By: Kazusei Akiyama, MD
2017年05月
今月のひとりごと:『ソーセージと言っても、色々ありますよ』
このコラムの24人の読者様も既にご存じの様に、先月当地で食肉不正が発生しました。ブラジル連邦警察(PF)の大がかりな捜査はすべて名称がつきます。で、今回のは「Operação Carne Fraca」直訳すると「弱い肉作戦」です(註1)。PFの操作の名称はその内容にちなんだ命名があるのですが、今回のは絶妙な名前です。「安モンの肉」という意味と聖書に出てくる「肉が弱い」(註2)つまり「欲望に勝てないため汚職に走った」を上手く掛け合わせてあります。この食肉不正は食肉加工業者がブラジル政府の検査官に賄賂を渡し、品質管理基準に満たない食肉が認可され(註3)国内外で流通していた疑いの捜査でした。日本でもブラジル産の食肉が輸入されているので、輸入保留されましたし、EU、スイス、中国、チリなどは輸入停止、全部で31カ国・地域が輸入を止めるの騒ぎにまでなりました。問題のあった加工業者は主にパラナ州を拠点にしている企業ですが、全国におよび、流石のブラジル人も肉の消費を控え、スーパーでの売り上げが軒並み減少しているようです(註4)。問題のあった製品は牛肉、豚肉、鶏肉の加工品で、ソーセージ、ハンバーガー、冷凍鶏肉などで、「水分含量が基準より多い」「蛋白含量が基準より低い」「使用基準より添加物が多い」「サルモネラ菌汚染」などの容疑があります。捜査の証言では加工の工程で消費期限切れや産地不明の肉の使用、段ボールの混合(註5)などが指摘されてます。
『ブラジル政府は「S.I.F.下で確認された単発的な法規違反、一部の公務員が犯した職業上の逸脱行為であり、ブラジルの衛生管理制度全体の機能不全を意味するわけでない」との姿勢である。元々そこらで屠殺された家畜を適当に販売していた社会に衛生基準を取り入れたS.I.F.制度自体は正しいと思うし、全世界への輸出実績を勘案すると(註6)S.I.F.がついている食品はないより安全であることはまず間違いないであろう。でもこうやって、不正が起こると、「何を食わされているのか解らん」状態になるのだな。』
今回問題があった製品の内、ソーセージが当地邦人でも消費が多いので(註7)、それ(ブラジルではsalsicha)に焦点を当てみます。なぜソーセージが不正の対象になったかというと、「かなり加工できる肉製品だから」でしょう。ソーセージの定義は「食肉+脂身+塩・香辛料を腸などに詰めた食品」です。「詰める」がミソなので、ブラジルでも「詰め物」embutidoと広義に呼ばれます。日本でもウインナーやフランクフルトと呼ばれるようにドイツ語圏の食文化ですね(註8)。ウインナー、フランクフルト、ボロニアの違いは何の腸に詰めるかで決まり、羊、豚、牛の順になります。日本のJAS規格のソーセージは特級、上級、標準と3段階の等級がありますが、ブラジルの法規では5段階あります(註9)。等級付けはどれだけ「肉のみが入る」かで決まります(表1)。
『肉のみというと、反対に肉以外のものが入ると言うことだな。』
塩と香辛料は入れないとソーセージにならないので、どれにもありますが、肉以外とは結着材料、デンプン質、砂糖、などの他、「畜肉」と呼ばれる豚の頭、鶏の首や背骨と肋骨、牛や豚の肉を分けた残骸などを「機械的処理」したモノです。物理的処理ともよばれ、残骸を機械的に濾して骨を廃除する方法です(註10)。わかりやすく言うと昔はゴミだった精肉廃棄物を「有効処理」して食用に利用しているわけです。
『安モンのソーセージのザラザラした食感は骨だったんだ~!』
表1。ブラジルのソーセージの等級。
等級 |
規格 |
1 salsicha Viena |
最も肉含量が多い。牛と豚(またはどちらか)肉と脂身のみ。 |
2 salsicha Frankfurt |
牛と豚(またはどちらか)肉と脂身にベーコンが入る。香辛料多め。 |
3 salsicha tipo Viena ou tipo Frankfurt |
牛と豚(またはどちらか)肉と畜肉(40%まで可)と腱、皮、脂身、結着剤など。 |
4 salsicha de carne de ave |
鳥類肉(一般的に鶏肉)肉と鶏畜肉(40%まで可)と結着剤など。 |
5 salsicha |
牛と豚(またはどちらか)肉と畜肉(60%まで可)と内臓、腱、皮、脂身、結着剤など。 |
肉のみで作られたソーセージは調理すると白っぽい肉の色になります(フランクフルトは着色するので例外)。医師としてお勧めできるソーセージはブラジルでは等級1と2のみです。普通スーパーで大量に並んでいるのは5のsalsichaです。ポル語で「畜肉」は「carne separada mecanicamente」と表示さているので、是非ラベルを読んでみてください。湯煮や燻製など保存処理をしていない「生ソーセージ」(ブラジルではlinguiça frescal)が基本的肉のみで作ってますので筆者はソーセージを食する場合はfrescalの一種linguiça toscanaにしてます。
註1:1100人の捜査員の動員。194箇所で強制捜査。309通の裁判所命令。
註2:新約聖書に出てくる「肉」は「人間の欲望」の意味だそうで、「肉が弱い」とは「欲望に負ける」という事になるそうです。
註3:ブラジルの食品認可はS.I.F.Serviço de Inspeção Federal、連邦衛生検査制度による。1915年に創設された歴史ある役所。農務省(正式名:ブラジル農牧食糧供給省)の管轄。家畜、その生産物、加工品、原料;魚介類と海産品;家畜乳と乳製品;卵と卵産品;蜂蜜と蜜産品の監督・認可が業務。
註4:最近スーパーに行くと肉売り場が小さくなっている感じがします。捜査直後は10人に4人が肉の消費を減らしたとの調査結果あり。
註5:そのとおりです、紙を混ぜてカサを増やすやり方ですな。
註6:輸入する側にも検査があるので、可であるから輸入が許可されるのでしょう?
註7:なぜか日本人の朝食にはウインナーとサラダが付きもの、それを当地でも継続しているのだな。
註8:日本で「ボロニア」と呼ばれる詰め物はイタリア系、ブラジルではsalsichãoおよびmortadela。また、サラミのようなドライソーセージもありますね。
註9:正確には4+1段階。
註10:食肉処理装置という機械です。