胃カメラと東西考

By: Kazusei Akiyama, MD


2015年01月

今月のひとりごと:『胃カメラと東西考』

新年明けましておめでとうございます。22人の読者様に今年もぜひご愛読いただけるように頑張ろうと思う筆者です。年末年始は例年のクリスマスデコレーションが減った感じでしたね。去年はW杯と大統領選挙があったので、企業の協賛や献金が多く、年末には弾切れになったとどこかで解説してました。また、サンパウロでは水不足が深刻で、毎日の生活に影響を与えるかどうか心配です。新年から盛り下げる話題で申し訳ありません。

さて今月のひとりごとは苦痛に対する東洋と西洋の考え方の違いです。勿論東西どちらも苦痛を嫌いますが、その苦痛であるとする感覚は違います。おおざっぱにいうと、西洋では痛みとは「良くない事」であり、廃除すべきモノの一つに挙げられます。東洋では痛みは「生理現象の一つ」であり、自然の一部と捉えられるのではないでしょうか?東洋では多少の痛みは「苦痛」とまで考えないので、指圧や鍼灸など若干痛みが伴う手技が発明されたのではないかと考えます。反面、西洋の文明に影響が多大なキリストが最後にイバラの冠を着けられた事に象徴されるように、痛いことは悪いことであると捉えられるのだと思います。この違いを日本人には経験が多い「胃カメラ」で考察します。

胃カメラは内視鏡検査検査の一種です。内視鏡検査は、医療で光学系の器機を用いて人体内を観察する検査です(註1)。有線式のいわゆる胃カメラや大腸カメラ、腹腔鏡、気管支鏡、血管内視鏡などと非有線式のカプセル内視鏡がありますが、後者はまだ一般的ではありません。なぜ「胃カメラと日本人」かというと、日本人種は世界で一番胃癌の多い民族であるからです。この背景があるからこそ、「胃癌検診のシステム構築」、「世界で類を見ない胃レントゲン造影(バリウム検査)の技術」、「胃カメラの開発」があったのです。ブラジルを含む欧米では、胃カメラ検査は「麻酔」や「鎮静剤」や「鎮痛剤」を投与して意識がなく、眠った状態でするのが普通ですが(註2)、日本ではそうでもありません(註3)。

  • 註1:広義では直接観察しにくいモノの内部を観察する器機や検査を示しますが、ここでは医療用の話しです。
  • 註2:ここでは麻酔や鎮静剤や鎮痛剤を総じて「麻酔」とします。
  • 註3:日本では最近、無痛内視鏡とか睡眠内視鏡などと呼ばれる。

『麻酔を使う使わないは医療が進んでいるいないの問題ではなく、痛みに対する捉え方が違うからだぞ。どちらも利点不利点あり、何を重要視するかかによるのだな。麻酔を使うとそのための事故があるのだな(註4)。表に使用不使用のメリットデメリットをまとめた。胃カメラの麻酔は必須ではないのだが、当地では麻酔事故のリスクは無しのリスクを上回るを考えられているのだな。麻酔をして手術するのが当たり前感覚。全然議論にもならない。反面、日本では機器の進歩(この場合は内視鏡の細経化)と医師の技術向上があれば麻酔は邪道と言う考え方が主流なのだな。実際にはブラジルで初めて麻酔胃カメラをした患者さんは「とても楽で、今までのは何?」といった意見がほとんどだな。大腸カメラになると、さらに麻酔の効果が顕著だな。』

  • 註4:死亡事故もさることながら(10万件に1例くらいの頻度)、麻酔下検査後、事故や合併症を起こして救急医療を受ける頻度が統計がある米国では「看過できない」とまで報告されてます。

表をみるとどちらの方法が良いとは断言できないと思います。胃癌が多い邦人、特に男性は40歳を過ぎたら必ず毎年胃の検査をするのが理想的です。その時、どのような検査をするか、そして麻酔の使用の有無を主治医に相談していただけたら幸いです。

  • 註5:消化器粘膜を伸ばしてヒダとヒダの間をちゃんと観察するため。