毎日出ないと良くないです。

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年05月

今月のひとりごと:『毎日出ないと良くないです。』

出ないと良くないものは色々ありますが、今月は「ウンコ」についてです。排便、つまりウンコの出る状態の異常は回数が増える事が多い下痢と減る便秘があります。下痢は大便そのものの形状が至極変化をするので(註1)判りやすく、医学的にもきっちりした定義があります。反面、便秘にははっきりした定義がありません。意外でしょう?正常(あるいは健常)な排便回数より少ない排便、あるいはその行為の困難といったような定義になります。

『しかし、この「健常の回数」というのが問題なのだな。医学書によると1日2~3回から3日おき、週1回、すごいのでは2週間に1回までと、筆者によりまちまちなのだ。15日おきが健常であるといってる医学者は絶対に自身がその頻度でうんこをするので普通と思っているのだろう。なので、医療の現場では回数より、排便に際する不満感(不快感、残便感、腹滿感、排便困難など)を重視することになる。』

大便というのは小腸では液状であり、大腸で水分を吸収され、直腸でいわゆるウンコの形状になります。大腸での水分吸収が多いと硬いウンコになり、少ないと柔らかいものになります(註2)。大腸を通過する時間が正常な大便を作るポイントになります。日本人の場合、女性の半数、男性の1/4が便秘だそうです。男性は若年層は少なく、40歳代から増加し、70歳代で男女同じくらいになります(註3)。便秘は医学的に器質性便秘と機能性便秘に分類されます。器質性は腸管の管内が狭くなるような、解剖学的に通過障害をおこした物を指します(註4)。腫瘍、捻転、癒着や炎症が原因ですね。どちらかというと急性の状況が多い。機能性は名称のとおり、解剖学的な組織変性はなく、これは慢性の便秘が多い。さらに弛緩性、痙攣性そして直腸性に細分されれます。弛緩性は腸の蠕動が低下し、通過に時間がかかるタイプです(註5)。ウンコは太く硬い。痙攣性は副交感神経の異常で不規則な運動を起こすタイプでウサギのウンコ状でコロコロしてます(註6)。直腸性は大便が直腸に入ってきても便意を感じないタイプです(註7)。

『最近注目されているのは「大腸のむくみ」のため、便秘になるまたは便秘が悪化する状況。食べ物の内容やステロイド剤などの薬剤のため腸壁がむくみ、排便困難にいたる。さらに大便が溜まることで腸壁を圧迫し、むくみを改善すべきである血流が悪くなり、悪循環になる。むくみ腸のウンコは細いのと残便感が強いのが特徴。また、機能性便秘のため大便がたまりにたまり、器質性の「糞詰まり」(註8)になることもあるので便秘もバカにはできないぞ。でも便秘って医者もあまりよく判ってない病態だな。念仏のように「植物性繊維を摂れ」とばかり指導するのがほとんど。これは米国では意味があるのだが(註9)日本やブラジルではどうだろう(註10)。筆者の診療所では弛緩性便秘の患者さんが毎日せっせと葉っぱ系の野菜を食べ、しまいに「phytobezoar 植物性胃石」となり、それが腸に詰まって開腹手術になったケースが1例あった(註11)。過ぎたるは及ばざるがごとしだな。』

治療は食事と生活習慣の見直しの他、薬剤投与では腸管の水分を増やす方法(註12)、大腸を刺激して蠕動を促す方法(註13)、神経を調整して運動を改善する方法(註14)に大別できます。刺激性下剤は連用すると習慣性と依存性が出やすく、薬の作用で大腸平滑筋収縮障害がおこることがあるのでなるべく頓用にしたいものです(註15)。自然系だと大丈夫かというとセンナや大黄などは刺激性なので注意が必要です(註16)。

『筆者の愚考では現代の便秘の一番の原因は運動不足です。対策は歩くので十分です。次、または同等で、食生活のまずさだと思います。ちゃんと三食食べる。水分をとる。適当に油(オリーブ油がいいぞ)も必要(無いとウンコが滑りません。)。ブラジルではできれば毎日パパイヤかオレンジジュースを摂る。両方でもいいですよ。22人の読者様、毎日ウンコ出してますか?また、急な便秘は重要な病気と絡むことが多いので、便秘といってバカにしないで受診しましょう。』


註1:泥状や水様になりますね。

註2:ウンコとは通常の大便をしめし、柔らかいとウンチ、もっと柔らかいとウンニョと呼ばれるそうですが、本当ですかね?

註3:ブラジル人も同じようです。

註4:反対に大腸が拡張する「巨大結腸」という病気もあります。

註5:原因は運動不足、加齢、糖尿病や自己免疫疾患である強皮症などの全身疾患、抗うつ剤などの薬剤、など。

註6:ストレスや自律神経失調症などが原因。

註7:排便を我慢しすぎてなることがほとんど。直腸肛門機能障害といった神経の病気もありますが。ウンコ形状は弛緩性と同じ。

註8:医学用語では「糞便性イレウス」といいます。場合によっては手術になることも。

註9:米国発の論文に依存しすぎの現代医学の典型。純粋なアメリカ料理を想像してもらうとわかるよね、バーガーとポテチとコーラでは繊維ゼロ。

註10:サンパウロなどで食する伝統的な料理は米、豆、サラダ、肉類などのバランスが良い食事とされる。正当な和食は植物繊維が多い。

註11:ちなみに筆者の処方で葉っぱ類を大量摂取したのではない。

註12:塩化マグネシウムなどの塩類下剤、マニトールなどの多糖類、新薬では腸の水分分泌を促すルビプロストンなど。

註13:センノシド系やビサコジル系など。

註14:自立神経調整薬や漢方薬など。

註15:つまり便秘薬のためにさらに弛緩性便秘になるのだな。

註16:大黄の下剤成分はアントラキノンという刺激成分であるが漢方では単体で使わない。 大黄甘草湯 に代表される、最低「甘草」という生薬と合わせて、副作用を緩和した状態で服用する。このあたりが西洋医学と漢方医学の違いだな。