死体識別には有効だよな。

By: Kazusei Akiyama, MD


2013年02月

今月のひとりごと:『死体識別には有効だよな。』

いきなりギョッとするひとりごとでしょうか?なにが有効かというと、「入れ墨」です。肌の露出が多い夏とカーニバルならではのひとりごとです。そうです、最近日本を含め入れ墨をする人が増えています。ブラジルでは特にここ10年間で爆発的に増えた感じです。茶髪解禁、ピアス解禁、ヘア解禁などがあったように、入れ墨解禁になったのでしょう。「タトゥー」と呼び方を変えれば、ファッション性が出てくるらしいです。

『入れ墨もタトゥーも本質的に同じモノだな。要するに皮膚を傷つけ、そこに色素を入れて着色する技術である。特に日本の技は高度な水準とされる。そのためわざわざ和彫りという名称があるが、和か洋は単に入れ墨のデザインで分類される(註1)。和彫りは日本の暴力団構成員が好むデザインだな。洋彫りはなんか描画がごちゃごちゃしていることが多いように見える。』

入れ墨の目的は「識別」(註2)「刑罰」(註3)「ファッション」(註4)などですが、実は医学的用途もあるのです。皮膚病の一種でvitiligo、尋常性白斑(註5)がありますが、これがとても難治で、投薬や紫外線照射などが効かない場合、患部に正常の皮膚色を入れ墨するのが一つの治療法です。医学では唯一入れ墨が役立つ場面です。その他に医学で入れ墨が出てくるのは、「除去手術」と「検査に関与」です。筆者のような一般内科では後者が重要ですね。一番怖いのがMRI検査です。MRIは強力な磁場を利用した検査器機のため、金属性の物質が影響を受けます。例えば心臓ペースメーカや血管手術の金属クリップは磁力で移動してしまうので検査できません。入れ墨の場合、色素に酸化鉄などの金属が含まれると火傷や痛み(註6)(註7)、変色などのトラブルになることがあります。ので、検査が必要な場合入れ墨があるかどうか把握しないといけません。実際には入れ墨部分を冷却しながら検査をするのですが、できないこともあります(註8)。

『アートだかファッションだか反社会性行為だか人それぞれの好みがあるが、ブラジルで覧る入れ墨で美しいなと思うものは今まで出会ったことはないぞ。梵字、漢字、カタカナなども入れたがるのも特徴だと思う。それでいい加減な知識で入れるのが多いので、とんでもない意味のものや意味不明の入れ墨になってしまってたりして、バカ丸出しが結構あるぞ(註9)。医者としての意見は今回のひとりごと、「死体識別には有用」だな。バラバラ死体になった場合、入れ墨でだれか判明した例も多数あるぞ。かと言って、お勧めしませんが。』


1: 伝統的な日本式は手彫りのため、手彫りが和彫り、機械彫りが洋彫りと分類されることがあるがこれは誤りだな。

2: 囚人や軍人の個体識別、組織帰属など。

3: 中国の五刑の一つや江戸時代の刑罰など

4: 皮膚にアートや永久メイクなど美容目的。

5: 皮膚色素が不規則に損失する慢性皮膚疾患。自己免疫疾患の一種。

6: 金属片がある物を電子レンジに入れると、バチバチと発火するのと同じだな。註7: 金属粉の入ったメイクなども危険だぞ。

註8: もう一つの関与の例は皮膚が入れ墨だらけで、採血する時に血管が見えない。また、感染症、特にC型肝炎のリスクが高くなるとされる。

註9: hanzi smatterというブログに多数例あり。爆笑できます。