錯覚してますよね:洗剤編

By: Kazusei Akiyama, MD

Half Moon. Sao Paulo. Caju©2018


2018年9月

錯覚してますよね:洗剤編

 

我々の生活の中ではあまりにも普及していて、あって当たり前のようなモノが多々あります。それらには本当に便利であるため、生活の足しになるモノも沢山あります。しかし、はたして便利であるのか、無くてはないモノなのか、生活の質を高めているのか疑問が出るモノも色々あると考えます。そう言った目で見れば、周りには我々が「良いと思って」錯覚しているものが結構あるのではないでしょうか?これらに焦点をあてる「錯覚してますよね」シリーズを開始します。

シリーズ第一弾は「洗剤」です。言葉のとおり、「洗う」ための「汚れをおとす」ための製品の総称ですが、現在ではほぼ「合成洗剤」の事を示します。人類の歴史で一番古い洗剤は「石鹸」ですが洗剤とは言わないですね。いわゆる洗剤の主作用は「界面活性作用」であり、油を含む汚れを水に分散させる作用が洗浄能力になります(註1)。合成洗剤は第一次世界大戦中にドイツで発明されたとされており、先進国での現在のような普及は洗濯機の普及と関連があると言われます(註2)。1950年代には石油を原料にした合成洗剤が普及し始め、洗濯や掃除のみではなく、食器洗いや身体を洗う製品などに発展しました。

  • 1:水に溶ける汚れは水洗でおちるので洗剤は不要。
  • 2:洗浄力が強く、石鹸に比べ、水溶性に優れ、石けんカスが発生しないため。

『そう、髪の毛を洗うシャンプーやボディーソープは食器洗い洗剤や液体の洗濯洗剤、掃除用洗剤と同じである。これを知ってる人はあまり多くないのがびっくりだな。この話をすると全然違う物質であると思っている人が多い。濃度や添加物などが違うだけで、基本的な界面活性剤は全く同じなのだ。思うに石鹸が廃れた原因は、使用開始(泡立てる)するのに合成洗剤より時間と手間がかかる(といっても数秒の話ですけどね)のと、巧みな宣伝のためではないか。非常に強い洗浄力があるので、それをうたい文句にできるし、石鹸使用の難点とされる石けんカスが出ないので、念入りに水洗いしなくても仕上がる所も良かったのでは?』

『そのかわり、食器に残留して、食べ物と一緒に体内に入ってくる。』

ということで普及してます、合成洗剤。

しかしそのために幾つか問題が出現しているのですが、24人の読者様は承知されてますよね。一つが環境汚染。また、身体への毒性。合成洗剤は残留性が高く、自然界で分解されるのに時間がかかるため、下水で排出されたものが「発泡」という現象として現れます。

写真1と2:サンパウロ市の下流のチエテ川の発泡

写真1:Pirapora do Bom Jesus市、2015年。

写真2:Salto市、2017年。

下水道が整備された先進国では発泡はおこらなくなっているようですが、下水処理でも分解しきれなく、汚泥中に残留してしまいます。界面活性剤は細胞膜を不安定にさせ、最終的には細胞膜を破壊してしまうので、有毒性の物質と認定されます(註3)。問題はこの界面活性が持続する合成洗剤は環境中に一定濃度以上あると生物毒になることです。石鹸ももちろん界面活性剤ですが、水中の硬質(カルシウムやマグネシウム)と反応し、石けんカスになってしまい、素早く不活性化されます。また、石けんカスは自然界の細菌や魚のエサになってしまうので、残留しにくいのが大きな違いです。

  • 3:生物の細胞は細胞膜表面で物質代謝を行う。細胞膜は繊細な界面で成立しており、界面活性剤はこの機能を破壊する。

『ここで大きな錯覚が、「合成洗剤の方が汚れがよくおちる、簡単におちる」だろう。確かに洗浄力は強力なのだが、石鹸より優れているとか、何倍ものものでもない。しかし、物質の性質上、接触するものにダメージをあたえてしまうし、(註4)、色んな添加物が入っているのでそれら物質(註5)の毒性もあるし、その対策が必要になってくるのだな。洗髪の場合はシャンプーの後、リンスでコーティングするわけだな。洗濯の場合は柔軟剤をつける。食器洗いの場合は手袋を着用する。そうすると今度は「対策」の物質の毒性に直面する事になるのだ(註6)』

  • 4:皮膚の場合、炎症をおこす、髪の毛の場合、ツヤがなくなり細くなってくる、洗濯物の場合、繊維がゴワゴワしてくる、等。
  • 5:洗浄力増強剤(水軟化剤、キレート剤、pH調整剤、アルカリ剤、分散剤等)、保持剤(泡調整剤、溶剤、安定化剤)、その他(酵素、蛍光増白剤、 漂白剤 )、香料、染料、柔軟剤など。
  • 6:ゴムにアレルギーを起こす;柔軟剤も界面活性剤なので、それがずっと皮膚に接触しているので経皮毒になる。

『皆さん、石鹸でも十分に汚れ落ちますよ。』

『食器も洗えるし、洗髪、掃除、洗濯もできます。何より手や頭皮の皮膚が荒れなくなります。抜け毛減る、髪の毛のボリュームが増えるなど髪の元気が戻るとの報告があります(註7)。環境にも優しい石鹸は(註8「次世代にどんな地球を残したいか」を考えておられる子供さんのいる家庭の味方と言えるでしょう。嫌がられる石けんカスはちゃんとすすぎが出来たか判る材料になりますね。目からうろこですよ。』

  • 7:これはある程度使い続けないと効果が現れない。
  • 8:石鹸も環境問題がない訳ではない。例えば原料となるヤシの木の栽培のため、熱帯雨林を伐採している地域もあり、問題化。

ではどの様に石鹸を使うか、次に提案です:

台所:石鹸はブラジルではCoco石鹸が良いとされるが、洗濯石鹸でも使えます。石鹸もさることながら、食器洗いで重要なのは、「まず機械的に汚れをおとす」事で、これには「たわし」や「食器洗いブラシ」を使います(註9)。油などは、あらかじめキッチンペーパー等で大まかとっておきます。普通のスポンジで水たっぷりで泡立て、洗い、石けんカスが残らない様水洗いして終わりです(註10)。

『面白い事に、始めはあまり上手くいかない。理由は水の量だな。洗剤で洗う時の水の量で使うと、少ないので泡が立たない。石鹸使う時は、水たっぷりが重要です。』

  • 9:このやり方は最近の医療でも見直され、外傷の手当には「赤チン」の塗布ではなく、石鹸とブラシで洗い流すのが最も効果的。
  • 10:これで合成洗剤が残留した食器で食べる事が避けられる。

洗髪:シャンプーは石鹸シャンプーが入手できれば液体で使用できます。なければ普通の石鹸、または中性石鹸で洗えます。まず水たっぷりで髪を洗い、石鹸を手でしっかり泡立て、まず頭皮からマッサージするように洗い、次ぎに髪です。しっかり洗い流さないと石けんカスのためベタベタした仕上がりになります。筆者は2回洗いが一番効果的ではないかと思ってます。また、石鹸は性質上弱アルカリ性なので、髪のキューティクルを開き、洗ったままだとゴワゴワしますので、弱酸性のリンスを使います。このリンスは商品では「石鹸シャンプー用リンス」として出てますが、自作でも十分いけます。自作する場合は、食用酢、レモン汁、クエン酸水のどれでも可です(註11)が酢の匂いが苦手であれば、クエン酸(註12)がお勧めです。石鹸は以外と洗浄力があるので、毛染めや化学的なパーマなど頭髪に化学物質をコーティングしている場合は取れてしまう可能性がありますので、事前に石鹸利用可を確認するほうが無難でしょう。

『美容のためとはいえ、そのような化学製品を頭皮に着けている事自体に問題ありと思うけど。』

  • 11:水2リットルに対し、大さじ1くらい。クエン酸水は水200mlにクエン酸小さじ1で作っておいたものをさらに希釈する。
  • 12:柑橘類の酸。ポル語名、acido citrico。専門薬局や健康食品店、通販などでキロ20レアル前後で売ってます。

洗濯:粉石鹸を使う。しかし高価のため、クエン酸を使うのがお勧めです。水10リットルに対してクエン酸10gの溶液で洗濯でき、柔軟剤は不要です。

『筆者は職業柄毎日何十回も手を洗うが、残念な事に保健所の規則で医療機関で使用される石鹸はポンプ式でないとダメなのだな。これは接触性の感染症を予防する措置だから仕方ないけど、手が荒れる 三倍に薄めて使ってるのだけど。ブラジルで流通している液体石鹸はどれも洗剤なのだ。』