By: Kazusei Akiyama, MD
2014年02月
今月のひとりごと:『合法化の方向なのだろう、やはり。』
なにが合法化というと、すばり「大麻」です。 このコラムの22人の読者様にももちろん、日本人に馴染みの深い「アサ」の事ですね。年末年始と「大麻の合法化」がニュースになってました。ブラジルのお隣の国、ウルグアイでは12月に大麻の栽培と購入が合法化となり、元旦に米国コロラド州の「解禁」が日本のメディアにも記載されました(註1)麻薬に関連する法律で取り締まられてきた大麻が前者の様に国家による生産物になる事や後者の様に全米で初めて嗜好用大麻の合法化は大きな出来事だと思います。
日本では「日本書紀」に記載があるほど、麻は大昔から人間の生活に密着し、栽培されてきた植物です。元々日本では繊維素材をもとにした糸・布や製紙、種や葉や花を食用、薬用にし、いわゆる産業製品としての扱いだったのですね。木綿が普及するまでは麻布が庶民の服装に使用され(註2)、種は油にもなり、現在でも七味唐辛子の一味として日本人の食卓に上がっていますね(註3)。また、漢方医学では種は「麻子仁(ましにん)」とよばれ、便秘薬の処方構成の一部です。さらに、戦前の民間療法に子供の「疳の虫」にも使用され、明治時代にはぜんそくの治療薬も存在しました(註4)。大麻を吸引する習慣はなく、どちらかというと「酔い」として嫌われたので(註5)向精神作用(註6)が少ない品種に改良され、結果日本で野生自生している大麻はTHC含有濃度が少ないそうです(註7)。そして、取り締まりの根本にあるいわゆる娯楽用としての使用はアメリカ進駐軍が持ち込んだとされます。
『皮肉な事に、同じ進駐軍が公布した「大麻取締規則」(1947年)を元に取締法ができたのだな。これにより伝統的に(註8)存在した産業が打滅を受けたのだな(註9)。』
向精神作用のある物質は人類の始まりから我々と密接してます。どの宗教にも「お酒」が出てきますし(回教を除く)(註10)、基本的に集団生活をする人類にとって社会を潤滑に稼働させる重要な役割があるのは社会学の専門家でなくても理解ですよね。筆者の見解は、問題は「乱用」と「違法性」にあると思います。医学的に考えると、向精神作用のある物質は「危険性」と「依存性」に関心があります。いかに健康に影響を与えるか、そのところが重要です。「乱用」とは健康上(必須では無いけどついでに社会上)問題のある使用方法なので、国際疾病分類に「薬物乱用」が記載されます。違法性はその時代や社会背景により定義されるものであって、医学的には、違法・合法によるその物質の入手方法や品質などに影響があります(註11)。
現時点で大麻の用途は「産業用」、「医療用」と「嗜好・娯楽用」に分類できます。産業用は主に繊維素材の加工、医療用は癌やエイズの患者さんの治療に利用され、嗜好用は言葉のとおりで、向精神作用の「多幸感」を求めます(註12)。合法化の動きは主に西洋社会で運動が行われており(註13)、「アルコール以上に危険なものではないので禁止する理由が見当たらない」のが一番の理由ではないかと考えます(註14)。小職としては医療用が一番関心があります。向精神作用以外にも喘息や緑内障の治療に有効のようですし、難治の多発性硬化症に有用性が示唆されてます。鎮痛作用、鎮静作用、催眠作用は周知のとおりで(註15)、解禁により医療用の用途が期待されているのは理解できます(註16)。今後の動きに注目したいですね。最後に、小職は医師として、マリファナ吸引を推奨しているのではありませんので、誤解の無いようにお願いします(註17)。さらに、ブラジルでは違法薬物なのでご注意を(註18)!
註1:ウルグアイの件はあまり報道されなかったようです。やはり日本は北米依存が強いのだな。
註2:金持ちは絹を使った。
註3:七味唐辛子の中の一番大きな粒、直径約3ミリのあれですな。
註4:「ぜんそくたばこ印度大麻草」という商品。レトロでかわいいネーミングだな。
註5:産業用に扱っている時に花粉を吸入しても薬理効果があるためだな。
註6:テトラヒドロカンナビノール、THCが向精神薬効がある。
註7:これと反対の現象がブラジルにみられる。当地には大麻はブラジルの東北部、ノルデスチでサトウキビ栽培に従事するアフリカ奴隷が持ち込んだとされる。キツい仕事を和らげるのに使ったのですな。そのため、THC含有量の多い方向に品質改良が行われ、国産ではノルデスチ産の大麻が一番強いとされる。
註8:どれだけ伝統的かというと、神社の神事に使用される。大麻と書いて「おおぬさ」とよばれ、お祓いに使われるハタキのような、あれです。
註9:現在でも免許制で生産農家は存在するが、少ない。取締法により、大麻が使いにくくなり、日本で表示される布などの「麻」は「亜麻(あま)」を示すことになった。
註10:キリスト教のワイン(キリストの血だって)や日本の御神酒。
註11:回教国ではご存じのとおり酒類は違法であるし、米国でも飲酒が禁止された時期もあった。ブラジルではごく普通に医療用として処方される覚醒剤が日本では麻薬扱いだし、例は尽きない。今月のひとりごとの対象の大麻でもアメリカの事情で押しつけた日本での取り締まりも、現在はその本国で解禁の運動が激しい(実際コロラド州では解禁になった)。なんか、勤勉な日本人がキツい宿題をちゃんとしているのに教師役のアメリカが事情が変わったので問題を変えるといったような状況に見えますがね。
註12:違法性であるなどの問題で、名称を分ける事が頻繁にみられる:産業用はヘンプ(大麻の場合。亜麻の場合はリネン)。医療用はメディカルマリファナまたは単にメディカル。嗜好用をマリファナ。
註13:オランダに始まり、合法化あるいは非犯罪化がベルギー、ポルトガル、スペイン、カナダ、チェコ、ベルリン市、ワシントン州、コロラド州、ウルグアイなどで施行された。
註14:勿論否定運動もありますが、諸研究による安全性のエビデンスのため理屈がなくなってきているようだ。何かというと、「踏み石論」(もっと危険なドラッグの入り口になるという論説)や「犯罪関与論」(マリファナの影響下で犯罪に挑む)に行き着く(にしか行き着かない)ようですが。
註15:これら作用は1951年まで日本薬局方に記載されていた。
註16:完全合法化されたウルグアイに製薬会社が大関心のもよう。
註17:ちなみに秋山説では現時点で我々の社会で入手可能な向精神薬で危険上位は「エタノール=酒」、「砂糖(ショ糖)」、「たばこ」です。
註18:薬物の依存性、乱用性、危険性などについては別途ひとりごとが必要ですね。