By: Kazusei Akiyama, MD
2013年03月
今月のひとりごと:『ピロリ菌の常識はまだまだ変わるのだろうな。』
先月のニュースで「ピロリ菌の除菌保険適用拡大」がありました。これは2013年1月の日本の厚生労働省の専門部会により、除菌により胃炎が改善することが確認されたためです。厚労省にはいろんな疾病の専門部会がありますが、なぜ全国的なニュースになるかというと、ピロリ菌(註0)は胃ガンの原因となりうるため、依然として日本人には胃ガンが多いためです(註1)。外的生物がガンの原因になることはあります。C型肝炎ウイルスと肝臓ガン、ヒトパピロマウイルスと子宮頸ガンや咽頭ガンなどがよく知られた例です(註2)。この場合ほとんどがウイルスなのですが、ピロリ菌は唯一ガンの原因になるバクテリアなのです。
『ピロリ菌が胃ガンの病原体であることが認定されたのは比較的最近で、1994年の事である。19世紀から20世紀にかけて細菌研究が盛んであったが、その頃には胃内らせん菌がいろいろ観察されていたのだな。菌の発見は1919年で、日本の研究者小林六造によるものとされている。しかし胃の中のバクテリアと胃の病気の関連はあまりわからなかったのだな。1954年には米国の大先生が胃内で細菌が生存できないとピロリ菌の存在そのものを否定してから(註3)は当分忘れられていたのだ。これは存在しないのではなく、当時の検査方法や、細菌の培養技術では検出されなかたったのだな(註4)。1983年にようやくオーストラリアの研究者達がヒトの胃内菌を培養することに成功した。これが再発見だな。でもその時点ではまだ病原体としての意味は不明であった。当時は胃炎や胃潰瘍はストレスが原因、胃ガンは遺伝が主な原因であると考えられていた(註5)。病原性の証明は直接というより、間接的に疫学的にされたのだ。つまり、慢性胃炎や胃潰瘍、胃ガンの患者の多くにピロリ菌が検出されることから明らかになっていった(註6)。』
1994年より胃ガンの病原体である(註7)ことが認定されて以来、除菌の対象になってます。日本の健康保険制度では2000年より「胃潰瘍」と「十二指腸潰瘍」に対して除菌が対象となり、ようやく今年から「慢性胃炎」が追加適応となりました。(註8)ピロリ菌感染は上下水道などの衛生環境が良いほど感染率が低下することが分かってます。邦人では世代が高いほど、感染率が高く、40代以上だと50%以上、20代だと25%くらいです。みんな感染しているから、問題ないという説もありますが、除菌しないから感染がなくならないという説もあります。除菌方法もいくつかあるし、2回除菌してもうまくいかなかった場合はどうするのかと言う問題や除菌をすると逆流性食道炎になるケースがある事実など宿題が残ってますが(註9)現時点では「ピロリ菌=除菌」の流れのようですね。20人の読者様は大丈夫ですか?
註0:ヘリコバクターピロリ、Helicobacter pylori。らせん状のカンピロバクター目の真正細菌、ヒトの胃に棲む。
註1:早期発見や早期治療が進んだため、胃ガンのための死亡は減少してるが、悪性癌の発病率としては全体の2位。
註2:ヒトパピロマウイルスがどうして咽頭にたどり着くのかは、想像すれは分かるよな。
註3:胃の中は胃酸、つまり塩酸のため殺菌作用があり、細菌にとっては劣悪な環境であるため生息できないと考えられた。
註4:「見えないモノは否定する」西洋の考え方そのものだな。適当な器具がなかったり、向こうを向いていたり、単に見る能力がなかったりするのだけど。
註5:たった30年前の話ですよ。
註6:これらの発見のより、オーストラリアの研究者達は2005年のノーベル医学賞を受賞している。
註7:ピロリ菌だけが胃ガンの原因ではないが、重要であることには間違いないであろう。
註8:これら以外に「胃MALTリンパ腫」、「突発性血小板減少性紫斑病」、「早期胃癌内視鏡手術」が適応。
註9:日本人が胃癌になりやすいのは、菌の毒性とそれに対する個人の反応(遺伝子が関与)と毒性の強い菌株が多いことが挙げられている。それとやっぱり、ストレスも多いのではないのですかね?