ポリオには予防接種が圧倒的に効果ありだぞ!

By: Kazusei Akiyama, MD


2011年11月

今月のひとりごと:「ポリオには予防接種が圧倒的に効果ありだぞ!」

毎年10月にWorld Polio Dayなるものが存在することは皆さんご存じでしょうか?ポリオとは急性灰白髄炎(poliomyelitis、脊髄性小児麻痺)つまり「小児麻痺」と呼ばれるウイルス性疾患です(註1)。根治的な治療はく、後遺症が残ると、一生障害者になる病気です。そのため、世界的に根絶をめざす感染症の一つに挙げられおり、ここ約20年で発症例が99%減少している事実をみると根絶事業はかなり成功していると言ってもよいのではないかと思います(註2)。その反面、日常では予防接種カレンダーの一部とぐらいにしか思い出さないため、 「まだあるぞ」を強化するためのポリオデーなのです(註3)。

1950年代、1960年代には先進国で大流行していたポリオが今や日本のニュースにあがるのは、来年度から(日本国の場合)不活性ワクチンが認可されるため、生ワクチンの「接種控え」するケースが出てきたり、行政単位で混乱した情報がでたりで、いきなり、「生ワクチンは怖い」世論になってきた感があるぞ。ポリオワクチンは2種類ある。経口生ポリオワクチン(OPVOral Polio Vaccine、ブラジルではSabinと呼ばれることが多い)と不活性ポリオワクチン(IPVInactivated Polio Vaccine、ブラジルではSalkと呼ばれることが多い)であるが、どちらも1950年代に米国で開発されたワクチンである。後者のほうが先に認可・使用開始された。OPVは弱毒性の生ウイルスを経口で飲み込むため、接種者とその家族の感染例(註4)があるのでIPVより安全性が低いと評価されたのだな。ところが感染を起こさない安全とされるIPVはポリオの重症化(後遺症を残す)を軽減する効果はあるが、対人感染(流行)を防ぐ力がないことが判明した(註5)。そのため、国家政策レベルの接種事業ではOPVが使われるようになった。これには、接種しやすい(経口1滴である)、安価であることも幸いした。いまさら怖いと言われるOPVのおかげで根絶近くまできたのに

実際普段の生活をしていると、流行性のポリオに罹患する可能性はほどんど無い世の中になってきました。そのため、IPVがブラジルも含め(註6)世界的な流れであることは間違いないでしょう。簡単にいうと、流行感染に対して予防をするのではなく、万一感染した時に重症化しないための予防です。昨今のSARSやブタインフルの様に、現在は航空機でアットいう間に感染症が広がる世の中です。IPVが出来ないからといって、OPVの接種控えはよくありません。メディアの情報に流されないように注意したいものです。当地に来られている子供さんにはIPV接種は可能です。かかりつけ医に相談してみてください。

 

1:ピコルナウイルスの一種。感染することにより、脊椎の灰白質が炎症を起こす。後遺症として、下肢に左右非対称性の弛緩性麻痺が残ることが多い(0.05%くらい)。1~2週間の潜伏期間後、風邪・急性胃腸炎(腸風邪)のような症状が現れ、熱が下がった後、弛緩性麻痺が起きる(1%くらい)。呼吸に関する神経が冒されると死亡する危険がある。

2 現在ポリオがあるのは世界で4カ国のみ:インド、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリア。

3:根絶とは「無くす」ことであり、「減らす」ことではない。例が天然痘。感染力がつよい病原菌の場合、根絶せずに自然界に残ると、いくらでも増殖する。

4:ポリオウイルスは腸内で増殖するので接触者は接種者の排便に触れることによって感染する可能性がある。

5:腸内感染を予防出来ないので排便により流行を維持してしまう。

6:ブラジルではIPVは認可済みであるが、民間医療機関で使用。キャンペーンはOPV使用であるが、来年からIPVに移行する。