By: Kazusei Akiyama, MD
2012年06月
今月のひとりごと:『糖尿病を考えるのに良い機会なのだな』
最近の一般刊行物の健康のページなどで、日本の糖尿病に関連する検査の基準値が変わった話を多数みます。HbA1cと表記される検査で、正式な名称は「ヘモグロビンエーワンシー」です。「グリコヘモグロビン(註1)」と呼ばれることもあります。糖尿病はこれからどんどん増える病気です。この話題をきっかけに20人(註2)の読者様のご関心をひけたら幸いです。
HbA1cは血糖値を評価するのに使用されます。絶対値としての数値である血糖値は採血時の状況で「空腹時血糖」と「随時血糖」に分類されます。つまり、空腹であるかないか、何時間空腹かによって数値が変わります。その反面、HbA1cは採血から過去約2ヶ月くらいの血糖値の平均を反映する検査なので、採血直前の食事の有無の影響を受けません。
『暴飲暴食した直後や体調不調時の採血で血糖値が上がったとしても、HbA1cが高くなければ、一過性のものだとわかるのだな。反対に普段から生活態度が悪く、血糖値が高い輩が検査前の数日間食事などの改善をして血糖値が正常範囲になっても、HbA1cは低くならない。ばれる。』
基準値が変わったのは、つまるとことろ日本で使われていた基準値と海外(米国)で使われていた基準値が異なっていたため、検査結果の評価に誤解が生じたり、国際共同治験をするのに問題があったりしたからとされてます(註3)(註4)。おおざっぱにいうと日本の基準は”海外”とくらべ数値が約0.4%低かったので、この分引き上げがあったのです(表1)。これで患者さんのデータの数値が上がる訳ですが、基準値自体も引き上げがあったので、この措置により診断数が増えるということではないはずです。但しこれは学会の基準の変更であり、各医療機関がそれを採用するかは異論がでてます(註5)。
『基準値というものはそれをサンプリングした人口に由来するものであるから、どちらが正しいとかそういった問題ではない。筆者が注目するのはデータを同調することによって研究の比較が容易になる面以上に、新薬の開発や市場に出す時の学術的データの裏付けをするためではないかと思う。日本市場に外国で開発された糖尿病治療薬が入りやすくなるのだな。日本人は欧米人と体格や代謝能力が違うので、はたして正しい比較になるのであろうか?新基準をみていると、米国人に比べ、日本人のほうが糖代謝がさほど高くないことがわかる(註6)。いずれにしても現時点で確実にいえるのは、日本人種が欧米化した食生活を進めると、確実に糖尿病になることだな(註7)。』
註1:正確にはHbA1cはグリコヘモグロビンの一種である。
註2:そうなのです、読者様が一人増えました。減ったり、増えたり。平均して20人前後がこのコラムの愛読者様なのでしょうね。たぶん。
註3:くわしく言うと国際基準とはこの場合NGSP値のことで、日本基準はJDS値と呼ばれる。本当の意味での国際基準としてはIFCC値と呼ばれるコンセンサスがあるが、定着していない。ネットで検索するとさらに詳しい情報があります。興味のあるかたはどーぞ。
註4:ちなみにブラジルでもほとんどの検査機関で米国基準が使用されている。
註5:主に表記や報告システムの変更に関するコスト面でもめている。
註6:HbA1cは平均的な血糖値を表す、したがって、高いと血糖値がいつも「高め」であること、つまり、代謝能力が低いことを意味する。
註7:ブラジルのサンパウロ州バウル市で行われている日系1世と2世を対象にした長期疫学調査ですでにでているデータとして、40歳以上の男性の2型糖尿病とその予備群の有病率は40%以上あり(ほとんど半数ですよ!)、発病リスクは同世代の日本在住の邦人とくらべ約7倍たかい!