チクングニア熱が来るぞ!

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年12月

今月のひとりごと:『チクングニア熱が来るぞ!』

今月はひとりごとというより、医学情報です。当地サンパウロでは雨が少ない今年ですが、これより雨期に入りますので、例年の大水に関連する病気(註1)が増えます。レプトスピラ症はネズミの尿に触れなければ感染しないので、洪水時に泳がなければ大丈夫ですが、面倒なのは「蚊」が媒介するやつです。この所、日本でも「デング熱」が国内で出現し、話題になってます。また、怖いのが「エボラ出血熱」。これは何時流行地のアフリカ西部を出るか、や、治療薬で日本製の抗生剤が有効の可能性があるなと注目を浴びてますね。なぜ怖いかというと、とにかく致死率がとんでもなく高い。罹患すると半分は死亡する感染症です。しかし、比較的静かにブラジル国内に輸入されているのが「チクングニア熱」です。

日本語では「チクングニア」または「チクングンヤ」と標記される(註2)ウイルス性の感染症です。なぜ出血熱の話しにチクングニアが出てくるかというと、感染には「蚊」が媒介するからで、この蚊がデング熱や黄熱、マラリアなどを媒介するのと同じ「ネッタイシマカ」や「ヒトスジシマカ」によるものであるからです(註3)。つまり、感染経路がまったく同じであるのですね。当地の保健関係の監督局では例年のデング熱に合わせ、チクングンヤ熱も流行するのではないかと大変警戒しているもようです。ブラジルでは国内感染例はまだなく、今年の9月よりカリブ海地域からの輸入が報告されてます(註4)。蚊に媒介される感染症は発病している人間を吸血することにより、感染が広がります。ので、発病中は隔離して、蚊に咬まれないようにするのが感染散布の予防の一番重要なとろろですが、デング熱の流行をみても解るように、ブラジルの現状では無理な相談です。また、デング熱と症状が重複することから、来年の夏の熱性感染症ではデングとチクングニアを鑑別する必要があるのも難題の一つです。

チクングニアとはアフリカの現地語、バント語で「折り曲げる」意味で、これは一番主特徴、関節痛のためです。発病者は関節痛のため、「屈んで歩く」のでこの名称が定着しました。潜伏期間は3日~1週間程度で、急激な高熱(38.5℃以上)、発疹、激しい関節痛を起こします。その他、頭痛、全身倦怠感、嘔吐、筋肉痛、結膜炎、リンパ節腫脹などが現れることがあります。重症例では出血や脳症がありますが、致死率は低い感染症です。

チクングニア熱の特徴の関節痛は四肢に強く、遠位かつ対称性(つまり末端にいくほど強く、左右対称に出現する)で次の順に多く見られます:手首、足首、指、膝、肘、肩(註5)。症状は数日から2週間程度続き、ほとんど後遺症なく終焉します。

予防は蚊に刺されないことが中心になります。予防薬も治療薬もありません。投薬は対処療法のみで、ブラジルの場合、前出で説明したようにデング熱の可能性もありますので、解熱鎮痛剤はサリチル酸系(アスピリン系)使用は禁忌です(註6)。デングとチクングニアの鑑別は特異的症状が無い限り、血液検査をするしかありません。今年の夏の高熱は例年よりも注意が必要ですね。高熱の場合、早めの受診をお勧めします。


註1:都市部では蚊とデング熱、ネズミとレプトスピラ症。ブラジル内部では蚊と黄熱が追加。

註2:ポルトガル語では chikungunya または chicungunha。

註3:エボラ熱も蚊による感染説が浮上してきている。

註4:2014/10末までブラジル全国で828例確認されている。

註5:腰、頸椎はめずらしい。

註6:出血が悪化するため。