中和抗体」がいわゆる「善玉抗体」であり、皆これを期待するし、抗体と言えばこのタイプの事と思うのです。例は麻疹の抗体です。一旦できると、一生効果があります。次に、「感染抗体」があり、これはブロックもしないが悪さもしない、「感染した証拠」になるだけの抗体です。例はエイズのHIVの抗体です。そして問題が「感染増強抗体」、俗に「悪玉抗体」と呼ばれるタイプです。例はデング熱の抗体です。抗体依存性免疫増強は過去の感染やワクチンによって獲得した抗体がワクチンの対象となったウイルスに感染した時、または過去のウイルスに似たようなウイルスに感染したときにその抗体が生体に悪い作用を及ぼしてしまう状況です。以前の”情報”に基づいた抗体はウイルスに結合するのですが、中和しなく、「免疫複合体」とよばれるモノになり、自然免疫などの細胞に吸着しやすくなり、さらにウイルスの侵入門戸を広げてしまう事になるのです。

『新型コロナウイルスの再感染がこの作用機序で起こっている事実は現時点で認められていない。しかし、既に変異した新型コロナウイルスが何種類かある(註5)上、再感染は前回感染のウイルスの型と異なるとの報告が多くを占めるので、今後の検証が必要だな。』

この様な事情のため、救世物になる新型コロナワクチン、重篤化の原因になるかもしれないので手放しで喜べないです。ごめんなさい…

  • 註5:武漢で発生したウイルスは、日本や東南アジア、オセアニアに伝播したモノは弱毒した変性とされ、ヨーロッパ経由で米州や中東、南アジアに伝播したモノは強毒化していると、分類されている。S型、K型、G型と呼ばれる新型コロナウィルスの変異。